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ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第6回】

今回で葬礼演説の長い前置き部分が終わり、次回からは遂に本題に入っていきます。「能ある鷹は爪を隠す」と言いますが、本題に入る前に演説の困難性を巧みに語ることで、次回以降の壮大な主題に説得力を付与しています。さすが、「恐ろしい雷を口の中に含んでいる」ペリクレスさんですね。

ペリクレス葬礼演説解説の第1回目はこちら
ペリクレス葬礼演説解説の第5回目はこちら

原文(Thuc. 2.35)と翻訳:6文目

ἐπειδὴ δὲ τοῖς πάλαι οὕτως ἐδοκιμάσθη ταῦτα καλῶς ἔχειν, χρὴ καὶ ἐμὲ ἑπόμενον τῷ νόμῳ πειρᾶσθαι ὑμῶν τῆς ἑκάστου βουλήσεώς τε καὶ δόξης τυχεῖν ὡς ἐπὶ πλεῖστον.
※底本:Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.

筆者翻訳
一方で、この慣習を善く遵守することは、かように古来の人々によって奨励されたこと故、私としてもその慣習に従い、諸君各々の望みと期待を概ねは満たそうと努めなければならない。

解説:語彙

・ἐπειδή:接続詞、節を形成し理由を表す。「~なので」
・δὲ:小辞、対比を表す。
・τοῖς:冠詞・男性・複数・与格、πάλαιに繋がり名詞を形成する。
・πάλαι:副詞、τοῖςを伴って名詞化している。「古来の人々によって」
・οὕτως:副詞、「かように」
・ἐδοκιμάσθη:基本形はδοκιμάζω、動詞・アオリスト形・受動態・3人称単数・直説法、「奨励された」
・ταῦτα:基本形はοὗτος、指示代名詞・中性・複数・対格、葬礼の場で演説するという慣習を指しているので、分かりやすく「この慣習」と訳す。
・καλῶς:副詞、「善く」
・ἔχειν:基本形はἔχω、動詞・不定詞・現在形・能動態、ταῦταが目的語。名詞化しており、ἐδοκιμάσθηの主語になっている。「~を遵守することは」
・χρὴ:基本形は同じ、動詞・現在形・能動態・3人称単数・直説法、非人称動詞、不定詞(πειρᾶσθαι)と繋がり「~しなければならない」
・καὶ:副詞、強調を表す。「~としても」
・ἐμὲ:人称代名詞・男性・単数・対格・1人称、πειρᾶσθαιの意味上の主語。「私も」
・ἑπόμενον:基本形はἕπομαι、動詞・分詞・現在形・中動態・男性・単数・対格、ἐμὲを修飾する。与格(τῷ νόμῳ)を取り「~に従う」
・τῷ:冠詞・男性・単数・与格、νόμῳに繋がる。
・νόμῳ:基本形はνόμος、名詞・男性・単数・与格、「その慣習に」
・πειρᾶσθαι:基本形はπειράω、動詞・不定詞・現在形・中動態、不定詞(τυχεῖν)を取り、「~することを努める」
・ὑμῶν:人称代名詞・男性・複数・属格・2人称、「あなた方の」
・τῆς:冠詞・女性・単数・属格、βουλήσεώςに繋がる。
・ἑκάστου:基本形はἕκαστος、形容詞・男性・単数・属格、名詞として扱う。「各々の」
・βουλήσεώς:基本形はβούλησις、名詞・女性・単数・属格、πειρᾶσθαιの目的語。「望み」
・τε:小辞、καίと合わせ「~と」
・καὶ:接続詞、「~と」
・δόξης:基本形はδόξα、名詞・女性・単数・属格、「期待」
・τυχεῖν:基本形はτυγχάνω、動詞・不定詞・アオリスト形・能動態、属格(δόξης)を取り「~を意図する」「~(の目的)を満たす」
・ὡς ἐπὶ πλεῖστον:慣用句的に「概ね」

解説:構造

基本的には、理由を示すἐπειδὴ節と主文の2節に分かれています。

πειδ節の基本構造
主語:ταῦτα καλῶς ἔχειν(この慣習を善く遵守することは)
動詞:ἐδοκιμάσθη(奨励された)
副詞句:τοῖς πάλαι(古来の人々によって)

・主文の基本構造
主語:非人称の為、無し
動詞:χρὴ(~しなければならない)
目的(名詞句):πειρᾶσθαι(努めることを)~

主文は名詞句が長いので分かりにくいですが、χρὴに繋がる名詞句を分解すると以下のようになります。

意味上の主語[ἐμὲ ἑπόμενον τῷ νόμῳ]+名詞句①[πειρᾶσθαι] +名詞句② [τυχεῖν]+名詞句②の目的語[ὑμῶν τῆς ἑκάστου βουλήσεώς τε καὶ δόξης]+副詞句[ὡς ἐπὶ πλεῖστον]
※名詞句②は名詞句①に繋がります。

逐語訳

一方で(δὲ)、この慣習(ταῦτα)を善く(καλῶς)遵守することは(ἔχειν)、このように(οὕτως)古来の人々によって(τοῖς πάλαι)奨励された(ἐδοκιμάσθη)こと故(ἐπειδὴ)、私(ἐμὲ)としても(καὶ)その慣習に(τῷ νόμῳ)従い(ἑπόμενον)、諸君(ὑμῶν)各々(ἑκάστου)の望み(τῆς...βουλήσεώς)と(τε καὶ)期待(δόξης)を概ねは(ὡς ἐπὶ πλεῖστον)満たそうと(τυχεῖν)努めなければ(πειρᾶσθαι)ならない(χρὴ)。

葬礼演説文を第1回~第6回まで続けて読む

冒頭にも記載した通り、今回でやっと葬礼演説の前置きが終わります。次回、演説の本題に入る前に、これまで読んできた演説文を振り返ってみましょう。

・原文
οἱ μὲν πολλοὶ τῶν ἐνθάδε ἤδη εἰρηκότων ἐπαινοῦσι τὸν προσθέντα τῷ νόμῳ τὸν λόγον τόνδε, ὡς καλὸν ἐπὶ τοῖς ἐκ τῶν πολέμων θαπτομένοις ἀγορεύεσθαι αὐτόν. ἐμοὶ δὲ ἀρκοῦν ἂν ἐδόκει εἶναι ἀνδρῶν ἀγαθῶν ἔργῳ γενομένων ἔργῳ καὶ δηλοῦσθαι τὰς τιμάς, οἷα καὶ νῦν περὶ τὸν τάφον τόνδε δημοσίᾳ παρασκευασθέντα ὁρᾶτε, καὶ μὴ ἐν ἑνὶ ἀνδρὶ πολλῶν ἀρετὰς κινδυνεύεσθαι εὖ τε καὶ χεῖρον εἰπόντι πιστευθῆναι. χαλεπὸν γὰρ τὸ μετρίως εἰπεῖν ἐν ᾧ μόλις καὶ ἡ δόκησις τῆς ἀληθείας βεβαιοῦται. ὅ τε γὰρ ξυνειδὼς καὶ εὔνους ἀκροατὴς τάχ᾽ ἄν τι ἐνδεεστέρως πρὸς ἃ βούλεταί τε καὶ ἐπίσταται νομίσειε δηλοῦσθαι, ὅ τε ἄπειρος ἔστιν ἃ καὶ πλεονάζεσθαι, διὰ φθόνον, εἴ τι ὑπὲρ τὴν αὑτοῦ φύσιν ἀκούοι. μέχρι γὰρ τοῦδε ἀνεκτοὶ οἱ ἔπαινοί εἰσι περὶ ἑτέρων λεγόμενοι, ἐς ὅσον ἂν καὶ αὐτὸς ἕκαστος οἴηται ἱκανὸς εἶναι δρᾶσαί τι ὧν ἤκουσεν: τῷ δὲ ὑπερβάλλοντι αὐτῶν φθονοῦντες ἤδη καὶ ἀπιστοῦσιν. ἐπειδὴ δὲ τοῖς πάλαι οὕτως ἐδοκιμάσθη ταῦτα καλῶς ἔχειν, χρὴ καὶ ἐμὲ ἑπόμενον τῷ νόμῳ πειρᾶσθαι ὑμῶν τῆς ἑκάστου βουλήσεώς τε καὶ δόξης τυχεῖν ὡς ἐπὶ πλεῖστον.

・筆者翻訳文
ここで既に演説した者の多くが、戦争の故に葬礼を受ける者たちには演説が贈られることが善いことだと考え、この演説を慣習として定めた者を称賛している。しかし、行為で勇猛となった男たちの、公費で準備されたこの葬儀の周りであなた方が今見ているような名誉が、行為によって示されさえすれば、私としては充分であり、善く、そして悪く演説する男一人の為に、多くの者の武徳が危険に晒され、信じられることが無いようにすべきだと、考えたいものだ。というのも、真実に対する評判すら殆ど確立されていない場合、適切に演説することは困難である。なぜなら、その真実に精通しており、友好的な聞き手は、聞きたいと求め、且つ見知っていることよりも不十分にことが説明されているとすぐさま考えるかもしれないし、あまり真実を知らぬ者は、もし仮に自らの力量を超えたことを聞いたなら、嫉妬の故、幾らか誇張こそが為されていると考えるかもしれない。すなわち、他者に関して語られる称賛は、各々が自身において、聞いたことが幾分か実行可能だと考えるであろう限り、その範疇では受容され得るのである:よって、これらを超えることに対しては、すぐに嫉妬し、信じることすらしない。一方で、この慣習を善く遵守することは、かように古来の人々によって奨励されたこと故、私としてもその慣習に従い、諸君各々の望みと期待を概ねは満たそうと努めなければならない。

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