見出し画像

コレクション本の愉しみ


先日本当に久しぶりに、何も条件なしで心が羽ばたいたというか、浮き立ったというか、ときめいた。

広々とした青空のもと、草原とか海辺に大の字に寝転んで、さわやかな風を深々と吸った感じだ。
Tシャツというワードに引っ張られ、心はなんだかカリフォルニア。
青い空、青い海、さわやかな風!行ったことないけど。

この本を味わったからだ。

画像1

「村上T  僕の愛したTシャツたち」(村上春樹著・マガジンハウス)


世の中に心浮き立つものはたくさんある。
3月で終わってしまったけれど、「世界は欲しいモノにあふれてる」・・・。

私はコレクター気質はない。
けれど「素敵だ、欲しい、ああいいな」と思うものは世の中に本当にたくさんある。

コレクターになれないのは、現実的というか、経済観念が発達しているというか、集めても管理しきれないというか・・・まあいろいろある。
そして年齢を重ねるとともに物欲が無くなったけれど、若い頃はちょっといいな、と思う雑貨とか洋服とか、すぐ手を出した。

今は、本当に欲しいもの、納得のいくものを選びに選んで買う。
そしてそんな自分を気に入っている。

でも、特にこの自粛ライフの期間、欲しいものを厳選したというより、必要なものだけをピンポイントで調べ、購入していただけかも、と思う。
ふらりと出かけ、あふれる心惹かれる品々から運命の出会いを探し、!!!というものと出会ってもさらに悩みやっぱり買っちゃう・・・といったプロセスをたどって買ったものなんてない、ような気がする。

「村上T」という本そのものが、昨年6月に発刊されていたのに今年の3月まで知らずにいた。大きな本屋さんを回遊(何時間も)することが無上の愉しみだったのに。ここ1年お目当ての(主に漫画の)新刊をそそくさと近所のイオンとかに入っている書店で購入して急いで店を後にする、そんなことばかりしていた。

けれどこの本「村上T」
村上春樹さんのもとに知らぬ間に集まってしまったTシャツたちの写真と、村上さんのコメントというか解説というか、それだけでできているのだけれど、「ああ、いいじゃん、欲しいものは買えば。ステキなものはやっぱり素敵だ。」と、なんだか「心の物欲」が満たされてしまったのだ。(変な表現)

これは本当に必要か。このデザインは本当に好きか。この機能で本当にいいのか・・・・。そういうことを考えながら物をそろえることは好きだし、自分が暮らす中で納得がいくし、後悔しないし、大切なこと。

けれどそんなことお構いなし、「いいんだもーん!」 と、スコーーンと心が突き抜ける気持ちが戻ってきた!
Tシャツに引っ張られて、なんだか心はカリフォルニア、アメリカ西海岸だ。(2度書く)
抜けるような青空を見上げる傍らにはバドワイザー(赤いコーラでもいいけど)とハンバーガーとフライドポテト。

行ったことないけど。(2度書く)

記事の最初に「何の条件もなく」と書いたけれど、「必要?納得いく?ほんとに好き?」みたいな、自分の実生活に直結するかしないかなんて関係ない、「ああ素敵」だけの気持ちを取り戻せる本だった。

肩の力抜けました。呼吸深くなりました。気持ち楽になりました。

今年はTシャツとジーンズで過ごそう(いつもだけど)。
ジーパン、好きなやつ探して買おう。
自分のときめくTシャツは買ってしまおう。

多分選びに選んで、経済観念を発揮させながらだけれど。
「好きなテイストに素直になる」気持ちを思い出させてくれた本。

中身を一つだけ紹介すると、やはり村上ファンなら垂涎の一着、「トニー・タキタニ」Tシャツ。

画像2

そしてなぜ私が遅ればせながら「村上T」を知ったかというと、ユニクロが「村上ラジオ」とコラボしたTシャツが3月初旬に発売されて、私にしては珍しくネットで発売初日に4着(プラスピンバッジ2個)をすでに爆買いしたから。(先にTシャツ買ったのかよ、物欲ないとか書いてあったけど?)

画像3


その流れで、キーワードかぶりだと思うけれど「村上T」を知って、もちろん服より本だからさっそくポチって、Tシャツ爆買いには肩に力が入ったけれど、そんな罪悪感や懺悔の気持ちや免罪符とかとは全く切り離したところで、本を読んで本当に楽しい気持だけがやってきた!


🐾 🐾 🐾 🐾 🐾


話は変わるけれど。

私はコレクター気質ではないけれど、心惹かれるものはたくさんあるからコレクターの書いたコレクションについての本がとても好きだ。
(noteでもポストカードのコレクションにエッセイを付けている方のマガジンとか、好きな建築物を集めたマガジンだとか、とにかく心惹かれてしまう。ご当地怪獣とかも好き)

だからコレクションについての本をもう少しご紹介。

まずはこれ。
「バービーからはじまった」(茅野裕城子著 新潮社)

画像4


どうです?表紙のアンティークバービーのこの表情!
これにハートを撃ち抜かれて、この本を買ってしまった。

画像7

↑ カバーの折り返しを伸ばしたところ。内側のバービーもとても魅力的。表に出ていた部分は少し色あせている。

実は私は小さい頃から、お人形に全く興味がなかった。
リカちゃん人形も全く欲しくなかったし、現に一体も買ったことがない。
理由は、あのプラスチック感。手足もこわばり髪の毛もてかてかの化繊全開だし、お目目も変にキラキラで小さい頃から全く好みではなかった。(お好きな方はごめんなさい!)

でもこの表情!
そしてお洋服やヘアスタイルのおしゃれなこと!

むしろ大人になったからこそ分かる魅力。
これは自分の手元に現物は欲しくなくても、その物の魅力が目いっぱい伝わってくる、まさに「コレクション本」の愉しみの極み。

もちろん著者のバ―ビーへの愛がつづられ、そしてバービーの鑑賞ポイントだけでなく、その歴史や社会の中の女性像の変遷とか日本とのかかわりとか様々なモデル誕生の裏話とか、興味の尽きない一冊。

そしてなんと言ってもバービーたちの魅力的な写真。

画像8


もう一冊はちょっと変わり種。

画像5

「新解さんの謎」(赤瀬川源平著・文春文庫)

「新明解国語辞典」の、よく読むと、というか読めば読むほどツッコミどころが見えてくる項目を取り上げて、融通無碍な感想というかツッコミというか解説というかを加えたもの。

ちょっとおかしな「辞書の表記」のコレクションだ。

特に私のツボにはまったのが

画像8

かえん【火炎】 ・・・中略・・・  【 ― 瓶②】ガラス瓶に・ガソリン(石油)を入れ、投げつけると発火するようにしたもの。かぞえ方 一本

太字は私がつけた。火炎瓶の数え方!(「かぞえ方」は本来四角い枠で囲んである。)

わざわざ火炎瓶の数え方の数詞を載せる辞書も辞書なら、それを見つけて書物にする著者も著者だ。
「新明解国語辞典」は、全ての名詞に「数え方」を載せているわけではない。それなのになぜ!火炎瓶は数え方を記載しようと思ったのか?!しかも第1版から4版に至るまで!!

読んで爆笑するところではないのだが、じわじわと、もうずっとじわじわとおかしい。「かえんびん かぞえかた いっぽん」たぶん私は一生じわじわと、この項目から笑いをもらうと思う。

なお「新明解国語辞典」第1版には火炎瓶の詳しい作り方も載っていたが2版以降詳細は省略されたそうだ。
諸般の事情がうかがえるが、そこを逃さず報告するこの書物「新解さんの謎」の神髄、グレートさがこの一項に凝縮されている。
(第1版の「詳しい作り方」の方もこの本にはちゃんと載っている。上記引用は4版より)


実生活では物欲がなく、しかし気に入ったものを厳選して、そして経済観念を発揮して購入し、割と物が少なめですっきりした生活を手に入れた私だけれど、本来心ときめくもの、好きなものがたくさんあって、そういう気持ちは失いたくない私を救う「コレクション本」。

そういう本を私はコレクションしている。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

お読みいただきありがとうございます。楽しんでいただけたなら嬉しいです😆サポート、本と猫に使えたらいいなぁ、と思っています。もしよければよろしくお願いします❗️