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地域のつむぎ手の家づくり| 地域の良材と伝統の技術が織りなす「石場建て・木組み・土壁」の家 古き良き“結”の精神と文化を伝える 〈vol.66/木ごころ工房+木遊舎:静岡県西部エリア〉

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の〈地域のつむぎ手〉は・・・


地元産の良質な木材「天竜材」と大工の技術を生かした伝統構法による家づくりを手がける木ごころ工房(静岡県森町)は、志や価値観を共有する地域の大工、工務店の仲間とともに、日本の伝統的な家や暮らし、文化を後世につないでいくことに力を注いでいます。

同社代表の松村寛生さんは「つくり手、住まい手の垣根なく地域のみんなで地域の家をつくり守っていく、古き良き日本独自の“結(ゆい)”の精神と文化を伝えていきたい」と思いを語ります。

「仲間たちと一緒に、伝統の家づくりを通じて“結”の精神や文化を伝えていきたい」と想いを語る松村さん

「石場建て・木組み・土壁」が同社の家づくりの特徴。天竜材のなかでも「他のエリアの木材にはない張りと艶が魅力」(松村さん)と絶賛するスギをメインとする天然乾燥材を手刻みで加工し、合板や金物を使用しない伝統的な工法を用いてつくります。

松村さんは「天竜材という素晴らしい“地域の宝”に恵まれているおかげで、それを扱うことのできる本物の大工と技術が他地域に比べて残っており、伝統的な家づくりに対する地元の理解もある」と話します。

石場建て・木組み・土壁でできた松村さんの自宅
豊かな田園風景を見渡す2階リビングには爽やかな風が吹き抜ける

ただ一方で、全国的な住宅業界における傾向と同じように、大工や左官、建具など各分野の職人の高齢化と若手不足は深刻です。同時に自社も含めて、伝統的な木の家づくりを手がける大工、工務店は規模が小さいことなどもあり、生産の合理化や人材の育成が難しい。こうした状況を踏まえて松村さんは「いま、地域の木や大工による日本の伝統的な家づくりや暮らしとそれらに伴う文化が途絶えてしまいかねない分岐点にあるのではないか」と危機感を募らせています。「そうしたものを守り、後世に伝えていくために、つくり手と住まい手の垣根を越えて地域ぐるみで取り組む必要がある」と訴えます。

力を合わせて若手を育てる

木ごころ工房では、そうした想いや危機感を共有する地元(静岡県西部エリア)の一人親方大工・工務店9社と連携し、任意組織「木遊舎」を結成。人材の育成からプロモーション、家づくりの現場作業まで協働で行っています。

木遊舎で実施した、国産材の柱や横材を組んで楽しむ木育玩具「くむんだー」のワークショップ。仲間が協力して伝統的な木の家づくりをPR

例えば木遊舎のメンバーのもとに大工志望の若手が入った場合は、磐田市にある木造建築の職業訓練施設・中遠建築高等職業訓練校に通わせながら、自社だけでなくメンバーの大工や棟梁のもとに送り込み、「多様かつ密度の濃い経験」を積ませて育成。同訓練校には3年間、週1回通い、同世代の仲間と切磋琢磨しながら、墨付けや手刻みといった加工技術の基本や道具・機械操作、安全衛生の基礎知識などを身につけ、2級建築大工技能士の資格取得を目指します。

松村さんは「1社だけではなく、メンバーみんなで地域の将来の家づくりを背負って立つ若手を1人でも多く育てようという想いで取り組んでいる」と語ります。木ごころ工房では現在、一昨年の春に入社した大工志望の20歳の若手が、同訓練校に通いながら一人前の大工を目指して修業に励んでいます。

家づくりも「みんなでやる」
建て前・壁塗り・焼杉づくり

家づくりの作業も「みんなでやる」が基本です。それぞれの建て前には、メンバーが駆けつけます。最近では、地元・森町内にあるメンバー1人の実家の使われていない田んぼを利用し、協力して「焼杉」づくりも始めたそう。

木遊舎メンバーの建て前には仲間同士が駆けつける。若手大工の育成も「協力してみんなでやる」

メンバーだけでなく、それぞれがワークショップ形式で行う竹小舞づくりや土壁の壁塗りには、それぞれの顧客(施主)とその家族、友人、加えて地元の伝統的な家づくりに興味のある人たちなども参加。木ごころ工房などが中心となって毎年9~10月に町内で行う竹小舞の原材料となる竹の伐採作業にも数多くの人が集まります。「まさに、かつてどの地域にもあった“結”の精神や文化が息づいている」と松村さんは笑顔で話します。

土壁塗りはワークショップ形式で行う作業のなかでも一番人気だ

ここのところ同社では、遠方の設計事務所が静岡県内で計画する伝統構法の住宅の施工や、森町内への移住者が購入した築300年を超える古民家の再生といった仕事も増えているそうです。松村さんは、コロナ禍に伴う人々のライフスタイルや価値観の変化、脱炭素や資源循環型社会への関心の高まりが、「地域に受け継がれる技術と地域の自然な素材による自分たちの『やがて土に還る家づくり』に対する追い風となっている」と手応えを感じています。

暮らしと住まいの
多様な選択肢を守る

松村さんは「自分たちがこの家づくりをしたい、技術や暮らし、文化をつないでいきたいという想いとともに、(デザインや性能など)住宅の画一化が加速するなかで、人々の住まいと暮らしの多様な選択肢を守っていかなければという使命感もある」と力を込めます。

木遊舎ではいま、地域の設計事務所や大工・工務店、森林・林業関係者らと「風杜(かぜもり)の会」をつくり、都道府県ごとに認定される「気候風土適応住宅」の仕様づくりに取り組んでいます。「この仕組みと仕様が確立されれば、例えば長期優良住宅のように選択するつくり手も増え、地域の気候風土に適した伝統的な家づくりをしたいと望む人たちを後押しすることにつながるのではないか」と期待しています。


文:新建ハウジング編集部





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