【物語】 芍薬の素質

姉は芍薬姫と呼ばれている。
家の周りには芍薬の花が咲き乱れている。
人々を魅了する華麗な容貌や姿と、人々を心身ともに苦痛から救う術を併せ持つ。
生まれながらに備え持った才と能力。
まさに姉は芍薬姫だ。
今日も姉の煎じる薬を求めて行列ができる。
薬を待つ客たちを、芍薬が華麗な花姿で魅了する。
客たちからは笑顔が綻び、嘆息が洩れる。
芍薬の根は、姉によって素晴らしい薬効を持つ漢方薬へと変化していく。
治癒して、救う。
姉も芍薬も立派だ。
『人の役に立つ』という素質を、生まれながらにして備え持っているのだ。
しかし姉は今日も謙虚に応える。
「自分が人の役に立ってるなんて考えは、ただの傲りよ」
謙虚かつ、凛とした立ち姿で芍薬を愛でながら、慈しみながら告げる。
「すべては彼女たちの力よ」
姉には本当に敵わない。
でも私には芍薬たちの言葉が聞こえる気がした。
『姫、何を仰いますか。またまたご謙遜を。私どもが薬と成り得るのは、貴女様のおかげでございますよ』
互いに謙虚に謙遜し合う才色兼備たち。
姉にも芍薬にも、本当に恐れ入る。
とても、否……到底、敵わない。


                                                                ─ 完 ─ 

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