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戦争は戦中だけでは終わらない『水曜日の凱歌』/読書感想文(2022上半期5冊その5)

2022年上半期に読んだ本の中で、おすすすめ本を5冊選んで、書いています。

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夏になると、戦争のことを考える。
小中学生の頃、戦争と平和について学ぶ授業があったのは、決まって夏休みの時期だった。登校日だったかな。『はだしのゲン』や『ライフイズビューティフル』などの映画を、体育館の床に座り皆で観た。
体育館は蒸し暑く、映写機の光を受けた子供が、スクリーンに黒い三角の形の影を並べた。

2022年現在では、子供たちに衝撃が強すぎる映画をもう学校で見せることはないのかもしれない。
でも、私はあの時に見れてよかった。あの頃の記憶が、夏が来るたびに、戦争がどこか遠い国の出来事ではなくて、自分たちのこの命をつないでくれた先祖が体験した、辛すぎる現実なのだと思い出させる。

そして今も、世界で起きている戦争や紛争を思う。物語ではない。現実に、悲惨な出来事が繰り返されている。もう二度と起こしてはいけないとあれほどまで言われても。
それでも、私は夏が来るたび、刻み直す。

戦争は二度と、起こしてはならない。



授業では、戦「中」のことは、
スピーチを聞いたり、映画やドキュメンタリーを通して、肌で感じるよう学んできたような気がしているけれど、
戦「後」のことは、歴史としてしか学んでこなかった。その分、実感が薄い。胸に迫るものがない。
だから、戦争は8月15日の終戦の日に終わったものだと思っていた。

けれど、そうではないと教えてくれた本がある。
今回選んだ乃南アサの『水曜日の凱歌』
まさに戦後の日本を、14歳の少女の視点を通し、体験して行く物語だ。

この小説の中では、
終戦の日までがプロローグなのだ。

終戦の日はこんな風に書かれる。

 終わったんだって。戦争が。
 負けたんだって。日本が。
 お母さまは泣き笑いのような顔で「万歳」と囁き続けている。鈴子もお母さまの目の前に立ったまま、両手を思い切り大きくあげて、その代わりに声だけは小さく「万歳」と囁いた。それから二人揃って、声にならない「万歳」を何回も、何回も繰り返した。

 昭和二十年八月十五日。暑い暑い、水曜日の昼下がりだった。

乃南アサ『水曜日の凱歌』プロローグ


今日みたいに暑い夏の水曜日に、戦争は終わった。

けれど、全ての戦いがそこで終わったわけではない。むしろ、夫も息子も戦争へ行って戻らず、負けた側の日本兵は守ってくれない状況で、女たちはここから新たな戦いを始めなくてはならなかった。

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