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時計の契約:第5章24時

24時:再び

眩しい光が部屋全体を包み込む、必死で目を開くが目の前がチカチカする。ようやく目が慣れた時には、じいちゃんが目の前にいた。「よく頑張ったなぁ。えらいぞ颯空そらぁ、元気でおるんじゃぞぉ」じいちゃんはそう言ってニコニコ笑っている。だけどその姿はどんどん遠くなっていき「待っていじいちゃん!!」必死にじいちゃんに手を伸ばす。もうちょっとで届く、限りなく遠くまで手を伸ばした。その瞬間、伸ばした腕は空中に浮かび、そのままソファーから転げ落ちた。
「夢か。」
腕を伸ばしたまま、深いため息をついた。夢の中で届きそうだったけれど、まるで手が届かない場所にいるんだと思い知らされたようだった。

「兄さん、兄さんは眠りながら歩いてるんだね、きっと」そう言いながら時翔ときとが呆れた顔で二階から降りてきた。ひどい頭痛がする。併せて体中が痛い。昨日の記憶が全く思い出せない。自分の部屋で寝たのに気付けばソファーだ。
「そうみたい」
そう答えた。時計は夜の0時だった。父さんがそろそろ帰ってくる時間だ。
「父さんもうすぐ帰って来るから、先にシャワー浴びてきなよ」
時翔が急かす。
「そうする(笑)」
なぜだか時翔の顔を見ると嬉しくなった。なんでだっけ。

ドスンという音が響いた。時翔が持っていた本を落とした。
「兄さんが、笑ってる・・・」
リビングの隅にはじいちゃんの写真が置いてある。そうか、じいちゃんが死んでしまってから笑えなくなったんだ。その姿に思いを馳せていると、時翔が聞いてきた。
「もしかして、今日も誕生日だと思ってる?」心配そうにのぞき込んできた。誕生日だけはじいちゃんがそばにいるようで笑えたんだった。
「そうみたい」昨日は俺の誕生日であり、じいちゃんの命日でもある。やっと”俺”の記憶が戻ってきたような感覚だった。

シャワーを浴びて部屋に戻り、窓を開け夜風にあたる。なんかとっても長い夢を見ていた気がした。さっきまで体中の痛みがあったが、今は不思議と軽くなっている。「にゃー」どこかで猫が鳴いた。なんだろう懐かしい感じがする。何か大切なことを忘れているような気にもなった。キラッと部屋の前に立っている木が光ったと同時に真っ黒い猫が部屋に飛んできた。「わぁ」思わず声が漏れた、そして慌てて抱きしめた。真っ黒な毛並みを持つ短毛の美しい猫だ。薄い黄色の目が俺をじっと見つめていた。立派なひげにピンと立ったしっぽ、夜風に耳が揺れ動いている。俺の声を聞いた時翔が部屋にやってきた。

「兄さんどうしたの?」床に倒れた俺と黒い猫に唖然としてたが、猫を見るなり普段見せない甘い声と緩んだ笑顔で猫を抱きかかえた。
「兄さん、猫飼うの?」
満面の笑みで聞いてきた。俺が答える間もなく
「名前はマレヴォルだね」
「え!?」
「兄さんが小さい時に言っていたでしょ?小さい時に家に連れて帰った黒猫の話覚えていない?」
猫もぐるぐる言いながら時翔に答えているようだ。
「すぐに居なくなっちゃったけど、マレヴォルって名前を付けたんだって。カッコイイだろって言ってたじゃん」
そうか、時翔は覚えていたんだね。猫を肩の上に乗せ、時翔が一冊の本を見せてくれた。それは古びた本で、表紙には錆びた金色の文字で「時の本」と描かれていた。その中心には時計が描かれ、その針はもうすぐ24時を差すところだった。何か夢の内容を思い出せそうで思い出せずにいた。


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