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転売規制、その先にあるもの:4 転売ヤーは誰で、購入者は誰なのか

本稿は、「転売規制、その先にあるもの:3 身近な問題としての書籍の絶版」からの続きです。


 最初、この報道を耳にした時、「メルカリで」と聞いて、「どうせ個人がお小遣いの範囲内でやっている副業だろ」って、勘繰っていた。ところが、野次馬根性で、メルカリを開いて驚いた。個人で購入するとは思えない、その取引量に。

 確かに、転売問題に注目するきっかけの一つとなった、文春オンラインの記事を読み返してみると、タイトルは「100万円超……荒稼ぎ」となっており、取引規模が大きいことがわかる※22。しかし、この記事に登場する転売ヤーは、「日本在住の中国人……に売る」とあるので※23、あくまでも、すでに転売ルートを独自に開拓している、特殊事例だと思っていた。まさかメルカリ上を主戦場とする転売ヤーが、こんなにも蔓延しているとは思いもよらなかった。

 記事にも書かれている通り、また取引量の多さからも容易に想像がつくように、こうした転売ヤーは集団化している。また、マスクをネットオークションに出品していたことで、ぼろくそに叩かれることになった、かの静岡県議もまた、自身が経営する貿易商社での行為である※24。つまり、れっきとした企業であったり、企業並みの転売屋であったりが、メルカリをはじめとする、情報技術によってもたらされた新たな市場、つまり小売店を介さずに、直接、消費者と結びつくことが可能な市場に参入してきているのである※25。

 そう考えてみると、「道徳観」や「倫理観」をかざすことでしか、転売行為を非難できない人たちに失望する。情報化社会の到来がもたらしている地殻変動に、感情論だけで立ち向かおうとしているように映るからだ。それを反映するかのように、利ざやを貪る売り手ばかりが取り上げられてきたし、どの記事も「通常の感覚ではない」などというところに落としどころを求めるしかなく※26、文章に切れがない。加えて、このように偏った報道は、転売とは無縁だった人にも、転売をさせる契機を与えた可能性も否定できない。なお、念のため、記事の見落としがあったかもしれないと思い、改めて、「転売」などの語句で、ウェブサイト検索をかけてみたが、やはり買い手を取り上げた記事はきわめて少ない。

 買い手にかかわる記事は、後で紹介するが、いずれも、マスク転売が社会問題となりはじめた2月から3月にかけてではなく、マスクバブルが崩壊する直前の4月末から5月にかけてに掲載されている。どうやら、マスクを切に必要としていた人への供給が、本格的に途絶えはじめて、ようやく記事になったといえそうである。

 転売の売り手と買い手は、表裏一体の関係であり、例え法外な値段がつけられていたとしても、取引が成立したのであれば、買い手がついたことを意味する。この買い手の中には、切に必要としていた人が多く含まれることは想像に難くない。供給の目途が立たない中では、確実性の高い入手経路だったのではないだろうか。この買い手に着目することにより、マスク不足という異常事態が抱えている課題が浮き彫りになったはずで、喫緊にやるべきことが自ずと見えてきたはずである。

 では、誰が購入したのか。

 転売問題が表出してきた時点で、記事にしようと思っていれば、メルカリなどに張り付いて、売り手と買い手の購入前後のやりとりや、金額、数量などをひたすら収集していたはずだが、当時はそこまで考えていなかったので、お見せできる記録がない。加えて、引用できる報道も少ない。なので、申し訳ないが、以下では、当時から考えていた憶測を書かせてもらう。

 取引されている量から鑑みて、真っ先に思い浮かんだのは、後発の転売ヤー。そこには、売り手にも買い手にも、「倫理観」なり、「道徳観」なりは微塵もないので、まだまだ高騰すると読む連中は、例え、すでに高額であろうと、手を出す。

 次に、思い浮かんだのが、福祉サービスの事業者。医療機関に比べ、マスクの供給源とのつながりが弱く、それでいて、職員のほぼ全員が、日々マスクを必要とするのではないか、と考えたからである。ここに思い至り、次の光景が脳裏をかすめた。

 在宅介護サービスを利用している。その介護サービスの現場で、常日頃からマスクをつけて仕事をこなしていた職員が、突然、マスクをせずに現れた。聞けば、事業所のマスクが底をついたという。憂鬱な気分にさせられ、契約の見直しを考える。

 ところで、転売ヤーの行動に関して、静岡県議の一件も引き合いに出しながら、「プロスペクト理論」なるものでもって解説している記事がある※27。ヨコモジのリロンは各自、勉強してもらうとして、この記事の要点は、転売は市場原理によって淘汰されるということにある。なんとも牧歌的な結論で、有能な転売ヤーほど、淘汰される以前に市場から去っていると思うが、それはさておき、同時に指摘している、小売店が市場原理に合わせて値上げしなかった理由については、買い手の問題を考えるヒントを与えてくれた。

 それは、小売店が「品薄に便乗して過度な値上げを行えば、中長期的にみたマイナス効果は計り知れない」という部分である※28。この文言をお借りして、買い手の問題を書いてみると、次のようになる。「品薄で過度な高値で取引されていようとも、そこで買わなければ、中長期的にみたマイナス効果は計り知れない」と。つまり、福祉サービスの事業者は、マスクを調達できなかった場合、事業の継続が危ぶまれるという意味である。

 さて、想定される転売の買い手に関する数少ない記事を、二つほど紹介しておこう。一つは、経済誌『フォーブス』が取り上げた記事で、福祉サービスの現場に焦点を当てたものである※29。憶測が、現実であったことを伝えてくれる※30。もう一つは、毎日新聞の記事で、医療的ケアが欠かせない子供に関して、消毒液をはじめとする衛生用品が足りない現状を取り上げている※31。いずれの記事にしても、現場の切迫した状況が痛いほど伝わってくる。利ざやを貪る転売ヤーがあれだけ報道されて、なぜ、こうした現場の最前線がもっと報道されないのか、首を傾げざるを得ない。そこには、報道の中枢に位置する新聞でさえも、閲覧数を稼ぐような記事ばかりが求められているような気がしてならない。

 ともあれ、日本政府は、転売を禁ずる方向にかじを切った※32。禁ずることはたやすい。しかし、それだけでは、何の問題解決にもならない。必要とする人に配慮する施策を合わせて講じることで、はじめて解決につながるのだ。


「転売規制、その先にあるもの:5 当然の帰結としてのアベノマスク」(2020年7月25日投稿予定)へつづく

※本稿は、合同会社Fieldworkerが運営するウェブサイト「Fieldworker's Eyes」に寄稿したものの転載です。そこでは、すでに全文が公開されています。長文なので、noteには、6回に分けて転載する予定です。なお、オリジナルでは、注釈も見ることができます。

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「転売規制、その先にあるもの:6 情報化社会における価値観」(2020年7月28日投稿予定)

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調査研究に明け暮れて、はや四半世紀。現地調査で培った「もの」の見方と、文献調査で養った「こと」の読み方、そして論文執筆で育んだ論理的思考を源泉に、空間と社会のなぜをひもとく。