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潜入調査の方法(書評:ナンシー関『信仰の現場:すっとこどっこいにヨロシク』角川書店1994.7[文庫版:角川書店1997.6])
捧腹絶倒の一冊である。 そんなわけだから、何を書いても本書の魅力を半減、いな、それ以下にさせてしまいそうで、書評なんて書く気が失せる。できることなら筆を執りたくない。が、本書には、現地調査のいろはが詰まりに詰まっているだけに、筆ならぬ、鍵盤を叩かずにはいられなかった。 著者であるナンシー関との出会いは、『週刊文春』だったように思う。彼女の経歴を振り返ってみれば、『ホットドッグ・プレス』などで、目にしていたのかもしれない。が、印象に残っていない。『週刊文春』での連載は
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シンガポールから見たコロナ禍の日本の政策 :華字新聞『聯合早報』社説「日本の脱中国化政策―過度な中国依存からの脱却」を読む
シンガポールは、去る8月9日に建国55周年を迎えた。その余韻冷めやらぬ8月11日に、華字新聞『聯合早報』では「社論:日本啓動避免過度依頼中国行動」と題する社説が掲載された。日本語に訳せば「日本の脱中国化政策―過度な中国依存からの脱却」とでもなろうか。以下では、この社説を手掛かりに、コロナ禍の日本が、シンガポールにどのように映っているのか、また何に注目しているのか、考えてみたい。 なお、「日本企業の脱中国化」に関しては、2020年5月22日の『聯合早報』でも「在華日企“想
¥400聞き取り調査から紡ぎ出される物語の迫力(書評:山崎朋子『サンダカン八番娼館:底辺女性史序章』筑摩書房1972.5[文庫版:文春文庫1975.6])
本書は、「からゆきさん(唐行きさん)」の生涯を、聞き取り調査からあぶりだしたものである。「からゆきさん」とは、九州西部の天草、島原で使われはじめた言葉のようで、戦前、海外に出稼ぎに出た女性のことを指す。そして、その多くは、妻妾や売春婦を生業としていた。本書の副題が、「底辺女性史」たる所以である。 「女性史」などというと、硬い研究書のようであるが、本書はいわゆる研究書ではない。まだ著者を知る人も少なかったであろう1972年に上梓され、その3年後に文庫化されていることからも