酷い時代

戦国時代の屍の海も今では血肉骨を感じさせないただの土地になっている
いまここにある苦しみもわたしがいなくなった後はないのと同じことになっている
過去と現在の比較は難しい
その二つはプログラミング風に言うと型違いで、キャストする関数も標準で未定義に思える
だから皆が自分の実装を持っている
わたしの出力はこうだ
今は酷い時代だ

歴史
変えられないもの
その上に立っている
かつての処理が甘かったから手ぬるかったから
或いは横槍や差金があったからこうなった
米津玄師の歌詞を思い出す
「こんな具合になったのは誰のおかげだろうか」
「せい」とは言わない
「おかげ」と敢えて言う
決してその前の詞で肯定的な事は並べ立てていないけれど

今は酷い時代だ
技術の進歩は問題を解決する一方で新たな問題を生んだ
バグをフィックスすれば思っても見ないところで不都合が生じるコードのよう

問題が露見しやすく単純な時代より寧ろ、却って今の方が酷いと感じるのだ
発見されづらい致命的な不具合やバグは静かにこの世界に横たわっている
いくつも
そして広範な範囲で
複雑に
槍や鉈で命のやりとりをしない代わりに、銃弾を撃ち込まれる心配がない代わりに、そこら中に半透明で不気味な怪物が潜んでいて、人々をそうと気づかれないように少しずつ、少しずつ蝕んでいる

今は酷い時代だ
そしてそれはとても主観的なものだ

いつの時代も、どんな世相でも、恵まれている人間はおり、それを自覚しているものもあればそうでないものもある
自覚した上ですっとぼけるものがある
恵まれたものには悪い時代に思えないかもしれない
それでも断っておかなければならない
この感覚は決して全てを時代のおかげにしてるというわけではないんだよ

同じ時代にいても、見えてる景色は違う
今も世界から暴力を受け殺されかけている人のすぐそばに、世界から祝福を受け甘やかされている人が笑っている
それはいつの時代も変わらないだろうが、昔はそれが分かりやすかったから羨ましいんだよ

今はありもしないのにあるとされているルールの上で、ルールがあると思える人間だけが居心地のいい世界だからね

複雑怪奇で難解、確証を得られないように幾重にも隠蔽された奥底にある邪悪が、静かに外れくじを食い殺すことを、誰も気づかない
或いは、みんながそれを暗黙に了解している
又はその悲鳴をおとぎ話であるとみんなが騙されているのか
いずれにせよ、解決しない

わたしも血塗れのパスポートが欲しかった
選択の瞬間などなかったけれど


いいえ
きっと血塗れになるほどに加担して迎合してパスポートを手に入れ亡命したところで、そこもどうせ支配構造の入れ子先が変わるだけで、何をしても、いつまで経っても、最も外側の構造には至れはしないんだよ

この世界に一人として全てを知る人間がいないように、もしかしたら最も外側の構造には誰も至れない袋小路が、今の時代なのかもしれない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?