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詩 『カウントダウン』

作:悠冴紀

都合だ
結局すべてが都合なのだ

裏切られたとは思っていない
期待も信頼も元よりなかった

端から明白なことながら
政治や社会に良心などない
国家というものにも良心はない

人の寄せ集めで構成されていながら
それらは しかし 人ではない


対して国なき民は
あまりに不利で無防備な存在
逃げ延びる先々で迫害を知る

同情的に扱われるのは最初だけ
あとは長きにわたり地獄が続く

里を追われた人々を食い物にする
ハイエナどもの貧困ビジネス

最期の血の一滴までも利用し尽くされ
過酷を極める奴隷以下の搾取と差別

後ろ盾なき人々の辿る道は
いつの世もそうだ

ゆえに人は国家というよろいを必要とする
常に暴走のリスクをはらむ強固な鎧を

ほんの僅かな方向舵の狂いで
護る力が壊す暴力へ転じるリスク

過信の果てに 知らず知らず
それは往々にして方々で起こる

結局その繰り返しだ


我々の選択すること一つ一つが
いずれ我々自身に降りかかるだろう

皆本当はわかっている

やり方を間違えれば火に油
挙って仲良く滅びの途をたどるだろう

戦乱のカオスは人を獣に変えていく
攻める側も 攻め入られる側も
たちどころに人間性を失くすだろう
望むと望まざるとにかかわらず
強い弱いにもかかわらず

失うばかりの
尊厳なき世界

人間を亡ぼすのは
やはり結局人間なのか

だが今は一つだけ
これ以上の絶望を食い止めるものがある

今は誰も
無関心ではないという点

そうだ
その姿勢さえ見られるならば
あるいは私のような人間でさえ……


最後の岐路きろのようにも感じている

ここで選択を誤れば
おそらくもう後はない
急降下のカウントダウンだ

ただ恐ろしいのは
それを嘆かない自分もいる点

今だから打ち明けよう

約2年前
私が心密かに安堵を覚えたこと

ああ
こうして人類はついに終わり
この星が救われ楽になれるのだと

そのような時代に当たるとは
なんと相応しいフィナーレかと……

だから私には
人様に希望など語れない
誰の気休めにもなりはしない
あれが何よりもの本心だったのだから

腐っている
そうだ わかっている
ずっと以前から腐っていた

あまりに早くから見てしまった
人の世の 醜さ 汚さ おぞましさに
今更またしてもてられて
最後の一押しになる寸前だ

だからどうか食い止めてくれ
これ以上の絶望を

せめて示してくれ
今は誰も無関心ではないと

人類はそれなりに
学ぶべきことを学んできたのだと

こんな私でも
今一度
人の世の存続を願えるように……

**********

2022年3月作

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