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留年コーヒーの短編小説

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一時期ショートショートにハマっておりました。 それらをまとめています。
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記事一覧

幸福珈琲

幸福珈琲

「孫よ。コーヒーブレイクでもしながら話を聞いてくれんか?」

「えー。別にいいけど、エスプレッソ派だから簡潔によろ。」

「こんな可愛くない孫は他に知らんわい。」

「いいから早く早く。もうクレマブレイクしちゃうよ?」

「かぁ。 よし、これから話すのは、"世界中の人間の誕生日を祝ったせいで破産した世界一幸せ者の話"じゃ」

「タイトルで完結してない?」

「簡潔にした結果じゃ。」

「はいはい。

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落語珈琲

落語珈琲

仕事終わりの仕事残しのワーカーが所狭しと作業に勤しむ
国道沿いの作業カフェ。

作業カフェというのはいったいなんなのだろう。

なるべくして作業カフェになったのか

それともこのカフェは依然カフェのままであって
作業をする人間が都合の良いように”作業”と冠しているだけかもしれない。

そうだとすれば私がオーナーなら名誉毀損で法的措置すら検討するかもしれない。

そんなことをぼーっと考えているうちに

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留年短編vol.8  空車珈琲

留年短編vol.8 空車珈琲

残業。

今週もよく頑張った。

終電の時間も気にならないくらい深い時間。

バッテリー残量の少ないスマホの画面には、
また行方不明者のニュース。最近多い。

まだ仕事が残っている。家に帰ってもうひと頑張りだ。

会社を出てコンビニに寄る。

深夜にこのクオリティのコーヒーが飲めるのは本当にありがたい。

コーヒーを片手に車道に向かい手を挙げてみるが

通り過ぎるのは「賃送」「迎車」「回送」ばかり

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留年短編vol.7  誤解珈琲

留年短編vol.7 誤解珈琲

「はい。コーヒー。」

「ありがとなぁ。孫の淹れたコーヒーより美味いもんはないわい。」

「そりゃあおばあちゃん仕込みのネルドリップだからね。ねえ、久しぶりに何かお話聞かせてよ。」

「そうじゃなぁ。これは昔ワシが人生で一度だけ難破した時の話じゃ。ほろ苦くて甘酸っぱいぞぉ。」

「おじいちゃん......ナンパしたことあるの。」

「あぁ。あるとも。一度だけじゃがな。」

「おばあちゃんは知ってた

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留年短編vol.5 季節珈琲

留年短編vol.5 季節珈琲

(春)

君はずっと伸ばしていた髪を切って
ベリーショートにした。

理由を聞くと、
「夏が来るから。」と言った。

最近の君は大好きなホットアメリカーノよりも
コールドブリューをよく頼むようになった。

理由を聞くと、
「夏が来るから。」と笑った。

(夏)

君は腰まで伸びた髪を触りながら「暑い暑い」と言って

ホットアメリカーノを飲みながら「熱い熱い」と言っている。

「あつくないの?」と聞

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留年短編vol.6  関係珈琲

留年短編vol.6 関係珈琲

点呼。

この時間はいつも君の目を見れるから幸せだ。

今日も制服がよく似合っている。

初めて入って来た日に恋をした。

この関係で恋をするなんて、
許されるはずもないのだけれど。

あれからもうすぐ3年。

まもなくここを出てしまう。

一日を終えて、

君を見送りながら

一緒に帰りたいな。なんて考える。

そんなことはできるはずもないのだけれど。

君は帰った後、誰とどこに行くんだろう。

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留年短編vol.4  未来珈琲

留年短編vol.4 未来珈琲

タイムトラベルなんてあるわけない。

信じてなんていなかった。

けれど、目の前にいるのは
明らかに違う時代を生きている君だ。

時を超えて出会った老いた君は

知らないことをたくさん教えてくれた。

2025年 酷く暑かったこと。

2030年 SDGsがあやふやで終わったこと。

2035年 地球温暖化は止まらず、
     また平均気温を更新したこと。

そして、

2040年 我が子が死ん

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留年短編vol.3  機械珈琲

留年短編vol.3 機械珈琲

昔はハンドドリップなんてものがあったらしい。

人が淹れるコーヒー。

人が手で淹れるから ハンド ドリップ。

人が淹れたら毎秒 数mgの誤差が出るに決まっている。

グラインドもタンピングもスチーミングも
全部人がやっていたらしい。

そんな正確性のないコーヒーなんて想像もできない。

君のコーヒーと比べたら昔の人の淹れたコーヒーなんて飲めたもんじゃないだろう。

君の淹れているコーヒーはすご

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留年短編vol.2  無音珈琲

留年短編vol.2 無音珈琲

何一つ音のない空間にたった二人で。

静かに君と珈琲を飲む。

時々 君が招待状を書いてくれる。

"コーヒーを飲もう" と。

君が煎ってくれて、
君が挽いてくれて、
君が淹れてくれた珈琲。

君は焙煎が苦手だと。

何が良くて何が悪いか分からないが
君の作った珈琲は無条件に美味しいと思う。

"おいしいよ"

ただそれだけを伝える。

"思ったより焼きすぎた"

"コーヒーを焼く?"

"煎る

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留年短編vol.1   深夜珈琲

留年短編vol.1 深夜珈琲

時間が分からなくとも、周囲の音が教えてくれる。

騒音の元凶が最終を迎え、久しぶりに迎えた静寂。

短い一日の始まりを知る。

残った声が全て消えてから身体を起こす。

怠さに身を任せながら十分の間に五本の煙草を吸う。

足元に目をくれると、段ボールが少し破れてしまっていた。

日付が分からなくとも、段ボールの寿命が教えてくれる。

深夜の線路は冷え切っていた。
靴があればそんなことも気付かないの

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