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キャメロン首相の書簡──最高位の公職で男性優位は「異常」(2024年4月20日)


イギリスの2013年王位継承法は、ジェンダーによらない王位継承を定めている。以前は男子優先だったが、絶対的長子優先に変わった。

ルール変更の直接的契機となったのは、国会図書館調査及び立法考査局の主任調査員・河野太朗氏によると、デーヴィッド・キャメロン首相(保守党)が、英連邦諸国首脳に王位継承関係の法規範の変更を提案する書簡を、2011年9月末に送付したことだった。〈https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8382748_po_02580003.pdf?contentNo=1〉

河野氏によると、この書簡は公表されていない。

しかし当時の報道によると、首相は書簡で、「私たちは生活の他のすべての側面において男女平等を支持しているが、最高位の公職に関する規定で男性の優位性を謳い続けるのは異常だ。(We espouse gender equality in all other aspects of life and it is an anomaly that in the rules relating to the highest public office we continue to enshrine male superiority.)」と述べたとされる。
(ザ・ガーディアン。パトリック・ウィンター記者。2011年10月12日。https://www.theguardian.com/uk/2011/oct/12/cameron-commonwealth-royal-succession-reform)

「男女平等(equality of the sexes)」ではなく「ジェンダー平等(gender equality)」と表現されている点に注目したい。

また、BBCが「この変更は、ケンブリッジ公爵夫妻の長女が女王になる可能性があることを意味する。(The change would mean a first-born daughter of the Duke and Duchess of Cambridge could become Queen.)」と伝えていたことも忘れてはならないだろう。

この年の4月、ウイリアム王子が結婚し、エリザベス2世によってケンブリッジ公爵と叙爵されていた。王子の結婚は王位継承ルールの変更を否応なしに求めていた。

というのも、これは河野氏のリポートには言及がないが、すでにイギリスの伝統的王位継承ルールは崩れていたからだ。

憲法学者の小嶋和司・東北大学教授(故人)が指摘していたように、イギリスの王位継承には、①王族同士の婚姻(父母の同等婚)、②女王継承後の王朝交替という二大原則があった(『小嶋和司憲法論集 2 憲法と政治機構』)。

けれども、この原則がチャールズ皇太子(チャールズ3世)の一般人女性との再婚以降、失われている。ウイリアム王子の婚姻も、お相手は王族ではない。

かつてのイギリス王室では二大原則が固守された。だから、アメリカ人女性と恋に落ちたエドワード8世が大騒動ののち、退位を余儀なくされたのだろう。「王冠を賭けた恋」といわれる。

しかし今回はどれほどの議論があったのだろうか? 一昨年の秋、エリザベス2世が崩御したのち、チャールズ3世が王位を継承したが、王朝が変更されたとは寡聞にして知らない。二大原則はすでに崩壊している。

キャメロン首相は、Wikipediaによると、かつては同性愛者の権利に反対の立場だったらしい。ところが、君子豹変、どういう理由か、2005年以降は立場を180度変え、やがて保守党内で同性婚支持の促進を促すようになったという。

そんななかで、王位継承ルールの変更は進められたのである。

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