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ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第10回】

記念すべき第10回目です!ここまで2か月ほど掛かりましたが、まだまだ先は長い…。挫折しないようにσιγά σιγά(ゆっくり)続けて行きたいと思います。笑

ペリクレス葬礼演説解説の第1回目はこちら
ペリクレス葬礼演説解説の第9回目はこちら

原文(Thuc. 2.36)と翻訳:10文目

τὰ δὲ πλείω αὐτῆς αὐτοὶ ἡμεῖς οἵδε οἱ νῦν ἔτι ὄντες μάλιστα ἐν τῇ καθεστηκυίᾳ ἡλικίᾳ ἐπηυξήσαμεν καὶ τὴν πόλιν τοῖς πᾶσι παρεσκευάσαμεν καὶ ἐς πόλεμον καὶ ἐς εἰρήνην αὐταρκεστάτην.

筆者翻訳
一方で、ここにいる我々自身、今なお壮年期にある大部分の人々は、支配圏以上に多くのことを増大させ、戦争においても、平和においても、ポリスを全てに対して自足的とさせた。

・τὰ:冠詞・中性・複数・対格、πλείωに繋がる。
・δὲ:小辞、前文との対比を表す。「一方で」
・πλείω:基本形はπλείων、名詞・中性・複数・対格、属格(αὐτῆς)を取り「~以上に多くのこと」
・αὐτῆς:基本形はαὐτός、人称代名詞・女性・単数・属格、「それ」。ただし、前回のἀρχὴνを指示している為、分かりやすく「支配圏」と訳す。
・αὐτοὶ:基本形はαὐτός、人称代名詞・男性・複数・主格、「~自身」
・ἡμεῖς:基本形はἐγώ、人称代名詞・男性・1人称複数・主格、「我々」 
・οἵδε:基本形はὅδε、指示代名詞・男性・複数・主格、「ここにいる」 
・οἱ:冠詞・男性・複数・主格、 ὄντεςと繋がる。
・νῦν:副詞、「今」 
・ἔτι:副詞、「なお」
・ὄντες:基本形はεἰμί、動詞・分詞・現在形・能動態・男性・複数・主格、οἱを受けて名詞化。「~である人々」 
・μάλιστα:副詞、μάλαの最上級。「大部分の」
・ἐν:前置詞、与格(ἡλικίᾳ)を取って期間を表す。
・τῇ:冠詞・女性・単数・与格、 ἡλικίᾳに繋がる。
・καθεστηκυίᾳ:基本形はκαθίστημι、動詞・分詞・完了形・能動態・女性・単数・与格、「任命する」「落ち着く」というような意味だが、ἡλικίᾳ とセットで壮年期を表す。「壮年期に」
・ἡλικίᾳ:基本形はἡλικία、名詞・女性・単数・与格、歳や世代というような意味。καθεστηκυίᾳと合わせ「壮年期に」
・ἐπηυξήσαμεν:基本形はἐπαυξάνω、動詞・アオリスト形・能動態・1人称複数・直説法、「我々が増大させた」
・καὶ:接続詞、「そして」
・τὴν:冠詞・女性・単数・対格、πόλινに繋がる。
・πόλιν:基本形はπόλις、名詞・女性・単数・対格、「ポリスを」 
・τοῖς:冠詞・中性・複数・与格、πᾶσιに繋がり、名詞化。 
・πᾶσι:基本形はπᾶς、形容詞・中性・複数・与格、「全てに対して」
・παρεσκευάσαμεν:基本形はπαρασκευάζω、動詞・アオリスト形・能動態・1人称複数・直説法、形容詞(αὐταρκεστάτην)と共に用いて「~にさせた」
・καὶ:接続詞、~καὶ …καὶで「~も…も」
・ἐς:前置詞、対格(πόλεμον)を取って関係性を表す。「~において」 
・πόλεμον:基本形はπόλεμος、名詞・男性・単数・対格、「戦争」 
・καὶ:接続詞、~καὶ …καὶで「~も…も」 
・ἐς:前置詞、対格(εἰρήνην)を取って関係性を表す。「~において」  
・εἰρήνην:基本形はεἰρήνη、名詞・女性・単数・対格、「平和」
・αὐταρκεστάτην:基本形はαὐτάρκης、形容詞・女性・単数・対格、「自足的」

解説:構造

この文は、主語が2つ並置されているのがややこしいですね。1つ目の主語である「我々自身」のことを言い換えています。

主語①:αὐτοὶ ἡμεῖς (我々自身) 
主語②:οἵδε οἱ νῦν ἔτι ὄντες μάλιστα ἐν τῇ καθεστηκυίᾳ ἡλικίᾳ (今なお壮年にあるここの大部分の人々)

この2つの主語を取り払うと、構造はより分かりやすくなります。

動詞:ἐπηυξήσαμεν(増大させる)
目的:τὰ δὲ πλείω αὐτῆς  (支配権以上のことを)

2つの動詞を繋ぐ:καὶ 

動詞:παρεσκευάσαμεν(を<補語>にさせる)
目的:τὴν πόλιν(ポリスを)
補語:αὐταρκεστάτην(自足的)
副詞句①:τοῖς πᾶσι(全てに対して)
副詞句②:καὶ ἐς πόλεμον καὶ ἐς εἰρήνην(戦争においても、平和においても)

τὰ πλείω αὐτῆςをどう読むか?

私はE.C. Marchantの注釈に従い、τὰ πλείω αὐτῆςを「支配権以上に多くのこと」、つまり内政だと解釈しました。δὲで前文(先祖から受け継いだ支配権)と対比されていることに加え、アテナイをαὐταρκεστάτην「自足的」にさせたことが文末で強調されているからです。今後の演説は、アテナイ特有の制度を賞揚する流れになっていくので、この解釈が妥当ではないかと考えています。

一方で、岩波文庫から出版されている久保氏の訳では、この箇所を「受け継いだ支配をいや増しに押し広げ」としています。つまり、τὰ πλείωも支配圏と捉えています。δέを対比ではなく連結とし、καὶを境に、支配圏(τὰ πλείω αὐτῆς)と内政(αὐταρκεστάτην)の2種類の功績を掲げているという解釈です。

ただ、史実はどうあれ、「受け継いだ支配をいや増しに押し広げ」という文は、前文でὅσην ἔχομεν ἀρχὴν「(現在)我らが持つ限りの支配圏」を父親世代が遺してくれたという説明と若干矛盾しないかな?とも思います。これを字句通り受け取れば、「現時点の支配圏そのまま」を父が遺してくれたという意味になり、そこから支配圏を更に押し広げたというニュアンスは一切感じられないからです。

逐語訳

一方で(δὲ)、ここにいる(οἵδε)我々(ἡμεῖς)自身(αὐτοὶ)、今(νῦν)なお(ἔτι)壮年期にある(ἐν τῇ καθεστηκυίᾳ ἡλικίᾳ)大部分の(μάλιστα)人々は(οἱ...ὄντες)、支配圏(αὐτῆς)以上に多くのことを(τὰ...πλείω)増大させ(ἐπηυξήσαμεν)(καὶ)、戦争(πόλεμον)において(ἐς)も(καὶ)、平和(εἰρήνην)において(ἐς)も(καὶ)、ポリスを(τὴν πόλιν)全てに対して(τοῖς πᾶσι)自足的(αὐταρκεστάτην)とさせた(παρεσκευάσαμεν)。

※原文の出典:Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.


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