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アーサー・コナン・ドイルにハマっています。 アーティストの皆様、いつも画像を使わせてく…

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アーサー・コナン・ドイルにハマっています。 アーティストの皆様、いつも画像を使わせてくださり、誠にありがとうございます。 『regret』では、3話をまとめて1話とさせていただき、全5話の構成に改めさせて頂きました。

最近の記事

サムデイズーある日の出来事

第8話 最寄の駅から会場までは、すでに長蛇の列が続いていた。シークレット・サービスや警備員の数が多すぎるような気もしたが、セレブリティたちが乗るブラック・キャブの数を見て納得した。 バレエ界に彗星のごとく現れたという健人・ブリオン少年のニューイヤー公演である。詰め掛けた多くのマスコミは、その今だ明かされない彼の素顔をこぞって暴こうとやっきになっているようだった。 厳重すぎる手荷物検査を受け、ホール内に入った。目に飛び込んだのは、タイムスリップしたかのような豪華な室内装飾

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      第7話 私は日本に一時帰国することになった。エール・フランス機は関西国際空港に着陸した。この空港は翼を広げた流線型の形をした、人工の島に浮かぶ海上空港だ。建築家の父は幼い私を連れ、ここが出来る前の現場に何度も足を運んだ。ここは海の上にあり、地盤が軟弱なため、大型のジャンボジェット機の離発着に耐えることのできる滑走路を作るための大規模な地盤改良が必要だった。 長い杭を海中深く打ち込んで、地層に含まれる水を抜いていく作業や、以前は潜水士がひとつひとつ手作業で行っていたという、

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        第6話 夕方、エミリが運転手つきの車で私を迎えに来てくれた。ロールスロイス・ファントムは、音も立てずに下宿の前を滑り出した。なんだか未知の世界に連れて行かれそうな不思議な気分だった。 「なにも分からない子どもを、むりやり島の遊園地に連れていって、ロバにして売り飛ばすピノキオのような気分だって、君の顔に書いてあるわ」 エミリはいたずらっぽく言うと、「確かに」と私は笑っていった。  「大丈夫。何も心配はいらないわ。全てわたしにまかせて」 彼女は飲み物を勧めながら私の手を取

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          第5話 (そんなセンチメンタルな感情なんて、自分にとっては邪魔でうっとうしいだけ) 私は過去に一度、これと同じようなことをいわれたことを思い出していた。 アン・ド・マルーといい、大学の同級生だった。友人ジャンのパーティ先で出会った。 彼の共同住宅は、賑やかな通りから中に少し奥まって建っており、鳥のさえずりがよく聞こえる場所にあった。玄関から部屋に続く廊下の壁には、輪郭のはっきりしたラヴァルやゴーギャンの複製画が掛けられていた。部屋はいたってシンプルで、ワンルームにしては

        サムデイズーある日の出来事

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          第4話 フランスは共和制から、帝政期そして王政復古とめまぐるしく政治が変わった。イギリスに始まった工業化はヨーロッパ全土、そしてここフランスにも押し寄せた。貴族中心だった社会が市民階級へと移行する。 フランス革命後に定義された「自由・平等・友愛」のスローガンそのままの人権意識を持つここは、知識階層の多く住む街、いわゆる理性によって成り立つ街なのだ。私がセレーヌに抱いたいっときの情動はこんな理由からあっけなく排斥されるに至る。 私を含め留学生たちにとっては、どうにも気の休

          サムデイズーある日の出来事

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          第3話 恐ろしく日の射さない下宿だった。夏でも洞穴のように寒々しく、外が天気かどうかは、隣の家の窓ガラスに光が当たっているかどうかでわかるほどだった。下宿人のベルギー人の画家は、「鉄格子がないだけまだまし」といい、ドイツ人の小説家は「我々の認識を超越して初めて、そこに無限の空間は与えられる」といった。その言葉はどちらも「住めば都」という意味らしかった。 画家は、焼栗を食べながら、「オルセー美術館に行ってみないか」とよく言っていた。私と小説家は揃って「行きたくない」と答える

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          第2話 昼である。動かなくても、自然と腹は減る。大食漢ガルガンチュアとパンタグリュエルの寓話のように、肉、とりわけフランスのグルメといわれるタルタル・ステーキを賞味したくなった私は、空港内の店に足を運んだ。 タルタルステーキとは、見た目はハンバーグを焼く前の状態と形容される、生の大きなミンチ肉の塊で、ハーブやスパイスで肉に下味をつけた、フランスでは代表的な食べ物だ。見た目にさえ怖気づかなければ、案外箸はすすむものである。しかしこのレストランには、人の食の行動をいちいち詮索

          サムデイズーある日の出来事

          サムデイズーある日の出来事

          〈あらすじ〉 悪天候で足留めを受けてパリを彷徨う主人公の哲郎。 その二、三日(サムデイズ)の間にあった出来事を回想する小説です。 第1話 「こちら地上管制は当機に目的地外着陸を指示します」 航空管制官は機長との交信のあと、大きく息を吐き、着けていたインカムを外した。コントロール・ルームからの視程は、10メートル以下となり、フランス・ルドリー空港の空港システムは悪天候のためその機能すべてが停止しようとしていた。駐機場からは特殊車両や飛行機が次々と消えてゆく。  「ここは

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          『ルポ・松下久文』竹嶋徹 ―――これは、とあえて断りをする。筆者は松下久文自身への取材は一切していない。インタビューに応じてくれた、松下の家族、親類、友人、知人、公園で会う愛犬の犬つながりの仲間には、事実を捻じ曲げることなく、包み隠さずに彼について語ってもらっている。誇張や疑念がある情報については、彼の長年の友である筆者がそのつど判断し、訂正または削除をする。政治家の前に、父であり友でありひとりの人間である、松下久文についてのルポルタージュである。 朝がた携帯電話が鳴りま

          regret4

          「事件の渦中に…」 そうと聞いて笑理は悔やまずにはいられなかった。身から出た錆とはいえ、地方から出てきて右も左もわからない東京で、学生の身分でありながら他より早く世間に足を踏み入れたがために、本来買うことのない恨みを買い、自分の命を危めるようなことになった。 信じられないことが次々と起こる今の状況は、なにか悪い夢でも見ているような気さえしてくる。どうかすると「自分はこれからどうなってしまうのだろう」という不安な気持ちは波のように押し寄せる。 「落ち着いてください。あなた

          regret3

          「ここを辞める……!?」 徹は上司である佐伯課長に退職をしたい旨を伝えた。徹の退職理由は明白だ。 誰よりも早く来て誰よりも遅く帰り、徹底した仕事ぶりを評価されていた徹。真面目を絵に描いたような男。彼の仕事に対する姿勢は厳しいが、何かがあれば面倒を買って出るとの評判が徹を強く印象付けていた。そんな徹を慕うものも多く、当然上役にも受けがよい。やっかみはほとんど聞かれない。そんな徹から退職願が出ることに佐伯は驚きを隠せなかったし、なにより課の士気が下がることを懸念したので、とに

          regret2

          6月×日 ほうぼうで紫陽花が咲き始めた。アパートの居住者にはまだだれ一人会えていない。一度挨拶に回ったが居留守を決め込まれているようだ。全室空き部屋のようにしん、としている。生存確認は区役所の仕事なのでそこまですることはない、と大家の蓮杖からはいわれている。 墓地の管理は草刈りに始まり草刈りに終わるというぐらい草が生える。今朝も大学の授業の始まる前に納骨堂の周辺を刈った。昨日抜いた場所からは、もう小さな草が芽を出している。ツバメのヒナも無事に旅立った。巣のあった場所には気持

          regret1

          あらすじ―――キルケゴールの三段階弁証法というものを参考にして、実存哲学を理解しやすいように書いています。「審美的段階(自分のことのみ考える)」「論理的段階(他人を含めて考える)」「宗教的段階(神=真理に照らし合わせて考える)」と弁証的にすすむ認識は、笑里という主人公が、父という他者との関係性で真理を理解することが目的の短編小説となっています―――あらすじ終わり。 「南向きじゃないんですか?」 方角、それは竹嶋笑里(えみり)には切実なことだった。 不動産屋は間取り図をくる

          ある日常⑨

          出生時に割り当てられた「性別」という概念が、この世界を二分させた。 アダムとイブという「男」または「女」にあらわされたこれが唯世界という概念。その「国境」を超えることは争いを格率させた。 文明は社会が発展すればするほど、生きることが不自由になってくる。 淘汰である。私(のようなもの)が、自己を保つためには欺瞞することしかない。こころの深い部分でしか、いわゆる闇の部分でしか存在することのできない自分という存在。 「男」として生まれた私が、やがて自身がそうでないことに気づきな

          ある日常⑨

          ある日常⑧

          「そんなのは幻想だ!綺麗事はよせ。聞きたくもない!」 散りゆく花びらのように執着のない一等機関士のいいかたに、私は苛立って言った。 「今までどれほど心無い言葉や、嘲笑させられ侮辱を受けたことだろう。いわれのないいろいろな人からの誤解や非難をね。たった5歳の、この世に生を受けてまだ5年しかたっていない君に世間の刃は向けられた。君の両親を孤独に追いやり、挙げ句離れさせられたことを君は忘れたのか?憎しみはないのか?」 今まで隠していた感情があらわになった。 怒りと悲しみが言葉

          ある日常⑧

          ある日常⑦

          私達はいったい何を探し求めているのだろうか。 命をかけて地球を出奔したことは本懐だったのだろうか。 遺された森機関士の日記帳には 3歳年下の妹であるさと子さんとの日常が淡々と記されていた。 八月×日 紅いほおずきをひとつふたつもぎった。 さと子にあげる。 文机で九九の繰り返しをする。 駄菓子屋でニッキ水を二本買う。 畳の上にはばあちゃんが昼寝していた。 縁側でさと子とニッキ水を飲む。 この後、 父や母の忘れ形見だったさと子さんも病に倒れる。 D51は、 重力波に逆らう

          ある日常⑦