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幸福珈琲

「孫よ。コーヒーブレイクでもしながら話を聞いてくれんか?」

「えー。別にいいけど、エスプレッソ派だから簡潔によろ。」

「こんな可愛くない孫は他に知らんわい。」

「いいから早く早く。もうクレマブレイクしちゃうよ?」

「かぁ。 よし、これから話すのは、"世界中の人間の誕生日を祝ったせいで破産した世界一幸せ者の話"じゃ」

「タイトルで完結してない?」

「簡潔にした結果じゃ。」

「はいはい。適度に簡潔にね。」

「世界一幸せ者の大金持ちがいてなぁ。」

「かぁ〜 大金持ちなら幸せだわねー」

「ひとえに大金持ちといっても、もはや想像すら出来ないほどの大金持ちじゃ。地球を2つ買えるくらいだったそうじゃ。」

「地球って別に値段ついてないから0円じゃない?」

「マジレスやめんか。適度に簡潔にした結果じゃ。本当はもう少し冗長だが的確な例えがあった。」

「あ、そ。 それで?」

「ふん。その者は金が有り余りすぎて、心を病み、用途を模索しだした。」

「共感性薄い話って集中力もたんよね。」

「時には最高級コーヒーを落札したり、時には豪邸、馬、国、時計を買い漁ったそうじゃ。」

「どさくさに紛れて国買ってんじゃん。」

「じゃが、そやつの残高が底をつくことはなかった。なぜじゃと思う?」

「それほど金持ちだったんでしょうよ。その人は。」 

「あぁ。どれだけ金を使っても使っても自分のためにだけお金を使っていたら、そりゃあ減る分は知れていたわけじゃ。」

「あーそれで世界中の何十億の人全員に誕プレを買ってあげて破産したってわけね。タイトル回収結構かかったね。」

「おい」

「なに?そうでしょう?」

「お前、友達はおるか?」

「身内にしかやんないよこんなの。 で? まさかこれで終わりじゃないよね?」

「ほほう。さすが我が孫。そうじゃ、破産したその人は途方にくれたわい。まあぶっちゃけ30億人目あたりからこれはやばいってなってたみたいじゃがな。」

「予算とか決めればよかったのに。」

「大金持ちに計画性を求めるのは甚だムリな話じゃわい。」 

「そね。で?」

「40億3053万8人目が、とんでもないもんを要求しよった。」

「もしかしてエクセルで管理してた?」

「ナンバーズじゃ。」

「あ、Apple信者。」

「そいつはな、あんたの残りの財産全部を誕プレでくれー!と言ったそうじゃ。」

「ほぅ。あげたの?」

「まぁ随分迷ったようじゃがな。その後の人間には誕プレをあげられなくなるからのう。熟考の末あげなかったようじゃ。」

「英断じゃん。」

「いいや。その大金持ちは、全ての人間に誕生日プレゼントを渡し終えたその時に有する全ての財産を君にくれてやると約束したんじゃ。」


「かぁ。なんかムキになってない?」

「同意じゃ。激しく。」

「草。で?」


「草? で、Xデーが来た。金品、時計、国、下着。何もかもあげてしまったわい。その日飲む一杯のコーヒー代すらない。破産じゃ。」

「何食べてたの?」

「草」

「草!? 収入源ないの!?」

「元世界一の大金持ちが働くわけなかろう。」

「んーん。」

「まあまあ。ここで終わらないのが元世界一なだけある。」

「お、ここから復活劇ね。」

「破産した後の数ヶ月は野宿で凌いだそうじゃが、さすがに老体ではもう死を悟ったという。」

「ほう」

「あっさりと死んだそうじゃ。」

「え、逆転は?」

「ここからじゃ。死体はやがて見つかった。ここで鑑識が気づくんじゃな。
『あれ、誕プレくれた老人じゃね?』と。 
ここからは話が早い。『私も!』『俺も!』と次々とこの元大金持ちを知ってる者が現れた。」

「それでそれで?」

「元大金持ちには身内がおらんかった。 『じゃあ自分達で見送ろう!』と誰かがジャンボ葬式を企画した。」


「ジャンボ」


「葬式企画は世界中に広まり、乳飲み児から長寿記録保持者に至るまで。全ての人間が一同に介し、盛大にそれは盛大に悼んだそうじゃ」


「おぉ〜それは世界一の」

「「幸せ者」」

「だね。」「じゃろ」



「え、なにこれ教訓?」

「どうじゃろな。じゃが、もしそのジャンボ葬式を企画した人間こそ、全財産を持っていった奴じゃとしたら?」

「......ゴクリ」


「プラマイ、プラじゃろ」

「マイじゃね?」

幸福珈琲

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