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〈前編〉次世代に伝えたい旅 ~日本が誇る世界自然遺産~

想像を超えるスケール感、奇跡的な絶景と豊かな生態系。
日本はもちろん世界が誇る「世界自然遺産」を旅することは、自然への意識や行動をアップデートするきっかけになる。
その極意を海外旅行地理博士の小林克己氏に指南してもらった。

※この記事は前編です。後編はコチラ

Text:Kumiko Suzuki,Natsuko Sugawara
表紙写真:屋久島 仏陀杉


小林 克己(こばやし かつみ)海外旅行地理博士
早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒。海外旅行地理博士。日本旅行記者クラブ会員、総合旅行業務取扱管理者。世界遺産をはじめ、グルメや鉄道、温泉などをテーマに国内外の旅の指南本を著述。著書に『誰も知らないとっておきの世界遺産ベスト100 』(SBクリエイティブ)ほか多数。

屋久島 白谷雲水峡

◆手つかずの自然を愛でながら
 地球の原風景を散策する

旅にはさまざまな目的地がある。

一生に一度は行ってみたいと思わせる目的地、それが世界自然遺産だ。
サステナブル志向が高まり、知的好奇心を満たす旅が注目を集めている今だからこそ〝行くべき理由〞がそこにある。

そう指摘するのは小林克己氏だ。
これまでに約400ヵ所もの世界遺産を旅した経験を持つ、まさに旅の達人。
まずは、世界自然遺産とはどんなものか、どんな定義があるのかを紐解いてもらった。

「世界自然遺産は『文化遺産』、『複合遺産』を含む世界遺産の分類のひとつで、2022年現在で218件が登録されています。総数1154件の約19%ですから、全体的に見るとちょっと少ない印象ですね」

「登録されるためには、4つの評価基準『自然美』『地形・地質』『生態系』『生物多様性』のいずれかを満たす必要があります」

希少な生態系を感じられる
日本の自然遺産

政府や国際機関による厳しい審査を経て登録された自然遺産は、世界中に点在しており、日本には現在5ヵ所。

1993年に「白神山地」と「屋久島」が登録されたのを皮切りに、2005年に「知床」、11年には「小笠原諸島」、そして21年には「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が登録された。
いずれも日本らしい魅力を秘めている。

「日本の場合は、原生林や森、山などの美しい自然と、動物や植物など希少な生態系の宝庫であることが大きな特徴かもしれません」

「海外の自然遺産に比べるとスケールはやや小さく感じられるかもしれませんが、狭い日本にもまだこんなにすごい場所があったんだと、心が動かされる場所ばかりですよ」

具体的な魅力を訊ねると、白神山地と屋久島を例に挙げて説明してくれた。

「青森県と秋田県にまたがる白神山地は、世界最大級のブナの原生林が見所です。
自然を保護するために入山が制限されている世界自然遺産地域と気軽にブナの森と触れ合える緩衝地域に分かれていて、緩衝地域でもトレッキングができる遊歩道などがあり十分楽しめます」

ブナの原生林を抜けた先にある落差42mもの暗門の滝。
©yankane


続けて屋久島の魅力については、こう解説してくれる。

「屋久島は鹿児島県の海上に浮かぶ島で、ほぼ全体が1000m級の高峰群のため洋上アルプスとも呼ばれています。
『ひと月に35日雨が降る』と言われるほど雨が多く、それが樹齢何百年、何千年という屋久杉を育みました。ここも、実際に歩かないと見ることができない自然遺産です」

とはいえ、スケールの大きな自然だからこそ、思いがけない場面に遭遇することもあるという。

「以前、屋久島でちょっと驚くことがありました。
下山途中に雨が降ってきたのですが、登山道か脇の小川に流れる水なのか、雨なのかわからないほど水量が多かった。
軽装で30余りの『日本百名山』を登っても何もなかったからと、甘く見てしまいました」

慣れていると思っていても相手は大自然。ロケーションや天候など十分に下調べをしたうえで装備することが、自然遺産と触れ合う秘訣のようだ。

世界の自然遺産を旅する、
美しい自然と未来を見つめる

アメリカ3州にまたがる世界最古の国立公園「イエローストーン国立公園」。
圧倒的な数と規模の間欠泉や、青く透明な温泉池(プール)が見られる。
©tiny-al

日本には日本の自然の美しさがあるように、海外もしかり。

アジア、アメリカ、ヨーロッパなど世界中に点在する世界自然遺産のなかで、特に小林氏がおすすめするのがアメリカでも有名な「イエローストーン国立公園」だ。

「1978年、世界遺産として最初に登録された12件(自然遺産は4件)のひとつで、『グランドキャニオン国立公園』『ヨセミテ国立公園』とともにアメリカ三大公園と言われています。
火山地帯のため地球上の温泉の半分、間欠泉の3分の2に相当するなど、あらゆる温泉現象が見られる世界最大の温泉地帯。温泉は日本が有名だと思っていましたが、ここもとても美しくて印象に残っています。ハイイログマやヘラジカなど、希少な野生動物を見ることもできますよ」

ほかにおすすめとして挙げてくれたのは、赤道直下に位置し固有種の生態系に出合えるエクアドルの「ガラパゴス諸島」、世界屈指の高峰が連なるネパールの「サガルマータ国立公園」、さらに透きとおった階段状の湖沼群が美しい中国の「九寨溝」など、枚挙に暇がないほど。

また、イタリアの「エトナ山」やスペインの「テイデ国立公園」では、バスとロープウェイを乗り継いで山頂近くまで登ることができる。歩くことなく、日本では味わえない雄大な自然に出合えるのだそう。

このような、かけがえのない原風景を次世代に受け継ぐために、われわれが今できることは何だろうか。

「昨今、旅についてもサステナブルとか持続可能な、という言葉が叫ばれています。自然はそのときどきの環境に左右され、保護しないと破壊されてしまう。
だからこそ、環境に対して負荷が少ない列車の旅が好ましいと考えています。車窓からの景色も楽しみつつ、自然に触れる旅がおすすめですね」

また、インターネットなどで手軽に自然遺産の写真などを目にすることができるが、やはり現地に行くのと行かないのでは、大きな違いがあるという。

「これから旅を始めるのなら、まずは日本の自然遺産から触れてみてはいかがでしょうか。
国内を制覇したら、次に韓国や中国など近隣へ旅してみる。
もちろん時間があればヨーロッパへも行ってみてほしいですね。いろんな自然遺産を散策して、普段はできない〝贅沢な海外散歩〞を楽しんでみてください」

※インタビューの情報は2023年10月1日現在のものとなります。

◆〈番外編〉
 世界遺産の “卵″?

世界遺産には「暫定リスト」というものがあるのをご存じでしょうか?

世界遺産に正式に登録される前に、国内で推薦する候補地を一覧にしてユネスコ(国際連合教育科学文化機関)に提出する義務があるそう。
それが暫定リスト。
つまり、リストに挙げられた地域は世界遺産の “卵″のようなものです。

「現在、国内では自然遺産の暫定リストに入っている候補地はありませんが、暫定リスト入りが有力視されている場所が4ヵ所あります。
北からご紹介すると、

 ●大雪山(北海道)
 ●日高山脈(北海道)
 ●新潟・福島・山形の飯豊・朝日連峰
 ●九州中央山地周辺の照葉樹林

どの地域も自然の保存状態が良好で、希少性のある景観が美しい。
近い将来、暫定リスト入りして自然遺産に登録される可能性が高いでしょう」(小林克己さん)

海外旅行地理博士・小林克己さんによると、実は、この暫定リストに入っている場所や、暫定リスト入りが検討されている場所が旅の ”穴場″なのだそう。

「自然遺産に登録されると一気に注目を浴びて観光客も押し寄せます。
自然保護の観点から観光客の人数を制限する場合もあるので、登録される前に行っておいたほうが絶対にいい。

4ヵ所の候補地の中でも、私がぜひ訪れてほしいと思うのが大雪山ですね。健脚なら旭岳から黒岳まで縦走する登山コースがおすすめですが、ロープウェイでも中腹まで行けるので誰でも山深い景色が楽しめます。特に高山植物のキバナシャクナゲが咲き誇る様はすばらしい」(小林克己さん)

登録済みの世界遺産だけでなく、暫定リストやその候補地を次回の旅のデスティネーションとして検討するのも、賢い方法かもしれません。


「海外旅行地理博士」って?

今回、お話を伺った小林克己さんに、「海外旅行地理博士」について教えていただきました!
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「海外旅行地理博士」の称号は1995年~2019年まで。

年2回行われた民間の検定資格(1~4級)の1級の最高得点者(複数もあり)に与えられたものです。国内は「国内旅行地理博士」です。

2020年からは等級が初級・中級・上級と変わり、上級の最高得点者が「世界旅行地理検定最高得点賞」(国内は「日本旅行地理検定最高得点賞」)と名称も変わっています。
現在はネットでの受験もできるようです。

※現在は「世界旅行地理検定最高得点賞」と変わっていますが、私がいただいた時は「海外旅行地理博士」の称号でしたので、それを記しました。


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