下宿

【三文鎮魂歌】

登場人物

桜沢佑  (30)女性 元舞台俳優 喫茶ポンパドール勤務 

高柳清二 (80) 男性 元画廊オーナー、メゾンド勿忘草管理人

平泉 茂(81)男性 メゾンド勿忘草オーナー

  BGM夢乃崎町のテーマ(曲募集中)

N「ここは何も起こらない町夢乃崎町。今日はメゾンド勿忘草に新しい風が吹いてきたようですよ。」

ユウ「こんにちは!初めまして!桜沢佑と言います!」

タカヤナギ「この小娘か継子ちゃんが言ってたのは。で、何が出来るって?」

ヒライズミ「いやいや、今は何も出来なくても良いんだよ。なにか、目指しているものがあるのかい?」

ユウ「目指していると言えるかどうか。でもお芝居を10年やってきました!あと!小娘ではありません!もう30歳です!小娘と言う名前でもありません!桜沢佑です!」

タカヤナギ「むむむ。」

ヒライズミ「おや、タカヤナギさんを黙らせちゃった。なかなか勇ましいねぇ。これは将来有望だ。」

タカヤナギ「本人が言う分には勝手なもんだ。なにかやってきたものを見せてみな。」

ヒライズミ「出来るかな?いやすまんね、年寄りの道楽なんだ。許しておくれね。」

ユウ「じゃあそらで覚えている物語をひとつ朗読というのかな。思い出してやってみます。」

タカヤナギ「よ!待ってました」

ヒライズミ「ありがとうね。」

   BGM

以下ユウの朗読

~三文鎮魂歌~
その年の事はよく覚えてる やたらと地面が揺れたり雨が降ったりしてた。夏の暑さを越えてすこし空が高くなった頃 父さんが言った 「山を、降りるぞ」

どんぐりが見つからないんだ

父さんも母さんも僕もこの時期に眠くなるどころかお腹がペコペコで目が回るほどだった

もう少しどんぐりの実が生っている木があるはずだと 父さんは言う 。でもそれは「ニンゲン」のいる場所を通らなきゃいけないんだって 。

僕、知ってる 「ニンゲン」は僕らをみると逃げ出していく 。でも少しするとなんだか黒い筒を持った「ニンゲン」がやってきて 。僕らを狙うんだ 。

そして 「ドン!!」 という音がなって僕達の体に穴をあけるんだ

それは僕らにとっては小さな小さな穴なのに、とても痛くて、痛くて 、僕らは死んでしまう

母さんも僕も「ニンゲン」の事を考えると本当に不安だったけれど 、他に方法は思いつかなかった

そうして僕達は
山を、降りた

少しずつ「ニンゲン」住む場所へ降りていった

「余計なおしゃべりをしてきょろきょろしてるとニンゲンにみつかるぞ」
父さんは低く小さく唸った後まただんまり進んでいった

気が付いたら僕達三人は山に戻っていた

いや、山、じゃない

でも普通の木もあるし、地面は柔らかくなった 。僕は少しうれしくなって地面に転がった

「どんぐり」
父さんが指す方をみると少しだけれど木の実があった!!

母さんも僕も夢中でどんぐりを食べた!
それはいったいどれくらいぶりの食事だっただろう

お腹がいっぱい、、、とまではいかなかったけど涙が出るほど美味しかった

父さんは自分は一つも食べずに、母さんと僕にせっせとどんぐりを運んでくれた

僕は少し元気が出てきてそこに生えていたおかしな木を揺さぶってみた。上にとまる光る鳥もゆらゆら揺れる。

「ねぇ!父さんみてよ!変な鳥だねぇ!」

ガサ

「坊やあぁぁ!!! 逃げろおぉ!!」

父さんは地面が大きく揺れるかと思うほどの低くて大きな声を上げた

一瞬茂みで何かが小さく縮こまったように見えた

次の瞬間

「ドン!!」

父さんは動かなかった
ただ、低い唸り声を上げて
「早く、逃、げろ、逃げろ、坊やを、頼む」と

「坊や!早く!!」
いつの間にか駆け寄っていた母さんが僕の首に噛み付いて 逃げるように急かした

「で、でも、、、父さ、、!」

茂みの中がまたガサリ、と動いた

背中でまた「ドン!!」という音がした

泣いている暇は無かった

僕と母さんは走って、走って、走った

父さんの体に、小さな穴が開いたんだ、、、 それはとてもとても小さいけれど痛くて、痛くて、、、

僕は考えると胸が苦しくなって
走っている足が止まりそうになる

父さん!!

でも、今は止まれない
父さんが僕達を守ってくれたように

今度は
僕が母さんを守るんだ!!

続く、、、以上です。」

タカヤナギ「う、、、うぅ(泣)」

ヒライズミ「え?続く?この先どうなるの?坊やとお母さんはどうなるの?」

ユウ「それを知りたければ、私をここへ置いてください」

タカヤナギ「こりゃ一本取られたなぁ」

ヒライズミ「お嬢さんの勝ちだ!ハイ、お部屋の鍵だ。」

    鍵を取り出すシャランと言う音

ヒライズミ「今案内しようね。」

ユウ「ふぉ~!!やったぁ!!あ!あと、私はお嬢さんじゃなくて、ユウです!さくらざわ!ゆうです!」

タカヤナギ「ははは!こりゃ大変だなぁ!良い了見だ!気に入ったよ!」

鍵のチャリーンという音

N「鍵は放物線を描いてユウの掌に、まるでそこが元からの居場所であったように収まったのでした。さぁ、期待するような事は何も起こらない夢乃崎町、次回も何も起こらないのか!こうご期待。」

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