いちごとの突然の別れ[後編]
前編はこちらから。
「もう むやみやたらにいちごは食べないでね」
やっぱりか。覚悟はしていたけれど、やっぱりか。
私はいちごアレルギーになった。
* * * * * * * * * *
1年前の3月。まだコロナの感染者が少なかった頃。
お風呂に浸かっていると、急に左足の甲と脇腹が痒くなった。
お風呂から上がって、身体を見てびっくりした。胸とお腹と背中と太ももと足がまだらに赤い。腕は何ともない。そして、左足の甲と脇腹はまだ痒い。
これはいわゆる蕁麻疹というやつ…?
蕁麻疹未経験の私は薬を何も持っていなかったが、とにかく痒かったので、季節外れのムヒを塗った。
原因が分からない。強いストレスは受けていない。
お風呂で反応が出たということは、ボディーソープかボディタオルか。でも以前から使い続けているもので、何も変えていない。
下着や靴下かとも思ったが、こちらも特に変えてはいないので、可能性は低そうだ。
ムヒを塗ったら30分ほどで痒みと赤みが引いたので、その日はそのまま寝ることにした。
この蕁麻疹が偶然で、今日だけのものだといいのだけれど。
そんな願いも虚しく、次の日もその次の日も蕁麻疹が出た。
さすがにやばい。慌てて皮膚科を予約した。
皮膚科に行く前、Google先生が、食べ物によるアレルギーで蕁麻疹が起きることがあると教えてくれた。
アレルギーねぇ…。花粉症ではあるけれど、食物アレルギーなんて私とは無縁。まあ、これも原因の可能性は低いんだろうな。
そんなことを思っていると、またしてもGoogle先生が、食べ慣れているものでもアレルギーは急に発症するよ〜なんて言ってくる。
3日間共通して私が食べたものは何かを思い出していたら、ある食べ物が浮かび上がってきた。
犯人はコイツかもしれない。
そう、いちごだったのである。
* * * * * * * * * *
「血液検査で品目別にアレルギーかどうか見分けられるんです。調べてみますか?」
Google先生の予診のおかげで、「いちごを食べると蕁麻疹が出る気がします」と、原因なんとなく分かってますよ風を皮膚科で装うことができた。
看護師さんに提案され、原因が分かるならとお願いをした。
先生には、とりあえずいちごは控えるように言われた。
これでいちごアレルギーだったらどうしよう。
もう食べられないじゃん。でもまた蕁麻疹出るのは嫌だな。痒いし。あのまだら模様がちょっと不気味なんだよな。
もしいちごアレルギーじゃなければ、これからもいちごは食べられるけど、そうすると原因はなんなんだ…?
結果が出るまでの1週間、同じようなことばかり考えていた。こんなにもいちごのことを想ったのは初めてかもしれない。
皮膚科で処方された薬が効いたのか、はたまたいちごを食べるのを避けたからか。
私の蕁麻疹はその日から治まったのである。
1週間後。
訳の分からないたくさんの数字が書かれた紙を見せられた。説明を要約すると、「あなたはいちごアレルギーです」とのことだった。
そして冒頭に戻るのである。
* * * * * * * * * *
さようなら、いちご。
小さい時からあなたが大好きで、両手に持って食べるくらい、独り占めしたくてたまらなかった。そんなあなたとお別れするなんて、とても寂しい。
さようなら、いちご。
私には今、彼氏がいないけれど、いつか超絶ハイパーウルトラスーパーラブリー彼氏ができたら、いちご狩りデートがしたかった。あなたとお別れすることで、デートの選択肢が一個消えてしまって、すごく悲しい。
さようなら、いちご。
いつか超絶ハイパーウルトラスーパーラブリー彼氏と結婚するとき、ウエディングケーキはあなたがゴロゴロ乗っているものが良かった。ファーストバイトで大きめな一口サイズを掬っても、あなたが入り込んでしまうくらい、とてもたくさんのあなたがいるケーキ。そんな妄想を実現できないなんて、非常に悔しい。
* * * * * * * * * *
いちごを控えるようになって約1年半。
幸いにも蕁麻疹は出ていない。
それでも、いちごをふんだんに使ったスイーツが発売されると、どうしても食べたくなってしまう。我慢我慢。
スタバのいちご系フラペチーノは一応控えている。果肉感たっぷりで、あんなの絶対美味しいに決まっている。あれはある意味テロだと思う。魅惑たっぷりで妖艶ないちごテロ。
アポロチョコは5粒食べて大丈夫だった。セーフ!良かった。5粒までなら蕁麻疹は出ない。
いちごに関するものを目にするたびに、私の中で、いちごへの欲望と蕁麻疹への恐怖が殴り合いの喧嘩をし、欲望が勝てば、おそるおそる食べてみる。
スタバは蕁麻疹への恐怖がいつも勝つ。ちゃんと控えてて、偉いぞ、私。でも春になると、ヤツは毎年世に出てくるだろうから、これからも闘い続けるんだぞ、私。
まだまだいちごに未練たっぷりではあるが、蕁麻疹を含め、ほかのアレルギー反応が出ないよう、気をつけなければならない。
大好きだったいちごを思う存分食べられなくなって残念ではあるけれど、自分の身を守るためにも、蕁麻疹への恐怖を毎回喧嘩で勝たせねば。
皆さんも、アレルギーにはお気をつけて。
大好きな食べ物と突然お別れするのは、とても寂しくて、すごく悲しくて、非常に悔しいものなのです。
おまけ
両手にいちごを持ちながら、いちごが入った皿まで食べようとしていた、いちごへの欲望に素直に従う私。
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