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「ハイウェイ・ホーク」第一章 発動(1/7)【創作大賞2024ミステリー小説部門】

あらすじ

世の中には誰も手出しできない特別な空間がある。その空間を支配するものは、鷹のように鋭い嘴と爪を持っている。しかしその爪を使うことで誰かが傷つくことを知っている。だから例え虐げられる運命にあっても、彼らはそれを隠して直向きに生きている。その鷹がもし復讐の念に駆られたら・・・。

高速道路と言う閉鎖された空間。そこは自動車に乗らなければ進入できない。さらに止まることも、逆走することも、途中で降りることも許されない。

高速道路上で爆破事件が発生した。犯人は更なる爆破を予告し、管理会社に多額の金を要求する。
高速道路を巧みに利用し、犯人は警察を翻弄し金の強奪に成功するが、犯人は思わぬ結末へと導かれていく。


 早朝のサービスエリアは利用客も少なく、広大な敷地の中は閑散としている。駐車場には、運送会社のトラックかゴルフ場に行く乗用車が点々としているくらいだ。そのドライバーたちも建物かトイレの中に入ってしまっているのか、外を歩く人はほとんど見当たらない。
 京神高速道路の吹石サービスエリアは、この路線の中でも最も敷地が広い。その一角にレストランや土産物売り場が立ち並び、すぐ脇にある歩道沿いの木々は桜の花が満開になっていた。この日もいつも通りの朝を迎えていた。
 利用客が増えてくる前に、清掃員はトイレ掃除、ゴミの回収、建物内の床掃除を済ませなければならない。サービスエリアは必ず上下線別々に設けられていて、上り線にも下り線にも屋外用の鋼製のゴミ箱が設置されている。高さは一メートル程の大型のゴミ箱で、燃えるゴミ、ペットボトル、空き缶と分別できるように分けられており、それらがサービスエリア内の数箇所に設置されている。清掃員が毎朝ゴミの回収作業を開始する時間は午前八時ごろ。午前七時となれば、サービスエリア内ほぼ無人と言っても過言ではない。そのゴミ箱の一つが突然爆発した。

 ほぼ同時刻に京北自動車道下り線側の美紀サービスエリア、南和自動車道上り線の大野川サービスエリアでも同じような爆発が起こった。美紀サービスエリアではドッグラン内に置いてあった犬小屋が、大野川サービスエリアでは展望台の付近に設置されている花壇に爆発物が仕掛けられていた。
 サービスエリアの職員から緊急連絡を受け、管轄の管理事務所から職員が各現場へと急行し、三箇所のサービスエリアはすぐに封鎖された。少し遅れて数台のパトカーと共に警察官も到着し、念のため各高速道路を一時的に通行止めにした。三箇所で同時刻に爆破があったとなれば、同一犯が意図的に爆発物を仕掛けた可能性が高い。そうなれば時間を置いて、他の場所でも爆発が起きる可能性が考えれる。
 サービスエリア内は物々しい雰囲気に包まれた。建物の前は警察車両が占拠し、警数十人の察官たちが走り回っていた。まずは三つのサービスエリア内にまだ隠されている爆発物が仕掛けられていないか、警察官たちがくまなく捜索した。それと同時に爆発物処理班が爆発現場の検証を行い、工事現場などで使用されるダイナマイトに時限発火装置が取り付けられていることを突き止めた。時限装置は手製のもので同一犯による犯行と断定された。

 大阪にある関西ハイウェイ公団の本社内では、早朝にもかかわらず役員や関係部署長たちが緊急に集められ、社屋内の最も広い会議室に緊急対策本部が設置された。その後、定刻に出社してきた社員たちも総動員で事故の対応にあたった。管理事務所の職員たちは、手分けして全路線にあるサービスエリア、パーキングエリア内に爆発物が仕掛けられていなか捜索した。警察からは万が一爆発物を発見した場合は手を触れず、至急連絡するように徹底指示を受けていた。
 公団の全職員が対応に忙殺されていた午前十時、公団本社の電話が鳴り響いた。総務課の女子社員が応対したが責任者と話したいとしつこく言うので、保全管理部長の東出浩一が電話を代わると電話の主がいきなり話し始めた。
「今朝の爆破事件の首謀者だ。あんたの名前を教えろ」
東出の顔が一瞬にして真っ青になった。
「そちらこそ、先に名乗るべきではないのですか」
「爆破事件の首謀者だと言っている。次の爆破の予告だ。一度しか言わないからよく聞け。あんたたちの会社が管理する高速道路の人が集まる場所に爆弾を仕掛けた。ダイナマイトの量は今朝の三倍だ。多くの人間が犠牲になる。今日中に現金で三億円を用意しろ。それを受け取れば爆弾を仕掛けた場所を教える。警察には絶対に漏らすな。警察に漏らしたと分かった段階で爆破させる。おまえの名前を教えろ」
「ひっ、東出と申します」
「東出さんか。また電話する」
 電話は一方的に切られた。東出は社長室へと走り、ノックもせずに飛び込んだ。緊急会議の合間にたまたま社長の三宮彰次郎が戻っていた。
「社長っ、たいへんです」
「何だね、東出君。君にはノックくらいする礼儀はないのかね」
 三宮は東出の狼狽えようからただならぬ事態が起きたこと悟ったが、まずは東出を落ち着かせようとした。
「申し訳ございません」

 平静を取り戻した東出は、また爆破が起きるとの犯人からの脅迫電話があったことを三宮に伝えた。その時である。今度は社長室の電話が鳴った。三宮と東出は目を見合わせると、三宮がゆっくりと受話器に手をかけた。
「社長さんか。さっき東出と言うやつに要件を伝えた。こちらの要求を聞き入れなければ爆破を実行する。大勢の怪我人が出れば、だれも高速道路を使わなくなる。あんたたち通行料金がなくなると困るんだろ」
「金が目的かね」
「その通りだ。すぐに三億円を用意しろ。金の引き渡し方法については追って連絡する。それと社長さん、あんたの携帯番号を聞いておこうか」
 三宮が携帯番号を教えると、またも電話は一方的に切られた。電話の声は先ほど東出が応対した時と同じようにボイスチェンジャーで変換されていて、性別すら判別することができなかった。三宮は取締役数人だけを緊急に社長室に呼び寄せてこのことを伝え、対処方法について意見を求めた。彼らだけで内々に話し合い、内密に警察に通報することで一致した。引き続きこのことを犯人に悟られないように、秘密裏に連絡する方法について話し合った。犯人は何らかの手段を使って、こちらのことを監視しているかわからない。電話が盗聴されているかもしれないし、社内に内通者がいないとも限らない。話し合いの結果、爆破があった吹石サービスエリアまで関西支店長が視察を装って出向き、現地にいる警察官に直接話をすることで方針が決まった。本社から車で約十五分。現地ではすでに爆発物処理班が撤退しており、爆破地点付近の警備を行っている警察官が数名残っていた。その一人を人目の付きにくいサービスエリア内の屋内に呼び込み、脅迫電話の一件を伝えた。その警察官から大阪府警に連絡が入り、公団本社の会議室に緊急対策本部が設けられることになった。

<続く>


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