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時計の契約:第2章7時

7時:記憶の欠片

[颯空そらの世界]
じいちゃんが手招きしているのが見えた。光の粒子、幻想的な光、柔らかな雲、青々とした丘、穏やかな川の流れ、光と色彩の輝きに満ちた空間が広がっている。「待っていじいちゃん!!」必死にじいちゃんを追いかける。もうちょっとで届く、限りなく遠くまで手を伸ばした。その瞬間伸ばした腕は空中に浮かび、そのままソファーから転げ落ちた。「夢か。」と、腕を伸ばしたまま深いため息をついた。夢の中で届きそうだったけれど、まるで手が届かない場所にいるんだと思い知らされたようだった。

「兄さん、兄さんは眠りながら歩いてるんだね、きっと」そう言いながら時翔ときとが呆れた顔で二階から降りてきた。頭の中で鼓動が鳴り響き、思考が霧の中をさまようようだ。併せて体中が痛む。自分の部屋で寝たのに気付けばソファーだった。
「そうみたい」そう答えた。時計は朝7時だった。母さんが父さんを会社まで送って帰って来る時間だ。
「母さんもうすぐ帰ってくるから、先にシャワー浴びてきなよ」
時翔が急かす。
「そうする(笑)」なぜだか時翔の顔見ると嬉しくなった。なんでだっけ。

その時、ドスンという音が響いて振り返ると、時翔が持っていた本を落としていた。
「兄さんが、笑ってる・・・」そう言って、リビングの隅のじいちゃんの写真と俺を交互に見た。そうか、俺はじいちゃんが死んでしまってから笑えなくなったんだ。その姿に思いを馳せていると、時翔が声をかけてきた。
「もしかして、今日も誕生日だと思ってる?」心配そうにのぞき込んできた。誕生日だけはじいちゃんがそばにいるようで笑えたんだった。
「そうみたい」昨日は俺の誕生日であり、じいちゃんの命日でもある。やっと”俺”の記憶が戻ってきたような感覚だ。母さんが帰ってきた。

「おはよー。あんたたち今日は早いわね。颯空そらここで寝てたの?風邪ひくじゃない。時翔はまた本ばっかり読んで、ちゃんと寝たの?」母さんの早口に返事も早々に二人は顔を合わせ、いたずらっこのような顔でリビングを後にした。そんな二人を母さんは笑ってみていた。

シャワーを浴びた後、なんとなく時翔の部屋へ寄った。コンコンと軽くノックすると、少し眠そうな顔をした時翔がドアを開けた。
「一緒にゲームしないかなって思って」と提案すると、時翔はまた呆れた顔をしていた。
「兄さん、昨日の夜遅くまで一緒にゲームしたから今日は勉強するねって言ったよね?」ムスっとした顔の時翔がまた可愛くて仕方なく感じる。なんでだっけ。

「しゃべらないから一緒にいてもいい?」と聞くと
「兄さん、さすがに気持ち悪いよ」と、普通に引いていた。その姿さえも愛おしく感じている自分がなんだか怖く感じた。だが、「ちょっとならいいよ」とつぶやいた事は聞き逃さなかった。弟は、ツンデレだった。


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