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地域のつむぎ手の家づくり| 木の魅力を伝え、“ビジネスの種”を生む拠点 地域工務店による地域材の家づくり後押し 〈vol.62/田中製材工業:長野県東御市〉

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の〈地域のつむぎ手〉は・・・


製材業を手がけながら大工の手刻みによる家づくり「キグミノイエ」を展開する田中製材工業(長野県東御市)は昨年、本社のすぐ近くの敷地に、森林の公益的機能や木材の魅力を伝えながら、クリエーターや異業種間の交流を促して“ビジネスの種”も創出する「木の体験複合施設・ミマキウッドラボ」を開設しました。

県産材をふんだんに用いてつくった「ミマキウッドラボ」の外観

同社社長の田中俊章さんは、このラボを通じて「自社だけでなく、地域の工務店による地域の木を用いた家づくりを強力にバックアップしながら、地元に根差す企業として脱炭素社会と循環経済の構築や地域の活性化にも貢献していきたい」とビジョンを語ります。

田中俊章社長

国の事業再構築補助金を活用し、構造や内・外装などに長野県産材をふんだんに用いて、2階建て・延べ床面積約500㎡の施設を整備しました。

低価格ながら高性能な木材加工専用CNCルーター「ショップボット」により、高度な木工作業ができる工房・作業室や大型プリンター・3Dプリンターなどを備えるスペース(デジファブ)があり、まさに“ものづくり基地”と呼べる機能を備えています。

家具製作など高度な木工作業が可能な木材加工専用CNCルーター「ショップボット」(写真・左奥)を備える工房
3Dプリンターなどの機器がそろう「デジファブ」はテレワーカーらのビジネスをサポート。簡単に販促グッズをつくることもできる

そのほかにもコワーキングスペース・シェアオフィスやフリードリンクのラウンジ、子どもたちが木のおもちゃで遊べる遊び場、小規模なコンサートも開くことが可能なイベントホールなど、多用途に活用することが可能です。

2階のコワーキングスペース。木製パーティションは長野県産スギ材による組み立て式で自社の家具デザイナーが独自にデザイン・製品化した
南面の大開口から自然光が降り注ぐフリードリンクのラウンジ。さまざまな人が集まり、交流することで、新たなプロジェクトやビジネスの“種”が生まれることを期待
「木のあそび場」
2階のイベントホールは小規模なコンサートを開いたりすることもできる

施設内の各スペースは、利用用途に応じて、会員制や時間制の料金を設定して貸し出すこともしています。

プロにも工房をレンタル

木工の工房・作業室には、同社の家具デザイナー(兼職人)のスタッフが常駐し、DIYを支援したり子ども向けの木工教室を開催。そのほか工房自体を、大工や家具・建具屋、家具製作を学ぶ学生らにレンタルも行っています。

田中さんは「ショップボットはデジタルの図面データを入力すると、その通りに木材を加工できる秀逸なCNCルーター。一般の人に木材の魅力を体験してもらいながら、より高品質な家具製作や木工を手がけたいプロにも幅広く使ってほしい」と話します。

ミマキウッドラボの開設にあたって迎え入れたこのデザイナーは、自社の家づくりに用いる造作家具のデザインや部材製作なども担っています。田中さんは「いまも当社での業務と並行して、大学の非常勤講師として家具製作について教えるようなスキルの高い人材で、当社が提供する住宅の家具のデザイン性や品質が向上するといったシナジーも生まれている」と説明します。

県産「ツーバイ材」を商品化

同社では、製材業を営む自社の特性を生かして、木工やDIYに使いやすいヒノキ・スギ・カラマツ・アカマツの県産材による「ツーバイ材」(10種類のサイズ×4種類の長さ)を独自開発して商品化。田中さんは、工房で木工の魅力を体験した人たちが、自宅などで木工やDIYなどに取り組む際に、「ぜひ県産材を使ってほしい」と訴えます。また、工房を利用するプロにも同製品の採用を呼びかけ、県産材の普及促進につなげたい考えです。

同社の家づくりは、自社で丁寧に低温乾燥した木材を、大工が手刻みで加工してつくる木組みや自然に恵まれた信州の風景になじむ意匠、HEAT20・G2以上が標準仕様の高い性能などが特徴です。同施設も、構造のほか内・外装に県産材を多用し、G2に届かないまでもG1をクリアする断熱性能とパッシブデザインの採用、14kWの太陽光発電パネルを搭載することで実質的にZEBとなっています。

田中さんは「県産材を活用した高性能な家づくりのモデルハウス」に位置づけ、「地元の木を生かしながら高性能な家づくりに本気で取り組む地域の工務店にも利用してほしい」と考えています。「ライバルではなく仲間として、そうした家づくりを広げていきたい」というのが田中さんの思いです。

交流を促す“橋渡し役”に

ミマキウッドラボを拠点に、木材や木工、木の家づくりの魅力を広げながら、地域の活性化にも力を注ぎます。“本気の取り組み”を展開するため、ラボ開設・運営に備えて、若手人材の採用も進めたそうです。コワーキングスペース・シェアオフィスがあり、3Dプリンターやポスターなども印刷できる大型プリンターといった機器も充実している施設は、クリエーターやテレワークのビジネスパーソンなどが利用しやすくなっています。

「木のショップ」

田中さんは「集まった利用者の交流から新たなプロジェクトやビジネスの種が生まれ、それが地域の元気につながってくれれば」と期待します。自らも積極的にクリエーター同士や異業種間の“橋渡し役”を担い、新たなプロジェクトやビジネスの“仕掛け人”にもなっていく考えです。

農園・農家レストランの計画も

さらに施設内には、バンドなど音楽活動の練習やレコーディング、YouTube動画の撮影・収録などもできる防音スタジオも整備しました。今後は、利用者の疲れを癒しリラックスしてもらうバレルサウナを整備する計画もあるそうです。田中さんは「より幅広い分野や年齢層の人たちが集まり、誰もが楽しめるような施設にしていきたい」と抱負を語ります。

隣接農地には、いちご狩りなどを楽しめる観光農園や地元の食材・農産物を使った料理を提供する農家レストランなどを備える「ミマキファームラボ」を整備していく具体的な計画もあり、実現に向けて着々と準備を進めています。


文:新建ハウジング編集部


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