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新しい時代の働き方に関する研究会 報告書

厚生労働省は有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」を新設し、報告書に向けた議論をつづけてきたが、2023年10月20日には報告書を公表し、その後、連合や全労連や日本労働弁護団が声明や談話をだしている。(10月26日に追記)


新しい時代の働き方に関する研究会 本日開催

第13回「新しい時代の働き方に関する研究会」(厚生労働省の有識者会議)が、本日(2023年8月31日)開催。議題は、「報告書に向けた議論」。

なお、前回(第12回、2023年8月10日)「新しい時代の働き方に関する研究会」資料1(資料のタイトルが記載されていないので第12回「資料1」と呼ぶが、この日の研究会議題は「中間整理」)には、「1、本研究会の契機となった経済社会の変化」「2、新しい時代に対応するための視点」「3、新しい時代に即した労働基準法制の方向性」「4、企業に期待すること 企業による健康確保に加え、働く人にも期待すること」といった項目があった。

企業に期待すること
「4、企業に期待すること 企業による健康確保に加え、働く人にも期待すること」の「企業に期待すること」には「働く人は、価値創造の担い手であり、 全ての働く人が働きがいを持って働くことが求められる」「全ての働く人が「働きがい」を持って働くことができるよう、 労働条件の改善、能力向上機会の確保、主体的なキャリア形成に対する支援などに 取り組むことが求められる一方、 必ずしも、自発的に能力を高め、発揮できる者ばかりではなく、 企業による一定のサポートを必要とする者は少なくない」「企業がパーパスを明確にし社内に浸透させた上で、エンゲージメントを高め、 社内外の人的つながりを構築するための人事施策を取り入れることも有効ではないか。 また、パーパスだけでなく、企業が自らのビジネスの将来像や、 それに適した人材像を可視化し、働く人と共有していくことで、 働く人が自らのキャリアを形成していく上で、 企業の求める方向性と合致した能力を高めていく選択が容易になるのではないか」と記載されてあった。

企業による健康確保に加え、働く人にも期待すること
また「企業による健康確保に加え、働く人にも期待すること」には「働く人が自由で豊かな発想やそれぞれの創造性・専門性をもって働き、 キャリアを形成することを可能とする環境を整備することが求められるのではないか」「働く人は、労働基準法制を正しく理解し、 様々な場面で活用できるようになることが必要不可欠であり、 働く人が、企業、社会、国などによる教育や周知啓発などを通して 法制度について知る機会をもつことが重要ではないか」「テレワークなどの直接管理される度合いが小さい働き方が拡大しており、 自己実現、心身の健康維持のためにも企業の支援を受けながら、 自己管理能力(セルフマネジメント力)を高めることが求められるのではないか」「企業のパーパスや、ビジネスの将来像、それに適した人材像などについて、 企業と働く人の価値観の共有が起きれば、 働く人がより効果的・効率的に自らの価値を高めることも可能」「自分らしい働き方の実現のためにも、働く人の側からも企業のパーパスや、ビジネスの将来像、 それに適した人材像を理解し、その上で主体的なキャリア形成をおこなっていく営みが重要」と書かれていた。

第12回 新しい時代の働き方に関する研究会 資料1(PDF)

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(骨子案)

第13回「新しい時代の働き方に関する研究会」(厚生労働省の有識者会議)が本日(2023年8月31日)開催され、資料が公開された。

公開された第13回「新しい時代の働き方に関する研究会」資料は「資料1 報告書(骨子案)」と「参考資料1」。

さっそく「資料1 報告書(骨子案)」を読んでみたが、前回(第12回)研究会「資料1」と併せて読む必要があると思う。

例えば、第12回研究会の「資料1」(「4、企業に期待すること 企業による健康確保に加え、働く人にも期待すること」「企業による健康確保に加え、働く人にも期待すること」)には「テレワークなどの直接管理される度合いが小さい働き方が拡大しており、 自己実現、心身の健康維持のためにも企業の支援を受けながら、 自己管理能力(セルフマネジメント力)を高めることが求められるのではないか」と記載されていたが、第13回研究会「資料1 報告書(骨子案)」(「第4 企業や働く人に期待すること」「2.働く人に期待すること」)には「〇多様な働き方・場所→企業・上司による直接管理が小さい働き方が拡大」「→ 従来以上に、自己管理能力(セルフマネジメント力)を高めることが必要(業務遂行・健康管理の双方の観点から)」「〇自らの望む働き方や、将来行う・行いたい仕事に求められる能力を開発することに、自主的・積極的に取り組むこと」と修正されている。

その結果、報告書(骨子案)には「テレワーク」といった言葉が消されてしまい、「多様な働き方・場所」に変えられてしまった。個人的には「テレワーク」は残していただきたかった。

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(骨子案)

第1 本研究会の契機となった経済社会の変化
1.企業を取り巻く環境の変化
<省略>
2.働く人の意識の変化、希望の個別・多様化
<省略>
3.組織と個人の関係性
<省略>
4.本研究会でのヒアリング結果
<省略>

第2 新しい時代に対応するための視点
1. 「守る」と「支える」の視点
<省略>
2. 働く人の求める多様性尊重の視点
<省略>

第3 新しい時代に即した労働基準法制の方向性(守り方・支え方)
1.変化する環境下でも変わらない考え方
<省略>
2.働く人の健康確保
<省略>
3.働く人の選択・希望の反映が可能な制度へ
(1)変化に合わせた現行制度の見直し
<省略>
(2)個が希望する働き方・キャリア形成に対応した労働基準法制
<省略>
4.シンプルでわかりやすく実効的な制度
<省略>
5.労働基準監督行政のアップデート
(1)労働基準監督行政の課題
<省略>
(2)効果的・効率的な監督指導体制の構築
<省略>
(3)労働市場の機能を通じた企業の自助努力(第2の「守り」)
<省略>

第4 企業や働く人に期待すること
〇我が国の持続的な成長・働く人の幸せな職業人生の実現
→ 働く人が自由で豊かな発想やそれぞれの創造性・専門性をもって働き、キャリアを形成することを可能とする環境を整備することが求められる。
→ 法制度面のみならず、企業・働く人双方の行動も重要

1. 企業に期待すること
(1)ビジネスと人権の視点
〇企業による経済活動のネットワーク化や国際化が進む中においては、企業内における働く人の人権尊重や健康確保を行うことはもちろんのこと、企業グループ全体で、サプライチェーンの中で働く人の人権尊重や健康確保を図っていくという視点(いわゆる「ビジネスと人権」の視点)を持って、企業活動を行っていくことが重要である。

(2)人的資本投資への取り組み
〇企業には変化に対して主体的・能動的に行動できる人材が必要
→ 人材を「人的資本」と捉え、企業はそれへの投資(「人的資本投資」)を増やすべき。(日本の企業による人的資本投資は諸外国に比べて少ないといった指摘もある)
【人的資本投資の例】
労働条件の改善・能力向上機会の確保・主体的なキャリア形成への支援
→ 人的資本投資により、人材の価値を最大限に高め引き出すことで、企業価値の向上とともに、健康状態の改善、個人の幸福感の向上、チームワークの向上をもたらすことが期待される。
〇働く人は就業形態や属性にかかわらず、価値創造の担い手であり、企業はこうした属性にかかわらず人的資本投資に取組むことが必要

(3)働き方・キャリア形成への労使の価値観の共有
〇働く人:自らキャリア形成できる者とそうでない者が存在
→ 企業による一定のサポートが必要
〇企業がパーパスを明確にし、社内に浸透させた上で、エンゲージメントを高める、さらには社内外の人的つながりを構築するための人事施策を取り入れることは、キャリア形成の促進についても有効
〇パーパスだけでなく、企業が自らのビジネスの将来像や、それに適した人材像を可視化し、働く人と共有していく(双方向のコミュニケーションを図る)ことで、働く人が自らのキャリアを形成していく上で、企業の求める方向性と合致した能力を高めていく選択が容易になる。
→ 企業は必要な専門的能力の高い人材を、中長期的に確保しやすくなり働く人はより効果的・効率的に自らの価値を高めていくことが期待

2.働く人に期待すること
(1)積極的な自己啓発・自己管理
〇働く人が働き方を自ら選択すること
→ 働く人が、自らの心身の健康の保持増進にも努めることが重要
→ 働く人が、労働基準法制を正しく理解・活用できることが重要
→ 働く人が企業、社会、国等による教育や周知啓発等を通して自ら法制度について知ることが必要
〇多様な働き方・場所→企業・上司による直接管理が小さい働き方が拡大
→ 従来以上に、自己管理能力(セルフマネジメント力)を高めることが必要(業務遂行・健康管理の双方の観点から)

〇自らの望む働き方や、将来行う・行いたい仕事に求められる能力を開発することに、自主的・積極的に取り組むこと

(2)企業の目的・事業への積極的なエンゲージメント
〇企業のパーパスや、ビジネスの将来像、それに適した人材像などについて、働く人の側からの積極的な情報収集・価値観共有
→ 働く人がより効果的・効率的に自らの価値を高め、その企業内で中長期的に価値の高いキャリア形成を行うことが可能

(1)(2)のような取り組みを通して、働く人一人一人が心身の状態を良好に保ち、創造的なアイデアを生み出し、仕事のパフォーマンスを上げ、職業 人生を充実させることができる。

厚生労働省・第13回「新しい時代の働き方に関する研究会」資料1

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(骨子案)(PDF)

新しい時代の働き方に関する研究会(厚生労働省サイト)

追記:新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)

第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」(厚生労働省の有識者会議)が本日(2023年9月29日)開催され、資料が公開された。

公開された第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」資料は、「資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)」と「参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見」「参考資料2 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料」。

なお、「参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見」の5の「(略)報告書(骨子案)には『テレワーク』といった言葉が消されてしまい、『多様な働 き方・場所』に変えられてしまった。なぜ『テレワーク』などを『多様な働き方・場所』にし て曖昧にしたのか理解できない。「テレワーク」などにもどしてください」といった意見は、私の意見になる。

資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)(PDF)

参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見(PDF)

参考資料2 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料(PDF)

新しい時代の働き方に関する研究会(厚生労働省サイト)

追記:新しい時代の働き方に関する研究会 報告書

新しい時代の働き方に関する研究会報告書公表
厚生労働省が2023年10月20日に「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を公表。

報告書の「労働基準法制における基本的概念が実情に合っているかの確認」(報告書20頁)には、 労働基準法は「事業または事務所に使用され、賃金の支払いを受ける労働者を対象とし」「労働者が働く場である事業場を単位として規制を適用することで、労働者を保護する法的効果を発揮してきた」が、「一方で、変化する経済社会の中で、フリーランスなどの個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられること、リモートワークが急速に広がるとともに、オフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、事業場単位で捉えきれない労働者が増加していることなどを考慮すると、『労働者』『事業』『事業場』等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要である」と記載されている。

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(PDF)

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(参考資料)(PDF)

新しい時代の働き方に関する研究会報告書に関する報道
朝日新聞デジタルは、厚生労働省が報告書を公表する前の10月13日に「報告書では、労基法が対象とする『労働者』の考え方を検討する必要があるとした。労基法では企業に雇われて働く人を対象としてきたが、フリーランスで働く人にも『業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者も見受けられる』と指摘した」と報じている。

テレワークなど多様化する働き方、労基法改正求める 厚労省の研究会(朝日新聞デジタル)

医療介護CBnewsは「報告書では、『新しい時代に即した労働基準法制の方向性』を示している。例えば、働く人の健康に関しては、『働き方や働く場所が多様化し、健康管理の仕組みが複雑化している』と指摘。労働時間の長短の把握・管理や長時間労働の抑制、医師の面接指導、健康診断、ストレスチェックなどの対策が取られてきたが、今後は、個々の労働者の状況に応じた健康管理について、『医学や診断技術の進歩も考慮しつつ、継続的に検討していくことが必要である』との見解を示している」「また、労働者の心身の健康への影響を防ぐ観点から、勤務時間外や休日の業務上の連絡の在り方についても、引き続き検討する必要性を挙げている」と報じ、Yahooニュースが取り上げた。

労働者健康管理、医学の進歩考慮し継続的に検討を - 厚労省が研究会報告書を公表(医療介護CBnews)(Yahooニュース)

新しい時代の働き方に関する研究会報告書への使用者側反応
厚生労働省が「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を公表する前日(2023年10月19日)に週刊経団連タイムスは経団連は9月19日に経団連会館で経団連・労働法規委員会労働法企画部会と経団連・労働時間制度等検討ワーキング・グループの合同会合を開催し、厚生労働省労働基準局労働条件政策課の澁谷秀行課長から「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の中間取りまとめに関する説明を聴いたことを報じ、「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書中間取りまとめ概要のみを記事にし、報告書に対する経団連側の反応や意見については述べられていない。

なお、経団連は2013年9月12日に公表した2023年度規制改革要望では副業・兼業の推進に向けた割増賃金規制の見直しを要望し、「割増賃金規制は、法定労働時間制または週休制の原則を確保するとともに、長時間労働に対して労働者に補償する趣旨であるが、本人が自発的に行う副業・兼業について適用することはそもそもなじまない。そこで、真に自発的な本人同意があり、かつ管理モデル等を用いた時間外労働の上限規制内の労働時間の設定や一定の労働時間を超えた場合の面接指導、その他健康確保措置等を適切に行っている場合においては、副業・兼業を行う労働者の割増賃金を計算するにあたって、本業と副業・兼業それぞれの事業場での労働時間を通算しないこととすべきである」としている。

新しい時代の働き方(週刊経団連タイムス)

新しい時代の働き方に関する研究会報告書への労働者側反応
連合(日本労働組合総連合会)は、厚生労働省が報告書を公表した10月20日に「新しい時代の働き方に関する研究会」報告に対する(事務局長)談話の中で「労働基準法制による労働者を『守る役割』は、今後も不変かつ重要であることが強調された点は評価できるが、労働組合の組織化をはじめとする集団的労使関係の一層の構築や強化の観点が不十分であり、『労使対等の原則』を確実なものとする取り組みこそが重要である」とした。

厚生労働省「新しい時代の働き方に関する研究会」報告に対する談話(連合)

全労連(全国労働組合総連合)は「本報告書(新しい時代の働き方に関する研究会報告書)は、労働基準法と労働基準行政の在り方について、『守る』と『支える』という2つのキーワードをもとに、経済環境や働き方の変化をふまえた課題の整理と見直しの方向性を示したものである。報告書は、ただちに法改正作業の着手につながるものではないとされている。しかし、その提言にそった法制度の見直しが進めば、労働基準法と労働基準行政に重大な悪影響、深刻な打撃がもたらされることになるものである。全労連は、報告書の撤回と全面的な修正を求める」との事務局長・黒澤幸一氏の談話を公表した。

【談話】「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書について(全労連)

また、日本労働弁護団は「これからの労働関係法令の在り方に関する幹事長声明―『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を受けて―」を公表。

幹事長声明では「『新しい時代』になっても是正されない諸問題については、何ら触れられないまま労働基準法制に関して、新たに、しかも、特に労働時間法制や健康確保の在り方に関しては規制緩和の方向性から議論を始めるのは、これまでの労働基準法制に関する議論の積み重ねを無視するものであると言わざるをえない」と報告書を批判し、「当弁護団は、『新しい時代』においても、現在の労働基準法制の強行法規制を維持することを前提としつつ、労働者の権利がより保護されるような議論がなされることを強く望むものである」と訴えている。

これからの労働関係法令の在り方に関する幹事長声明(日本労働弁護団)

新しい時代の働き方に関する研究会以後の議論予定
厚生労働省が2023年10月20日に公表した「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書20頁「労働基準法制における基本的概念が実情に合っているかの確認」には、 労働基準法は「事業または事務所に使用され、賃金の支払いを受ける労働者を対象とし」「労働者が働く場である事業場を単位として規制を適用することで、労働者を保護する法的効果を発揮してきた」が、「一方で、変化する経済社会の中で、フリーランスなどの個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられること、リモートワークが急速に広がるとともに、オフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、事業場単位で捉えきれない労働者が増加していることなどを考慮すると、『労働者』『事業』『事業場』等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要である」と記載されている。

この報告書提言は、「新しい時代の働き方に関する研究会」委員(構成員)の中で唯一人の労働者法学・水町勇一郎教授の意見を反映していると思うが、今後の労働政策審議会などでの議論を注視したい。

なお、濱口桂一郎氏のブログ記事には「WEB労政時報に『新しい時代の働き方と労働法制の未来』を寄稿しました」とあり、『新しい時代の働き方と労働法制の未来』の一部記載されている。

それには「厚生労働省によると、今後この報告書に基づいて労働法研究者を中心とする新たな研究会を立ち上げ、やがて具体的な労働立法につなげていく予定だと」とあったので、「新しい時代の働き方に関する研究会」からすぐ労働政策審議会で審議されるのでなく、新たに開設される研究会(有識者会議)で議論された後、労働政策審議会で審議される予定だと思う。

新しい時代の働き方と労働法制の未来@WEB労政時報(hmachanブログ)

追記:第14回 新しい時代の働き方に関する研究会 議事録

第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」は2023年9月23日に開催され、議題は「報告書に向けた議論」で重要。とくに第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」構成員の中で唯一人の労働法学者・水町勇一郎構成員の発言は重要だから厚生労働省サイトに公開されている議事録から抜粋。

<第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」議事録抜粋>
水町(勇一郎)構成員
全体としての感想と、1つ今後の議論に期待することだけ。文章については、これで特に異論はありません。この研究会では、委員全員の御報告を踏まえて、ヒアリングをたくさん行って、最後の詰めのところでは、原案を早めにつくっていただいて、委員の意見を2回、3回と盛り込んでいただいたので、今日何回かお話がありましたように、いろいろな意見を盛り込んで、全体として非常にまとまりのいい、分かりやすい、読みやすいものに仕上がったかなと思っております。

それで、1つだけ今後の議論に期待するところで、16ページから「新しい時代に即した労働基準法制の方向性(守り方・支え方)」というところの、次の17ページの18行目からポツが2つあるところで、こういう形で書いていただいて、これを今後どうするかというところについてのコメントなのですが、少し大きな話でいうと、日本だと、今、守り方という労働基準法制が罰則つきであって、そこについて、原則としての労働基準法制の例外を認めるときに、労使の過半数組合とか過半数代表者の労使協定があれば、その限りで罰則も含めて労働基準法制が外れますよというところは、ここは結構明確なので、そこをちゃんとしようと。

ただ、そこで個人の過半数代表者になったときに、うまく機能しているかというと、実質的にはあまり機能していないというところで、そこは考えなくてはいけないということは、1つあるのですが、では、労働基準法制に関わっていないところがどうかというと、日本では、ほとんどが就業規則に書かれていて、かつ人事権の発動でやっていて、厚生労働省としては、罰則つきでの監督ができない。

最終的に、そこをどこが決めるかというと、裁判所で就業規則が合理的だったのかとか、人事権の行使が濫用に当たらないかどうか、最終的に判決が出るまで分からないのですよ。そういう司法に任せられているけれども、司法の利用率が日本はすごく低いので、要は現場で力関係の強い人たちの言いなりになってきて、労使コミュニケーションがあまり栄えてきていないのではないかというところが1つあります。

そこで、今、厚生労働省が何もしていないかというと、そういうところに今までやってきたのが、ガイドラインをつくったり、留意事項といって、労基法には直接関わっていないから監督権限があるかどうかは分からないけれども、こうしたほうがいいねというガイドラインとか留意事項がたくさんあります。

あるのだけれども、現場でそれを守らなければいけないかどうか、守らなければいけないと思うところは、大企業の一部で守られたりするけれども、これは裁判所に言っても微妙だし、みんな裁判を起こさないから、これは守らなくていいよ、努力義務だから、まあいいねとスルーしているようなところが、重要なところで、特にテレワーク関係とか、兼業・副業とかでもいっぱいあるのですよ。

諸外国を見てみると、複雑になってきて、労働基準行政みたいに罰則でがちがちに決めるところと、労働契約法制のルールメイキングのところで、労使の話し合いを重視してというところの境目がなくなってきて、重要な問題になっているときにどうするかというと、日本でも労働基準法制については、労使コミュニケーションを重視する形で少し柔軟化していこうというところは、ここでかなり中心に書かれているのですが、労働契約法制で、労働基準法制には関わっていないけれども、もう少し労使で話し合ってルールを決めたほうがいいのではないかというところが、この18行目と21行目のポツのところです。

これは、つながらない権利、どこまで私生活で、企業が手を伸ばしてはいけないかというところとか、さらには、健康情報についても、やはり労使コミュニケーションで決めてくれと、でも、このままで行くと、例えばガイドラインで定めて、守られるかどうか、最終的には裁判所で公序良俗違反とか不法行為になったか、ならないかというレベルの話になってしまう中で、今回、労働基準法制の定義の中に、労働契約法も入りますよと、ただ、労働契約法については、出所が少し違うので違う議論が必要ですよと書かれています。

要は何を言いたいかというと、労働基準法制とその修正で対応できるところと、労働契約法制が基になって、そこで例えば就業規則の合理性とか、ガイドラインに書かれていることは、実は裁判に任せられているところを、政策として法制としてどうするかというときに、例えばデフォルトルール、原則的にはこうしなくてはいけないということを、例えば労働契約法制の中で定めて、ただし、労使コミュニケーションで具体的に議論して別のように決めたら、別のようにしていいですよということを、労働基準法制とまた別の法制の中でルールメイキングしていくと、それを基に労使コミュニケーションが実質化していったり、ちゃんと労使で話し合わないと原則どおりに硬直的なものになってしまうよという議論の中でどうするかという議論。

これは、ヨーロッパの議論とかで、そういうものが増えているというのは、ドイツとかフランスの議論の中で言わせていただいたところで、それにつながり得るところが、17ページのポツのところなので、これから具体的に制度設計の議論をしていく中では、労働基準法制の例外としての労使コミュニケーションと併せて、労使の中で大切なことはもっといっぱいあるので、その労使のルールの決め方として、場合によっては労働契約法制におけるルールメイキングの在り方も視野に入れて、そこで労使コミュニケーションをどうするかという連続的な問題なので、そういうことを意識しながら議論をしてほしいということが、この2段落に込められているということで、次の政策的な議論のステップにつなげていただければなというのが、私からの意見、希望です。

第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」議事録

追記:労働政策審議会 労働条件分科会

厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会の労働条件分科会が2023年11月13日に開催されたが、議題は「労働政策審議会労働条件分科会運営規程の改正について」「新しい時代の働き方に関する研究会 報告書について(報告事項)」。

労働政策審議会 労働条件分科会(厚生労働省)

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書は厚生労働省が2023年10月20日に公表している。

この報告書の「労働基準法制における基本的概念が実情に合っているかの確認」(報告書20頁)には、 労働基準法は「事業または事務所に使用され、賃金の支払いを受ける労働者を対象とし」「労働者が働く場である事業場を単位として規制を適用することで、労働者を保護する法的効果を発揮してきた」が、「一方で、変化する経済社会の中で、フリーランスなどの個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられること、リモートワークが急速に広がるとともに、オフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、事業場単位で捉えきれない労働者が増加していることなどを考慮すると、『労働者』『事業』『事業場』等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要である」と記載されている。

そして、この報告書が昨日(11月13日)開催された労働政策審議会(労政審)労働条件分科会において報告事項として議題となったが、その内容については(育児休業給付金等を審議した労働政策審議会(労政審)職業安定分科会雇用保険部会と重なったためか)アドバンスニュースを除いて(私の調べた範囲では)」報道されることはなかった。

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書、厚労省説明
アドバンスニュースには「多様化する働き方に対応した労働基準法の見直しを検討するため、厚生労働省は年度内に法務の学識経験者らによる研究会を設置する」と、また労働基準法見直しの方向性は「『新しい時代の働き方に関する研究会』の報告書を踏まえた動きで、次は具体的な法制度のあり方を含めて検討を進める」と記載されている。

そして厚生労働省は「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の概要と要所に触れた後、「大きな方向性と考え方を示したもので具体的な法制度には言及していない。来年(2024年)、働き方改革関連法の施行5年の見直しのタイミングでもあり、より具体的な法制度を含めた研究を進めなければならない」と説明した、とアドバンスニュースは報じている。

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書への労働側意見
昨日の労働条件分科会において厚生労働省による「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の説明と今後の方針が語られた後、労働条件分科会の労働者側委員は(アドバンスニュースによると)「労基法(労働基準法)は働くうえでの最低基準だ。見直し議論になると思われるが、働く人の多様な希望に応えることは労基法を見直さなくても十分に可能」と指摘。

また、労働者側委員は「今回の報告書で強行法規である労基法の見直しの方向性が示されたことで、連合傘下の組合の中から『最低基準を外す新たな例外が検討されるのではないか』など懸念の声が上がっている」と、「警戒感をにじませて慎重かつ丁寧な議論を要請した」とのこと。

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書への使用側意見
昨日の労働条件分科会において厚生労働省による「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の説明と今後の方針が語られた後、労働条件分科会の使用者側委員は(アドバンスニュースによると)「働く場所や時間なども自由に選択したいという意識が高まっている。法律で画一的な規制や取り決めがあると、こうした社員の希望に柔軟に応えていくことが難しくなる」と強調し、「今後の労基法(労働基準法)のあり方は労働者の心身の健康確保に憂慮しつつ、制度の中身であるとか話し合いの対応なども含めて、個別企業の労使が選択できるような仕組みも取り入れてもらいたい」と要望したとのこと(アドバンスニュース『労基法見直し検討、年度内に「新たな研究会」設置 労政審労働条件分科会』2023年11月13日配信)。

労基法見直し検討、年度内に「新たな研究会」設置 労政審労働条件分科会(アドバンスニュース)

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