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王位継承──ヨーロッパで何が議論されたのか

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ヨーロッパでは、20世紀後半から王位継承法が変わり、女王容認、絶対的長子相続への変更が進みました。これらの動きに呼応して、日本でも女性天皇容認、女系継承容認論が唱えられていますが…
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参考にならないヨーロッパの「女帝論議」──女王・女系継承容認の前提が異なる(「神社新報」平成18年12月18日号から)

参考にならないヨーロッパの「女帝論議」──女王・女系継承容認の前提が異なる(「神社新報」平成18年12月18日号から)

 スペイン王室は(平成18年)11月末、レティシア王太子妃が来春に出産する予定の第2子が「女子である」と発表しました。もし男子なら、「男子優先」を定める憲法の規定により、第1子のレオノール王女の王位継承権を「飛び越す」ことになるため、懐妊発表後から女帝論議が白熱化していた。そこで論議の加熱を防ぐため、誕生前の性別発表に踏み切った、と伝えられます。

 新聞報道によると、世界中で女帝容認論議が起きて

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「男女平等」か「ジェンダー平等」か──イギリス王位継承ルール変更の「パンドラの箱」(令和6年5月31日)

「男女平等」か「ジェンダー平等」か──イギリス王位継承ルール変更の「パンドラの箱」(令和6年5月31日)

2013年イギリス王位継承法は、「王位継承をジェンダーによらない(not depend on gender)ものとし、王族の婚姻に関する規定を設ける等の法律」という長文題名がついているように、「ジェンダー平等」を明確に謳っている。〈https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2013/20/enacted

ところが、以前、紹介した河島太朗・国会図書館主任調査員の翻

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男子優先の王位継承ルールとは何だったのか? 歴史的検証が微塵も見当たらないイギリス下院特別委員会議事録(令和6年5月29日)

男子優先の王位継承ルールとは何だったのか? 歴史的検証が微塵も見当たらないイギリス下院特別委員会議事録(令和6年5月29日)

イギリス下院の政治・憲法改革特別委員会は2011年、王位継承ルールの変更について検討し、同年暮れに報告書をまとめた。その内容は、①男子優先から絶対的長子継承へと変更し、②カトリック排除の規定を廃止することを歓迎するというものである。

興味深いのは、すでに書いたように、報告書本文を読むかぎり、男系主義で続いてきた王位継承の意義について検証した形跡がないことだ。王位、王権、王朝の意味や男系主義との関

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王位継承ルールの「変更」を検討したイギリス下院特別委員会報告書──伝統主義を捨てたのか(令和6年5月19日)

王位継承ルールの「変更」を検討したイギリス下院特別委員会報告書──伝統主義を捨てたのか(令和6年5月19日)

イギリス下院の政治・憲法改正特別委員会(Political and Constitutional Reform Committee)は2011年、政府(キャメロン内閣)が提案する王位継承ルールの変更を検討し、報告書をまとめた。委員会で何がどのように議論されたのか、あるいは議論されなかったのか、同年12月に発行された報告書をもとに、概要を以下、紹介する。

委員会のメンバーはグラハム・アレン議員(議

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「王朝の支配」を吟味しないブラックバーン教授の調査報告書(令和6年5年15日)

「王朝の支配」を吟味しないブラックバーン教授の調査報告書(令和6年5年15日)

イギリス下院の政治・憲法改革特別委員会の報告書「Rules of Royal Succession, Eleventh Report of Session 2010–12」(2011年12月)に、ブラックバーン教授(キングズ・カレッジ・ロンドン。憲法学)の調査報告書(同年11月)が載っている。

同年10月のパース協定(Perth Agreement)以後、イギリス国内では王位継承に関して、どのよ

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パース協定の中身──イギリス下院の報告書から(令和6年5月14日)

パース協定の中身──イギリス下院の報告書から(令和6年5月14日)

河島太朗・国会図書館主任調査員のリポート「イギリスにおける王位継承法の制定」(2013年12月)は、「オーストラリアのパースで行われた英連邦諸国首脳会議の2011年10月28日の会合では、16の全領国の首相が①男子優先の王位継承を止めること、②ローマ・カトリック教徒と婚姻をした者に関する王位継承の欠格条項を撤廃すること(後述)の2原則で合意に達した」と記している。
https://dl.ndl.

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キャメロン首相はゲイ・コミュニティに訴えた──ピンクニュースを読む(2024年4月24日)

キャメロン首相はゲイ・コミュニティに訴えた──ピンクニュースを読む(2024年4月24日)

イギリスに、LGBT+コミュニティ向けのオンライン新聞、ピンクニュース(PinkNews)がある。設立は2005年。月間1億5千万人以上がアクセスする、世界最大かつ、もっとも影響力を持つメディアを自認している。

ピンクニュースで「David Cameron」を検索すると、2389件(4月23日現在)の記事がヒットする。そのなかのいくつかを読んでみると、創刊以来、ゲイ・コミュニティがキャメロンを熱

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パース協定──男子優先の王位継承を改めることに合意(2024年4月21日)

パース協定──男子優先の王位継承を改めることに合意(2024年4月21日)

国会図書館の河野太朗・主任調査員によれば、イギリスでは労働党のブレア政権以後、男女平等の王位継承を実現する法案が議員立法で、数度にわたり提出されたが、ブレア政権は改革を支持しなかった。実益が乏しいという判断からだった。

しかし、次のブラウン政権(労働党)になると、改革に必要な英連邦諸国との協議を開始することに積極的気運が生まれた。さらに、2011年4月にウイリアム王子が結婚すると、王位継承への関

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キャメロン首相の書簡──最高位の公職で男性優位は「異常」(2024年4月20日)

キャメロン首相の書簡──最高位の公職で男性優位は「異常」(2024年4月20日)

イギリスの2013年王位継承法は、ジェンダーによらない王位継承を定めている。以前は男子優先だったが、絶対的長子優先に変わった。

ルール変更の直接的契機となったのは、国会図書館調査及び立法考査局の主任調査員・河野太朗氏によると、デーヴィッド・キャメロン首相(保守党)が、英連邦諸国首脳に王位継承関係の法規範の変更を提案する書簡を、2011年9月末に送付したことだった。〈https://dl.ndl.

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2013年イギリス王位継承法を読む──国会図書館・河島太朗調査員の翻訳(2024年4月19日)

2013年イギリス王位継承法を読む──国会図書館・河島太朗調査員の翻訳(2024年4月19日)

イギリスは、従来、男子優先としてきた王位継承のルールを、性別によらない長子継承に改めた。すなわち、2013年王位継承法である。

イギリスは誤った選択をしたのではないかと私は思うのだが、結論をいう前に、まずは2013年王位継承法を読んでみたい。

幸い、国会図書館の主任調査官・河島太朗氏による翻訳が公開されているので、ここに紹介する。河島氏には心から感謝する。なお原文はイギリス政府のサイト〈leg

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国会審議に無用の混乱を招く「国会図書館」調査員の皇位継承論(2020年06月07日)

国会審議に無用の混乱を招く「国会図書館」調査員の皇位継承論(2020年06月07日)

古来、皇位は男系男子によって継承されてきました。しかし平成8年以後、政府・宮内庁は女性天皇のみならず、過去の歴史にない女系継承容認に一気に舵を切りました。それから20余年、いまや女性天皇容認が国民の85%を占めるともいわれます。

古来、なぜ男系主義だったのか、なぜいま女系継承容認なのか。答えを得るため、前々回までは『帝室制度史 第3巻』(帝国学士院編纂。昭和14年)を読みましたが、神勅と歴史以外

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大変革のときを迎えたイギリス王室──男女平等継承どころではない(2011年10月15日)

大変革のときを迎えたイギリス王室──男女平等継承どころではない(2011年10月15日)

 報道によると、イギリスのキャメロン首相は、イギリスの王位継承の制度を男子優先から長子優先に変更する手続きに着手したと伝えられます。
http://www.47news.jp/CN/201110/CN2011101301000073.html

 1701年制定の王位継承法は男子優先を定めていますが、これを改正するには、イギリス国会で改正を進めるだけでなく、イギリス国王を元首といただくイギリス連邦

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