見出し画像

地域のつむぎ手の家づくり| 移住者らに高く評価されるクリエイティブ工務店「スタジオジブリのように」 <vol.56/菱田工務店:長野県坂城町>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・


雄大な自然に恵まれた信州で住まいづくりを手がける菱田工務店(長野県坂城町)は、人々の暮らし方や働き方、住まいに対する価値観など、コロナ禍によるさまざまな変化が追い風となり、国際的な観光都市として知られる軽井沢や安曇野、八ケ岳山麓(原村)といった信州への移住を希望する人たちから高い評価を受けています。

いまも現役の大工として現場に出る社長の菱田昌平さんは「働く場所が自由になり、豊かな自然と子育て・教育に恵まれた環境を求めて移り住む人たちから選ばれている実感があります」と手応えを語ります。

菱田工務店社長の菱田昌平さん

情報感度の高い移住者と
価値観を共有

いま全国的にも話題となっている“教育移住”という現象は、「実際に起きている」と菱田さんは話します。最近では、軽井沢町に家族で移住して、子どもを町内のインターナショナルスクールに通わせるという施主と、「家づくりの話よりはむしろお互いの“教育論”についての話の方が盛り上がりました」と菱田さんは笑います。結果的には、その施主から1億円に近い金額の住宅の新築を受注したそうです。

そうした“移住系”の施主は、情報感度が非常に高く、「自らさまざまな情報収集を行ったうえで当社を訪れてくれるため、はじめから暮らしや住まいに対する価値観を共有できる」と菱田さんは説明します。

コロナによる変化は要因としては大きいですが、こうした状況を生み出すことができた本質的な理由は、菱田工務店が菱田さんのこだわりのもとで、大工工務店として良いものだけをつくり続けてきたことにあります。菱田さんは「あらためて、暮らしづくり・家づくりのパートナーとして地域工務店こそが最強だと確信しています」と力を込めます。

自ら現場に出ながら若手大工を育成

菱田工務店では、経営者として多忙なはずの大工出身の菱田さんが、全ての基本プランを手がけています。それだけでなく、週のうち半分以上は、自ら現場に入って叩き(現場作業を行うこと)ながら、若手の社員大工の教育も行っているそうです。同社では、大工志望者だけでなく、設計志望の新入社員も入社後数年は現場で大工として働きます。

こういった独自の取り組みによって、「最強のものづくり」が可能になるのです。菱田さんは「日本を代表するアニメーターの宮崎駿さんがクリエイティブ(現場)の最前線に立ち、自ら思い描くストーリーと世界観を妥協なく再現することによって、多くの人を魅了する作品を生み出し続ける『スタジオジブリ』のような工務店を目指しています」と話します。

インスタフォロワー10万人超

1棟1棟、全力で向き合ってきた住宅を見せる菱田工務店のInstagram(以下、インスタ)のフォロワーは現在、10万人超。このインスタを入り口として、顧客だけでなく、同社で働きたいという大工や設計志望の若者が全国から集まってくるそうです。

菱田さんによると、そうした若者は非常に純粋かつ優秀で「日本の森林、林業が抱える課題の解決に貢献したい」、「設計をするだけでなく、同時に自らつくることもしたい」などモチベーションも高いそうです。
この春、社員は25人(大工7人、設計5人)の同社に、新たに大工、設計あわせて4人がジョインしました。

「ベルギー民家」が世界観の源

菱田さんが、ベルギー人の建築職人である友人と交流し、実際にベルギーを訪れて歴史的な建築や古民家を巡り、さらに現地の建築現場で作業した経験などを詰め込みながら、数年前に自宅として建てた本物のティンバーフレームの「ベルギー民家」が、菱田工務店の哲学と世界観の源になっているそうです。

情報感度の高い“移住系”の顧客を魅了する世界観の源泉とも言える菱田邸

「これは、単にベルギーの民家を建てたかったわけではなく、本物の大工にしかなしえない技術を用いて、本物のラスティックな建築・空間を実現するための手段なんです」と菱田さん。ラスティックの言葉通り、むき出しの梁や土壁、レンガなどに手仕事の魅力が漂い、「素朴で飾り気のない、温もりあふれる建築・空間を生み出すことができた」と自負します。ただ素朴なだけでなく、そこにはヨーロッパの成熟した美しさや気品も宿り、そうした魅力が特に“移住系”の顧客の心をつかむのです。

素朴さと同時に成熟した美しさや気品も漂うラスティックな空間

菱田工務店は、マーケティングやプロモーション、リクルートなどには、ほとんどコストをかけていないそうです。菱田さんは、「かつて、『工務店は良い家をつくっているだけでは売れない』と言われた時代から、情報社会の進展とウィズコロナを経たいま、ひたむきに良い家、建築だけを探求し続けることが評価される時代になっているのではないか」とし、「もしも、そうなっているとしたなら、当社も含めて、この先、地域工務店には可能性しかない」と言い切ります。

県内のコアなファンの期待にも応える

移住者だけでなく、地域にも「菱田工務店の家が欲しい」と言ってくれるコアなファンが増えています。同社では、そうしたファンの期待にも応えていく考えです。事業再構築補助金を活用して3000万円台前半で提供できる提案型(規格型)住宅のモデルハウス(25坪程度)が、オープン間近です。木組みのあらわし、レンガ、自社大工の造作による木製サッシなどラスティックな世界観をそのまま再現します。

また、デベロッパーからは「菱田工務店の住宅の世界観を街並みとして展開したい」という、まちづくり事業のオファーも受けており、菱田さんは「前向きにチャレンジしたいと考えている」と語ります。


文:新建ハウジング編集部

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?