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7665日の物語 12

(ああ、ぼくの流派は剛柔。受けこそが最大の攻撃。それでいいという事

は、打たせ蹴らせてそれを受け、倒せということか。。。)と。

『あんた、手加減なんかしたら許さないからね!!』

『よく喋る女の子だな。いいから掛ってこい』もう僕のスイッチはONだ。

『はじめ!!!!!!』師匠が咆哮したのを合図に彼女は蹴り込んできた。

(どういう空手なのか・・・)興味のあった僕は時間にして1分程、全て

かわしつづけた。(うん、綺麗な空手だなぁ。)そう思いながらかわした。

『あんた何なのよ!打って来なさいよ!!』相当イライラしているようだ。

僕は師匠の顔をチラリと見た。師匠は僕に笑顔で頷いた。

フーーーーと息を吐き、吸えるだけ吸って『コォー!!』と息吹を入れる。

「ここから鉄壁ですよ」という合図の様なものだ。僕はサンチンで立ち、

廻し受けの構えで立った。こうなると下がらないし攻撃も避けない。

全て攻撃は受ける。そして受けた事により相手が痛い思いをするのだ。

それが(剛柔)である。 息吹に一瞬ひるんだものの、彼女は顔に向かって

蹴り上げてきた。「パチン」と弾く。今度は中段突き。「パチン」、

「パチン」、「パチン」と冷静に見き分けて弾く。

『おいおい風間君、遠慮はいらんよ(笑)』師匠が笑いながら言った。

でも目は座っていた。「思い知らせてやりなさい」と僕は受け取った。

コクリと頷き、再度構えに入る。次は受ける! 上段廻し蹴り、受けた。

『いったーーーい!!』彼女はうずくまった。毎日竹刀や棍棒で叩かせて

磨てきた受けは伊達じゃない。どこで受けるのか、どこを当てるのかも

ちゃんと見切って受けているのだから。

『何だぁ?もう終わりか?(笑)』師匠が楽しそうに笑っている。彼も

僕と同じ空手馬鹿である。異種交流が楽しくないはずがない。寧ろ好きだ。

『風間君、折っちゃっていいぞぉー(笑)』いやいや、娘さんだぞ?でも

彼女が僕にしでかした事に師匠は土下座されたのだ。怒っている。。。

『おい、立て、試合だぞ?』そう言うと僕は再び構えた。彼女の空気が

変わった。本気になった。それならばこちらも本気で受けよう。

上下二段廻し蹴りからの下段突き。この三連撃を全て受けた時、倒れていた

のは彼女だった。もちろん折ってなどいない、そこは正直加減した。

でもそれで充分だと思った。何より師匠が笑顔だった。

『はい、そこまで! 次、加藤だな』準師範は加藤さんというんだ。。。

こちらは最初からやる気モード全開だ。気が満ちている。噛みつかれそうな

空気だ。『はじめ!!!!!!』と同時に彼も打ってきた。流石にお嬢さん

とはスピードもパワーも違う。でも何だろう。全然恐怖を感じない。

5~6発受けただろうか。彼は片足でピョンピョンしている。

「あー、痛いんだな。。」それでも彼は向かってきた。何度も受けられ

何度も倒れ、それでも彼は向かってきた。意地を感じた。やがてボクシング

のクリンチの様に僕にしがみついた。すごい力だ。

この時初めて僕は突いた。空手には寸勁という突きがある。突きは普通

引いた腕を前に出して突くのだが、この寸勁は拳を相手に密着させてから

身体の捻じりと僅かな体重移動で、まるでその衝撃は背中に突き抜ける様な

突き、上級空手だ。彼はその場で崩れ落ちた。痛かっただろうによく

頑張ったと思う。『はい、そこまで!』師匠が止めた。

『お前ら、まだ反対か?反対するならここまでになってからにしろ。

身の程を知れ!』と吐き捨てるように言った。

準師範は呆然となり、お嬢さんは悔し泣きしていた。

『風間君、アドバイスを。』武術の世界では勝者が敗者にアドバイスする。

『押忍!ありがとうございました!勉強になりました!!』 

『・・・いやそうじゃなくて、何か言ってやってくれないか』

一瞬躊躇ったが師匠の言わんとしている事が分かった僕は言った。

『空手を舐めるな』その言葉に道場内は静まり返った。言いたくなかった。

これからよろしくお願いします!という時に、わざわざ敵を作るような

事は言いたくなかった。でもそれが師匠の思う所だと理解したから言った。

『押忍、失礼します!』僕は師匠に話しかけた。『ん?なんだい?』

『師匠はなぜ、空手連盟を抜けられたのですか?』すごく気になっていた。

大会にも出られなくなり、助成金も貰えなくなる。なのになぜ師匠は

空手連盟を抜けたのか。『気に入らなかった(笑)』ケロっと答えた。

『ウチの道場の小学生の女の子がよ、今度茶帯(黒帯の一つ下)の

試験受けるっていうんで頑張ってたんだよ。ところがさ、拳立て30回

(腕立て伏せを拳を握って行うもの)できないと不合格ってさ。女の子

だぜ?別にできなくたっていいじゃん。それでその子試験受からなくて。

そんな連盟しらん! って頭きて脱退してやった(笑)』

「この人、人間想いの優しくて狂暴な空手馬鹿だ(笑)」それを聞いて

安心した。この人の下で空手をやりたいと強く思った。




重度のうつ病を経験し、立ち直った今発信できることがあります。サポートして戴けましたら子供達の育成に使わせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。