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小説

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時々思い付きで投稿する小説をまとめています。 読んでいただけたら飛び跳ね狂います。
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記事一覧

「床のゴミと炭酸水」

炭酸水を飲んでいる。ラベルレスペットボトルの。
朝からちびちび飲んでいるので温いし苦い。ウィスキーとかジュースの原液で割ったり、美味しくする方法なんていくらでもあるだろうけどそれすら面倒だ。

部屋にゴミが溜まっている。しょっちゅう捨て忘れるし、まとめておく気力すらない。

昔はコレクターだった。部屋を読んでもいない本で埋めていた。床も壁も。
きっと全体の3割くらいしか読んでいなかっただろう。ただ

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「接木」 2021-9-27

「なぁ理、それって何になるんだ?」
頬杖を突きながら悪魔が俺に問う。

小学生の頃から、俺の頭の中には悪魔が巣食っていた。
テレビで言われるような凶暴性や残虐性の比喩ではない、本物の悪魔だ。
突然俺の部屋に現れたそいつはニムと名乗った。「暇だから人間を見に来た」とまるで死神みたいなことを言っていた。

どこへ行ってもついてくるし、家族にも友人にもニムは見えないらしい。
気味が悪いのでこいつを追い出

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ショートショート「全知健忘」

映像記憶能力というものがある。一度見たものを決して忘れず、何も見ずとも正確に思いだすことが出来る能力。
SFやファンタジーではなく、現実の話だ。
こんな能力が俺にもあればいいのにと毎日祈っていた。しかし神は俺ではなく、隣にいた幼馴染を選んでしまった。

「カメラアイ」とも呼ばれるその能力は多くが先天的に身につくもので、後から得ようと思って得られるものではないらしい。しかし稀に交通事故などで脳に損傷

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ショートショート「ヒト群最適化法」

「― 近代コミュニケーション史 終了。」
機械音声のアナウンスと共に、講義の終わりを示すブザーが鳴る。
イヤホンを外し、ブラウザのタブを閉じて帰宅の準備をする。

つまらない講義だった。どうやらずっと昔人間は、他人と言葉を交わさなくては生きていけなかったらしい。
まだTIMが存在しなかった頃。つまり個人の能力や体調等を無視して一様に仕事が与えられ、正しい解決法は自分で調べるか他人に訊かなければなら

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「独白」

「独白」

キリへ

拝啓 寒さの厳しい季節になりましたがいかがお過ごしでしょうか。と言ってもつい先ほどまで一緒にいたので元気だとは思いますが。

2月25日17時27分、僕は今、東京に向かう飛行機の中でこの手紙を書いています。離陸中に書いていたら、大きく揺れて宛名の字が歪んでしまいました。
ありきたりな文章ですが、僕から貴女に送る最初の手紙なのでちょうどいいでしょう。

貴女と付き合うことになってからもうじ

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ショートショート「海の光網」

ショートショート「海の光網」

ある日、よく晴れて心地よい流れの中を鯵のポプリが泳いでいると、どこからかシクシクと誰かの泣く声が聞こえました。
「誰か泣いているのか?どうした。」と言いながらポプリが声のする方へ近づいてみると、岩陰で1匹の鯖が涙を流して泣いています。

「やぁオリーブくんじゃないか、一体どうしたんだ?」
「ポプリくんか、聞いてくれよ。昨日は大しけでひどく海が荒れただろう。そのせいで朝からインタァネットが繋がらない

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短編小説「人造天使」

短編小説「人造天使」

「安曇君、私は天使になるよ。」

黒い長髪を振り乱しながら彼女は言った。
「発表資料の作成で忙しいので手短にお願いします」と画面に向かったまま答える。本当は全く忙しくなんてないが、毎日このやり取りを繰り返しているので本当に忙しいような気がしてきたな。
「天使になりたい」というのは先輩の口癖、というか夢のようなものらしく、この研究室に入ってから毎日のように聞かされている。
初めの内は先輩のいうことだ

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ショートショート「御箸」

ショートショート「御箸」

これは私が中学生の頃にあった話だ。
その日私は叔父のお通夜に参加するため、山奥にある叔父の家に制服を着て三時間ほど車に揺られて来ていた。

叔父とはお盆等に顔を合わせる程度で大して親しかったわけでもなかったが、身近な人の死というのはやはり何か思うところがあったようで、その日は朝から気が重かった。

山奥なので雪が深く、車が思うように進まず着くのが遅くなったので、叔父の家に着いた頃にはとんでもない人

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