#2000字のドラマ 恋愛 学生 プロット 『~コチカメ~』
4月下旬、桜の花びらが散り始める葉桜の時期。
体育館ではバスケ部が猛練習中。
体育館裏の手洗い場。
女子生徒三人がキャッキャしながら歩いてる。
一人が何かとぶつかる。
驚いて振り向くと、クラスメイトの岸田舞香が真顔でつっ立っている。
少女A「あ、ごめん岸田さん!」
舞香「別にええよ」不愛想に言う。
少女B「あんた影薄いねんもん。もっと主張せな」
舞香「別にええけど、今動いたら怒るで」
困惑顔の三人。
舞香が地面を指差す。
舞香「勘吉が散歩中やろ」
三人の足元を小さな亀が横切っている。
少女A「え、なんで亀おんの?」
少女B「これ、渡りきるまで待つん?」
少女C「しぃ!動いたら怒られるで」
勘吉がゆっくりと地面を歩いている。
少女C「あ、そうや。これからみんなでTikTok撮るねんけど、岸田さんも一緒に来る?」
舞香「TikTokって何?チョコ菓子?」
少女C「え、本気で言ってるん? それ多分キットカットやわ」
勘吉が道を渡りきる。
少女B「もうええて、勘吉渡りきったし行こ」
少し引き気味に舞香のもとを離れていく三人。
勘吉を拾い上げ、目を細めて見つめる舞香。
その様子を、バスケ部の矢神廣一が見ている。
部活終わり、矢神が下校していると、熱帯魚ショップが目に入る。
店の前で立ち止まる矢神。
ガラス越しに、一匹の亀と目が合う。
【翌日の放課後】
舞香が教室に入ると、矢神が勘吉の水槽に手をつっこんでいる。
舞香「ちょっと、何してんの?」
矢神「見てみい」
水槽の中を見る舞香。
舞香「え、何で? 勘吉が二人おる。勝手に入れたん?」
矢神「一人じゃ可哀想やろ」
舞香「なんで勝手な事するの? 一人が可哀想ってどういう理屈やねん。意味わからんわ」
舞香が、水槽から亀を取り出そうとする。
舞香「一人の世界を楽しんどったのになあ。ごめんな勘吉」
矢神「少しは世界を広げてやらな」
舞香「しかもこいつメスやん!」
矢神「恋仲になるかもしれんやろ?」
舞香「とんでもない性悪の女狐やったらどうすんの?」
矢神「いや、亀やで」
舞香、まじ意味わからん、という顔。
矢神「まあ、決めつけんと。少し見守っとこうや」
【翌日の放課後】
手洗い場。
水槽の水を変える舞香。
舞香「で、なんでおんの?」
横にはユニフォーム姿の矢神。
矢神「休憩中やねん、今」
舞香「知らんけど」
矢神「それに、マリアは俺の子やからな」
舞香「マリアって、普通そこは麗子やろ」
矢神「俺は、マリア派や」
舞香「知らんけど」
距離を取って作業する二人。
その傍らで寄り添う勘吉とマリア。
【若葉が芽吹く、新緑の時期】
手洗い場で作業する二人の距離が少しだけ近くなる。
しゃがみ込んでマリアにキャベツを食べさせようとする二人。
矢神「マリア、何で食べんのやろ? どっか具合悪いんかな?」
舞香「さあ、分からんわ……。勘吉も心なしか元気ないように見えてきたわ」
水槽の中でうずくまる勘吉。
【梅雨の時期】
しとしと雨が降っている。
体育館では、バスケ部が猛練習中。
バタバタと足音を立てて、いきなり舞香がコートに入ってくる。
何事か、と固まるバスケ部員たち。
舞香、矢神のもとに行き、腕をつかむ。
舞香「来て!」
矢神「いや、俺、今練習中……」
舞香、今にも泣き出しそうな顔をしている。
矢神「分かった」
雨が激しくなってくる。
舞香に腕を引かれ、教室に入る矢神。
矢神「なんかあったんか?」
舞香「見たら分かる」
水槽に駆け寄る矢神。
矢神「なんや、二人とも生きてるやんか」
舞香「よう見てみい」
グッと矢神の頭を押す舞香。
矢神「ん? なんやこの白いの?」
バッと顔を上げ、舞香を見る矢神。
矢神「もしかして、卵か?」
舞香「見たら分かるやろ、卵や。二人はカップルやったんや。勘吉はお父さんになんねん」
嬉しそうに顔を真っ赤にする舞香。
その様子を見て、嬉しそうにする矢神。
矢神「ほらな、マリアが来てよかったやろ?」
舞香「そうやな、マリアのおかげや」
しばらく水槽を見つめる二人。
女子生徒のキャッキャした声が聞こえてくる。
例の女子三人組が、教室を通り過ぎていく。
舞香「私も、世界広げなあかんのかな」
矢神「ん?」
舞香「キットカット始めてみようかな」
矢神「TikTokな。岸田にはそういうのむかんやろ」
舞香「なんで?」
矢神「まあ、無理して世界広げんでも、俺のほうからお前の世界に入ってたるわ」
矢神を見上げる舞香。
矢神「なんや?」
舞香「デカいのが入ってきたらむさ苦しくなるな、と思って」
矢神「そらすまんな」
舞香「てか、部活戻らんでええの?」
矢神「それお前が言うか?」
教室をでて、並んで廊下を歩く二人。
矢神「なあ、さっきのってOKってことやんな?」
舞香「……何が?」
矢神「ええんよな。そういうことで」
舞香「そういうことって、どういうこと?」
矢神、舞香と手をつなぐ。
矢神「こういうことや」
舞香、一瞬固まる。
が、まんざらでもない様子でまた歩き始める。
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