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積み重ねた先にあった、主婦のひとり旅

傷だらけの灰色の階段を上る。
小さめの黒いトランクを抱えて、
背中には汗がしたたる。

けれど、楽しみにしていた、
ずっとSNSで眺めているだけだった、
あの宿に続く階段なのだと思うと、
今日の暑さはなんだか軽やかだ。


✴︎
先日、鎌倉にひとり旅に出かけました。

私の夏休みです。
主婦で、子供持ちの、私の夏休み。

子供たちは、県内の夫の実家。
夫も夫の両親も、みんな予防接種が終わって、
この日は訪れました。



「一人で旅行に行きたいと思ってるんだけど。
 県内で、鎌倉あたりに。」

そう切り出した時、夫は驚いていましたが、

「夏休みになってから、
 平日は一人で子供たち見るの大変だったでしょ。行ってきな」

と、快くオーケーしてくれました。

驚いていたのは、子供達を預けて行くことでなく、
一人で行くということだったと思います。
友人と一緒ではないのね、と。



と言うのも、これまでにも、
子供を預けて旅行に行ったことが、2回ほどありました。いずれも、友人と一緒でしたが。

だから、夫は子供たちを預かることには、慣れたものでした。



けれど、
はじめて子供を預けて旅行に行った時。

一緒に旅行に行く友人のお母さんから、
こんな風に言われたことがあります。
私も何度も顔を合わせたことのあるお母さんです。

「南天ちゃん、信じられない。私なら無理だわ」

無理が指すのは、【子供と離れて、旅行に行くこと】でした。

その時、娘は2歳、息子は6ヶ月でした。




私は少し、悲しい気持ちになりました。

そう思うことを、否定するつもりはありません。母たちの世代であれば、きっと一般的な考え方だと思うのです。
むしろ【非常識だ】ではなく、【私なら】という言葉を添えられたのは、あのお母さんらしいなと思います。


ただ、私たち家族も、
初めからすぐに離れられた訳ではないということ。

そこに至るには、私たち家族なりの小さな積み重ねがあったこと。

それを少しだけ分かって欲しいのです。
どうか、「無理だわ」の一言で、跳ね除けないで欲しいのです。


私も、娘が小さかった頃は、
夫に任せ切ることについて、不安がありました。

夫は、お風呂に入れて、おむつを変えて、夜泣きにも付き合い、育児には積極的でした。

けれど、
私は育休で、夫は仕事をしていましたから、
一緒にいる長さはどうしても私が長くなりました。
娘は、パパがいても、ママが見えないと泣いてしまう時もありましたし、ママとしか寝られない時もありました。

赤ちゃんの娘を置いていけず、
友人の結婚式に出席するために、はるばる新幹線で、娘と夫についてきてもらったこともありました。




それでも、
夫と娘二人で出掛ける、
私が髪を切る間、夫と娘二人で留守番をする、
など、昼間二人になることから始めました。

慣れてきたら、
夜、私が飲み会に出掛ける、
朝から夜まで、趣味の音楽サークルに通う、
など時間を伸ばして行きました。

はじめのうちは、何度もメールしては「大丈夫?」と確認していましたが、いつの間にかしなくなりました。
夫はお世話に慣れ、私も信頼して任せることが徐々にでき、自分の時間を楽しめるようになっていました。

娘は娘で、ママと同じようにパパにも安心感を覚え、ママはちゃんと帰ってくると分かるようにもなってくれたみたいです。



だから、はじめて旅行に行く頃には、

「子供たちは私一人で育てている訳ではない。
夫や、夫の両親や、私の両親、保育園の先生、みんなで育ててる。
だから、大丈夫」

という気持ちで、任せて旅行に行くことができました。



2回目は海外でしたが、この時も家のことには不安はありませんでした。

ただ、今回は。
母と離れるに際し、
小一の娘はこんなことを言ってきました。

「ママ、道に迷わない?ちゃんとお家に帰ってこれる?」
「明日は早く帰ってきてね。私たちより先に帰ってないと、心配になっちゃうからね」

方向音痴の私を、心配して、こんな言葉をかけられました。
この間も、公園からの帰り道、子供たちを連れて道に迷ったばかりでしたから。

自分の寂しさじゃなくて、
ママの方向音痴の心配をするなんて。
大きくなったね。


✴︎
いつもなら、あれもやりたい、これも食べたい、
と旅行の前にガイドブックを買っていろいろ決めてしまうのですが、今回はひとり。

宿はずっと素敵だなと思っていたところを予約し、宿で過ごすことをメインに。

宿はこちら。



あとは、自分の気の向くままに、
旅をすることに決めました。

海をぼぉーっと眺めるのもいいし、
一日中部屋で本を読んでは眠るのもいいしなぁなんて、
怒涛の夏休み子供たちからの「遊ぼう!」攻撃の合間に、
想像はしていました。

けれど詳しいことは決めず。

そんなきままなひとり旅の話はまた、
次回記事にしたいと思います。



今日はこの辺りで。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。




※本記事の続編です。(8月11日追記)

(8月15日追加)


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