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「ハイウェイ・ホーク」第一章 発動(5/7)【創作大賞2024ミステリー小説部門】

 少し時間を戻す。午後九時三十分、今度はショートメールではなく三宮の携帯電話が鳴った。三宮は運転をしていたので代わりに東出が応答した。
「三宮さんじゃないな。まあ、いい。今、どこを走っている」
「ご指示通り浪速道下り線を南下し続けています」
「どこを走っていると聞いているんだ」
「どうお答えすれば、いいんでしょうか」
「次のインターチェンジまでの距離は」
「印西ICまで、あと1キロメートルのところです」
「わかった。そこで降りてUターンしろ。浪速道を北上するんだ。急げ、通過してしまうぞ」
「わかりました。それからどうすれば・・・」
 電話は切れた。切れたと同時に東出は三宮に大声で叫んだ。
「社長、犯人からの要求です。次のインターで高速を降りてください。あと100メートルもありません。急いでっ!」
「何だとぉ!」
 三宮はそう叫ぶと同時に急ブレーキをかけ、左にハンドルを切った。
「尾形、左だぁ」
 谷川の大声と共に尾形も急ハンドルを左に切った。後続していた谷川たちは、何の連絡もなく前方を走る軽トラックが、インターチェンジを降りたのを見て何とかうまくインターを降りることができた。危うくそのインターを通過するところだった。他の二台の覆面パトカーはすでに先のインターチェンジで待機していたため、谷川たちが通過してしまうと追跡する車両が皆無になってしまうところだった。
「東出さん、どうしたんですか。急にインター降りるなんて。連絡をくださいよ」
 谷川は無線機に向かって叫んだ。
「申し訳ございません。印西インターチェンジのすぐ手前で、犯人から電話があって、急に次のインターで降りてUターンしろと指示がありました。こちらが間に合わせるのに必死だったので、とても連絡する余裕がございませんでした」
 東出が申し訳なさそうに答えた。
「ホシから電話ですか。先ほどまでショートメールで指示が来てたんですよね」
「はい、今回に限って電話での指示でした」
「了解しました。とりあえず指示に従ってUターンしてください」
「わかりました」

 谷川は二号車と三号車に至急高速道路に乗って北上し、二号車は印西ICの次のインターチェンジで三号車はさらに次のインターチェンジに先回りして待機するように指示を伝え、谷川の乗る一号車は引き続き軽トラックを追走することにした。
「ホシはなぜ、三宮さんたちが印西ICの手前近くを走っていることがわかったんですかね。どこかから見ているったって、軽トラをずっと追っかけていなければわからないはずなのに。我々以外に軽トラの後を走っている車なんていませんでしたよ。それにインターを降りる直前に電話してきて、我々の存在を確かめるとか、追跡を振り切るとか、そんな思惑もあったんでしょうか」
 谷川も尾形と同じことを考えていた。なぜ何十キロメートルも移動してきた三宮の位置が正確にわかったのか。三宮の軽トラックに発信器でも仕掛けていたのか。いや、大阪府警が手配した車両にあらかじめ発信機を仕込むことなんて有り得ない。そうだとしたら犯人はどうやって軽トラックを追尾することができたのか。谷川には全く理解することができなかった。谷川は無線で水川に状況を報告した。
「谷川、また同じことを仕掛けてくる可能性がある。同じことを何度も仕掛けて警察が動いていることを確かめてから、最終的には我々の追跡を振り切るようなトラップを仕掛けてくるかもしれんな」
「私もそう思います。これで終わらないと思いますね。しかしいたずらに追跡車両を増やせば、やつらに我々の存在を知らしめることになりかねません。それにこうも大阪から和歌山間を走らされて、どこのインターチェンジで降りるのかもわからないなら、先回りすることもできません。高速道路の上にいる限り、我々は次の一手が打てません。全く高速道路ってのは厄介なところですよ」
「わかった。このまま慎重に追跡を続けてくれ」
 水川も谷川も互いにもどかしい気持ちを言葉に表すことを避けた。
 その後、三宮たちは一時間ほど走り続けた。谷川たちはインターチェンジごとに覆面パトカーを入れ替えながら追跡を続けた。

 午後十時三十分、また三宮の携帯電話が鳴り東出が応対した。今度は谷川たちにも会話が聞こえるように、無線機を携帯電話に近づけて話すようにした。
「今、どこを走っている」
「海塚ICを通過して、十キロメートルほど過ぎた当たりです」
「わかった。このまま走り続けろ。ただし携帯電話をつなげたままにしておけ」
「わかりました」
 東出は携帯電話から話し声が聞こえてしまうため、谷川たちと無線で話すことができなかった。この時、追跡していたのは谷川が運転する一号車だった。印西ICでUターンしてから一度高速道路を降りた時に、すでに尾形は百キロメートル近く運転していたので谷川と運転を入れ代わっていた。谷川と尾形に携帯電話のやり取りは聞こえていたが、こちらから無線機に話しかけることができなかった。皆が無言のまま走行し続けた。そしてまた犯人からの指示が携帯電話越しに聞こえた。
「あと500百メートルで小泉SAの入り口がある。そこに入れ。入ってすぐにトイレがある。その前の駐車マスに車を停めろ」
「小泉サービスエリアに入るんですね。わかりました」
 三宮が運転する軽トラックは指示通りに小泉サービスエリアに入り、指定された駐車マスに車を停めた。谷川たちも続いてサービスエリアに入り、軽トラックから少し離れた場所に覆面パトカーを停めた。
「先行している覆面を呼び戻しましょうか」
 尾形が小声で谷川に確認を取った。
「いや、待て。また動き出さないとは限らない。しばらく現在地のまま待機させろ」
 この時間になるとサービスエリア内の土産物売り場やレストランの営業時間外になっており、自動販売機とトイレの周りだけがライトに照らされていた。

<続く>

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