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厚生労働省は労働基準法を見直すために研究会を新設する方針

厚生労働大臣諮問機関の労働政策審議会(労政審)労働条件分科会が昨日(2023年11月13日)に開催されたが、議題は「労働政策審議会労働条件分科会運営規程の改正について」と「新しい時代の働き方に関する研究会報告書について」。


新しい時代の働き方に関する研究会 報告書

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書は厚生労働省が2023年10月20日に公表している。

この報告書の「労働基準法制における基本的概念が実情に合っているかの確認」(報告書20頁)には、 労働基準法は「事業または事務所に使用され、賃金の支払いを受ける労働者を対象とし」「労働者が働く場である事業場を単位として規制を適用することで、労働者を保護する法的効果を発揮してきた」が、「一方で、変化する経済社会の中で、フリーランスなどの個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられること、リモートワークが急速に広がるとともに、オフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、事業場単位で捉えきれない労働者が増加していることなどを考慮すると、『労働者』『事業』『事業場』等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要である」と記載されている。

そして、この報告書が昨日(11月13日)開催された労働政策審議会(労政審)労働条件分科会において報告事項として議題となったが、その内容については(育児休業給付金等を審議した労働政策審議会(労政審)職業安定分科会雇用保険部会と重なったためか)アドバンスニュースを除いて(私の調べた範囲では)」報道されることはなかった。

労基法見直し検討、年度内に「新たな研究会」設置 労政審労働条件分科会(アドバンスニュース)

アドバンスニュースには「多様化する働き方に対応した労働基準法の見直しを検討するため、厚生労働省は年度内に法務の学識経験者らによる研究会を設置する」と、また労働基準法見直しの方向性は「『新しい時代の働き方に関する研究会』の報告書を踏まえた動きで、次は具体的な法制度のあり方を含めて検討を進める」と記載されている。

そして厚生労働省は「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の概要と要所に触れた後、「大きな方向性と考え方を示したもので具体的な法制度には言及していない。来年(2024年)、働き方改革関連法の施行5年の見直しのタイミングでもあり、より具体的な法制度を含めた研究を進めなければならない」と説明した、とアドバンスニュースは報じている。

新しい時代の働き方に関する研究会報告書への労働側意見

昨日の労働条件分科会において厚生労働省による「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の説明と今後の方針が語られた後、労働条件分科会の労働者側委員は(アドバンスニュースによると)「労基法(労働基準法)は働くうえでの最低基準だ。見直し議論になると思われるが、働く人の多様な希望に応えることは労基法を見直さなくても十分に可能」と指摘。

また、労働者側委員は「今回の報告書で強行法規である労基法の見直しの方向性が示されたことで、連合傘下の組合の中から『最低基準を外す新たな例外が検討されるのではないか』など懸念の声が上がっている」と、「警戒感をにじませて慎重かつ丁寧な議論を要請した」とのこと。

なお、連合(日本労働組合総連合会)は、厚生労働省が報告書を公表した10月20日に「新しい時代の働き方に関する研究会」報告に対する(事務局長)談話の中で「労働基準法制による労働者を『守る役割』は、今後も不変かつ重要であることが強調された点は評価できるが、労働組合の組織化をはじめとする集団的労使関係の一層の構築や強化の観点が不十分であり、『労使対等の原則』を確実なものとする取り組みこそが重要である」とした。

全労連(全国労働組合総連合)は「本報告書(新しい時代の働き方に関する研究会報告書)は、労働基準法と労働基準行政の在り方について、『守る』と『支える』という2つのキーワードをもとに、経済環境や働き方の変化をふまえた課題の整理と見直しの方向性を示したものである。報告書は、ただちに法改正作業の着手につながるものではないとされている。しかし、その提言にそった法制度の見直しが進めば、労働基準法と労働基準行政に重大な悪影響、深刻な打撃がもたらされることになるものである。全労連は、報告書の撤回と全面的な修正を求める」との事務局長・黒澤幸一氏の談話を公表した。

また、日本労働弁護団は「これからの労働関係法令の在り方に関する幹事長声明―『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を受けて―」を公表。

幹事長声明では「『新しい時代』になっても是正されない諸問題については、何ら触れられないまま労働基準法制に関して、新たに、しかも、特に労働時間法制や健康確保の在り方に関しては規制緩和の方向性から議論を始めるのは、これまでの労働基準法制に関する議論の積み重ねを無視するものであると言わざるをえない」と報告書を批判し、「当弁護団は、『新しい時代』においても、現在の労働基準法制の強行法規制を維持することを前提としつつ、労働者の権利がより保護されるような議論がなされることを強く望むものである」と訴えている。

新しい時代の働き方に関する研究会報告書への使用側意見

昨日の労働条件分科会において厚生労働省による「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の説明と今後の方針が語られた後、労働条件分科会の使用者側委員は(アドバンスニュースによると)「働く場所や時間なども自由に選択したいという意識が高まっている。法律で画一的な規制や取り決めがあると、こうした社員の希望に柔軟に応えていくことが難しくなる」と強調し、「今後の労基法(労働基準法)のあり方は労働者の心身の健康確保に憂慮しつつ、制度の中身であるとか話し合いの対応なども含めて、個別企業の労使が選択できるような仕組みも取り入れてもらいたい」と要望したとのこと(アドバンスニュース『労基法見直し検討、年度内に「新たな研究会」設置 労政審労働条件分科会』2023年11月13日配信)。

厚生労働省が「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を公表する前日(2023年10月19日)に週刊経団連タイムスは経団連は9月19日に経団連会館で経団連・労働法規委員会労働法企画部会と経団連・労働時間制度等検討ワーキング・グループの合同会合を開催し、厚生労働省労働基準局労働条件政策課の澁谷秀行課長から「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の中間取りまとめに関する説明を聴いたことを報じ、「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書中間取りまとめ概要のみを記事にし、報告書に対する経団連側の反応や意見については述べられていない。

なお、経団連は2013年9月12日に公表した2023年度規制改革要望では副業・兼業の推進に向けた割増賃金規制の見直しを要望し、「割増賃金規制は、法定労働時間制または週休制の原則を確保するとともに、長時間労働に対して労働者に補償する趣旨であるが、本人が自発的に行う副業・兼業について適用することはそもそもなじまない。そこで、真に自発的な本人同意があり、かつ管理モデル等を用いた時間外労働の上限規制内の労働時間の設定や一定の労働時間を超えた場合の面接指導、その他健康確保措置等を適切に行っている場合においては、副業・兼業を行う労働者の割増賃金を計算するにあたって、本業と副業・兼業それぞれの事業場での労働時間を通算しないこととすべきである」としている。

労働基準法見直しへ厚生労働省が新研究会設置

アドバンスニュースの記事見出しが『労基法見直し検討、年度内に「新たな研究会」設置 労政審労働条件分科会』となっているように、厚生労働省は2023年度内に労働法学者など労働法研究者を中心とする研究会(有識者会議)を立ち上げ、「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を基に議論させ、「来年(2024年)、働き方改革関連法の施行5年の見直しのタイミング」に労働基準法や労働契約法などを見直す方針だ。

濱口桂一郎氏ブログ記事『新しい時代の働き方と労働法制の未来@WEB労政時報』には、濱口氏がWEB労政時報に投稿された記事を紹介されており、そこには「厚生労働省によると、今後この報告書に基づいて労働法研究者を中心とする新たな研究会を立ち上げ、やがて具体的な労働立法につなげていく予定だ」と書かれている。

つまり、10月に公表された「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を基に厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会が審議されるということではなく、厚生労働省は労働法研究者を中心とした研究会を立ち上げ、そこで「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を基.に議論させ、その研究会でまとめられた報告書を基に労働政策審議会(労政審)労働条件分科会で審議されるということだと思う。

なお、「新しい時代の働き方に関する研究会」は労働基準法など労働法の広範囲にわたる大きな見直しにつながる有識者会議にもかかわらず、学者5名のうち、今野浩一郎名誉教授は経済学者、戎野淑子教授は労働経済学者、大湾秀雄教授も労働経済学者、小林由佳教授は心理学者、水町勇一郎教授だけが労働法学者といった構成でした。もうお一人ぐらい労働法学者か、労働法に詳しい弁護士を加えてもよかったかと思っていた。

労働政策審議会(労政審)労働条件分科会(厚生労働省公式サイト)

新しい時代の働き方に関する研究会(厚生労働省公式サイト)

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