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文学フリマ東京37@作品感想 「海底書房さんのポストカード」

その写真に、一目惚れだった。


文学フリマで購入した作品の感想3つ目は
海底書房さんの素敵なポストカードです。

文学フリマに参加したあの日。
僕はまったく事前情報を入れずの初参加だったので
どこに行けばいいのかとか、どのブースを見るのかとか
まったく決めていないまま、目に留まった作品のところに行こうと思って
目をギラギラさせながら会場を歩きながら
目に留まった作品があったところへと足を運んでいた。

そんな中、ふと、ひとつのポストカードが視界に入ってきて。
それはそれはもう、一目惚れだった。

僕は風景の写真が大好きで
特にノスタルジーを感じさせる叙情的な写真には目がない。
自分もそういう写真を今まで何千枚と撮ってきたのもあって
自分の感性に近しい写真が目に入ったら、忘れられなくなる。

海底書房さんのポストカードは、まさにそれだった。

本も顔が大事なのと同じように
僕はそのポストカードの顔に引き込まれて。


そして、僕はやらかす。

「あとで買わせてもらおう」

そう思ってブースの名前すら覚えることなく
「大体あの辺りにあるよな」という記憶だけを頼りに
あとで買いに行こうとした。

そして見事に僕は海底書房さんのブースを見失う。

何度も何度も、この辺だよなって思って
記憶を頼りに近いと思っていたブースを繰り返し歩く。

見つからない。
いや、おかしい。
これだけ何度も行き来してるのに
どうして見つからないのか。

冗談抜きで1時間近くウロウロしていたと思う。
それでも見つからなくて、何度も同じ場所を歩き回る自分が
周りから不審者に見えているような気がして
もう諦めようかと思った。

それでも、たった1枚のポストカードが欲しくて
僕は「これで最後」と思って、また会場をさまよう。


そうして見つけた。
このブースだ。

砂漠の中でオアシスを見つけたような
そんな気持ちになったのは久しぶりだったと思う。

僕はブースに近づいて
「このポストカードを探していたんです」と
ブースにいた女性に話しかける。

「とても素敵な写真ですよね。この写真が忘れられなくて」

それだけ伝えて、購入させてもらった。
ほんとはどこで撮ったのかとか
どんな時期に撮ったのか
どんな気持ちだったのか
どんなイメージやストーリーを感じたのか
普段からたくさん写真を撮っているのか
風景の写真は好きなのか

聞きたいことがたくさんあったけれど
長くは滞在しちゃいけないなと思ったのと
探し回ったことで疲弊していたのもあって
口数少なく、ブースを後にする。

そうやって購入させてもらったポストカード。
僕の中にストーリーが、こうして生まれた。


写真は朝焼けなのだろうか。
そんなことを思わせる紡がれた言葉。
この人には忘れられない朝焼けがあったのだろうか。
朝は必ず真夜中の静けさを超えた先にある。

真夜中を嬉々として過ごす人もいれば
そうではなくて
触れたくないモノに触れてしまう瞬間にもなりうる。
それぞれの静けさを過ごした先に
良くも悪くも朝日は姿をあらわして
僕らに「今日」を語りかけていく。

この写真の先にある物語が
どうか切なくとも苦しくとも
やさしさに触れる瞬間があることを
願っていたくなる。

ポストカード1枚の表現
ほんとうに素敵な表現。

僕は何かを感じ、この写真に、言葉に
自分の内側にあった心情を揺さぶられた。


ポストカードで表現するの、やっぱり好きだなと
改めて思った。

僕も過去にポストカードを売ったことがある。
その時はとても誰かの手に渡ることなんて想像もできなかったけれど
販売させてもらったカフェで働く定員さんが「私5枚買うの」って
そう言って買ってくれたよと、オーナーさんから後で聞かされて
泣きたくなるほど嬉しかったのを、いまも鮮明に覚えている。

受け取る人にとって何かしらの「意味」を創ることができる。
1枚のポストカードが誰かにとって"物語の続き"になることがある。

あの時の気持ちを思い出させてくれたことも
このポストカードに感謝したい。

あの日大きな会場でたまたま見つけて、目が合って
「欲しい」と心の底から思えたこと自体に
それは意味があったんだと思うし
こうしてその作品から自分の言葉が生まれること自体に
物語の続きとして、意味があったんだと思う。

海底書房さんの他の作品を
じっくり見れなかったことが心残り。

また別の機会があったら
次も立ち寄りたいなと思う。

その時はあの日
ポストカードを買ったことも、伝えて。

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