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作家・りゅうこころです。 この世から『消えてしまいたい』と思い詰めてしまう人が少しでも減るように、これからも頑張ります!

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    講演や会社講義、カウンセリングなどでよく訊かれる事を詳しく書いています。その他、なるべくタイムリーな話題にも触れていきたいと考えています。

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うえすぎくんの そういうところ Season.8 本当の優しさ編 『第107話 逆に教えてくれ』

第107話 逆に教えてくれ 「おはよう、たくみん! はい、お弁当」 術後の経過は良好どころか最初の『食べなさい』から三か月経つのに、毎朝元気にお弁当を届けてくれる。りゅうせいの状態が良くなるにつれてお米も普通の固さになり、おかず類の味付けも一般的なものになっていった。中学の頃から校外学習や遠足も含めてずっと『惣菜パン』で作ってもらったお弁当にもの凄い憧れを抱いてきたから、欲求を満たすために自分で詰めて持参したことも何度かあるけれど、中身を知っているだけに蓋を開けて喜びや感

    • うえすぎくんの そういうところ Season.8 本当の優しさ編 『第106話 あなたは私の誇り』

      第106話 あなたは私の誇り 「もしもし柚子葉ちゃん、助けて!」 名乗るなり挨拶するなりあるだろうに、コハクちゃんがシャワーから出てくるまでの時間との戦いと動揺からいきなり開口一番がこれとは、高校生にもなって恥ずかしい振る舞いだ。 「りゅうくん、落ち着いて! どうしたの? いまどこにいるの?」 声でわかってくれたことには感謝だけれど、いきなり助けを求められたら彼女の発言は至極当然。特に『今どこにいるの?』がわからなければどうしようもないのだから。 「自宅だよ!」

      • うえすぎくんの そういうところ Season.8 本当の優しさ編 『第105話 どっちが好き?』

        第105話 どっちが好き? つむじ風のような彼女を見送りながら彼の食べ終わった容器を膝の上に置いて、自分のペースを維持しながらモグモグ。 「なんか、迷惑掛けちゃってゴメン……」 伏し目がちに地面を見つめてボソッっと呟く。 「迷惑だなんて思ってないし、彼女だってそんなこと思ってたらあそこまで言わないよ。たくみってさ、普段堂々としているのになんでそんなに卑屈なものの言い方するのさ? 友達なんだから迷惑とかそういうの止めようよ。それで、香中家では何があったの?」 「あんま

        • うえすぎくんの そういうところ Season.8 本当の優しさ編 『第104話 せやろがい!』

          第104話 せやろがい! 「たくみ、おはよう。来週からテスト期間だけど、大丈夫そう? 」 「おはよ。神谷さんがお手本のようなノート作ってくれていて、見返しながら驚いているところさ。もの凄く細かく丁寧に書いてくれているんだけれど、要点になる部分には色分けしてマーカーを引いてくれているんだよ。先生ごとの癖とか傾向まで反映されていて、これ一冊で問題用紙が出来ちゃうんじゃないかっていうくらいのハイレベルでさ、ノートというよりまるで解説書だ。そっちはどうなんだ?」 「コハクちゃん

        うえすぎくんの そういうところ Season.8 本当の優しさ編 『第107話 逆に教えてくれ』

        • うえすぎくんの そういうところ Season.8 本当の優しさ編 『第106話 あなたは私の誇り』

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          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第103話 この瞬間だけ』

          第103話 この瞬間だけ 「病室が隣とはいえ、そんなに辛い状態なのに来てくれたのね。見ての通り竜星はたくみ君とは手術が少し違うから、何となく痛々しいでしょ? 柚子葉ちゃんが説明してくれたように喉の出血がある程度治まったら食事も始まるし、その時にたくみ君がまだお隣に居たらこの子の方から会いに行けると思うわ。深刻な状態ではないから安心して頂戴ね」 お母様はこう言われたものの、見る限り集中治療室に居てもおかしくないくらいの状況。これを毎日見ている姫嶋さんやコハクさんはどれだけ心

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第103話 この瞬間だけ』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第102話 寂しくなっちゃった?』

          第102話 寂しくなっちゃった? 「香中さん、おはようございます。まだ痛いと思いますけど口から食べるのが回復への一番の近道ですので、頑張って食べましょう」 六時間に一回、点滴の中に痛み止めを入れてもらって気づいたら寝てるっていう状態。喉が痛いくらい気合で何とかなるだろうと思っていたけど、こりゃとんでもない強敵だ。唾を飲み込むのも覚悟を決めてやっているのに、昨日手術したばかりでもう『飯を食え』だと? まだ声も出ないし一晩中強張ってたから体バッキバキだし、この痛みで食べられる

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第102話 寂しくなっちゃった?』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第101話 一緒に乗り越えようね』

          第101話 一緒に乗り越えようね 「母ちゃん、毎日来ているんだね。あたし達も来るからさ、ずっと病室にいたら疲れちゃわない?」 「子どもが入院するというので有給休暇戴いているし、静かに本を読めるから疲れは大丈夫よ。二人こそ、お稽古の前に毎日来てくれてありがとうね」 「自分たちは好きで来ているから大丈夫なんだけど。そういえばたくみんのご両親とは会った?」 「まだお会いできていないわね。ご両親ともに警察官で忙しいのでしょう。今は痛みと闘っているから寝たいときに眠れるようこち

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第101話 一緒に乗り越えようね』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第100話 全身麻酔の2人』

          第100話 全身麻酔の2人 「いよいよ明日なんだー。病室が隣同士になったのは症状とか手術日が近いなんていうのも関係しているんだろうけれど、これだけ世の中広いのにさ、同じ扁桃腺で午前と午後に知った人が手術を受けるっていうのも何かの運命なのかな」 親指と人差し指に摘まんだシャープペンシルをフリフリしながら、キッチンテーブルの向かい側に座っているコハクのつぶやき。 「二人とも幼い頃から高熱に悩まされていたって言っていたし、体力があまり余るほどあるこのタイミングは良かったんじゃ

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第100話 全身麻酔の2人』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第99話 兄ちゃん大好きだから』

          第99話 兄ちゃん大好きだから 兄ちゃんもたくみんも居ない登校二日目の朝、二人で歩いているとやたら通行人の視線が気になる。あからさまに振り向いたり遠くからジロジロ見ている感じがキモチワルイ。 「なになに? 制服前後ろ逆とかないよね?」 「ないよ。髪も普通だし、何も変わったところはないよ」 朝から嫌な溜息をつきながらそれぞれの教室へ別れて自分のイスに座ると、真っ先に飛んできたのはクラスが隣のミリリンだった。 「新聞見たわよ、連続切り裂き魔を豪快に投げ飛ばしたんですって

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第99話 兄ちゃん大好きだから』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第98話 今日だけにして欲しい』

          第98話 今日だけにして欲しい 初めてきた大きなな病院でテンションが高めだったのか、学校であったことをあれやこれやと一方的に話しをしていたら三十分ほどでお父上に促され、母ちゃんも一緒に病院をあとにする。 「ユヅハはほとんど喋らなかったよね、なんだか妙に落ち着いているっていうか。あたしこんなデッカイ病院って初めてだからさ『病院のトイレって家と違うのか』とか『コンビニみたいなところには何が売ってるのか』とか、もの凄い気になっちゃってテンション上がっちゃって」 「病棟病室は違

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第98話 今日だけにして欲しい』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第97話 雷光一閃』

          第97話 雷光一閃 この日は朝から生憎の空模様。傘をさしたりローファーが濡れないように気をつけたりと、中学の時は殆ど気にならなかったことが高校生になって『雨は女子の天敵だ』と身に染みてわかった今日この頃。靴下を交換したり、登校したての朝は特に忙しい。二人分のノートを作るなんて慣れないことをやっているものだから、ハッと気が付いたらもうお昼休憩。作ってもらったお弁当をお世辞にも上品といえない食べ方で片付けて、ダッシュで隣のクラスに走り込むと彼女は姿勢正しく上品な食事中。 「ミ

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          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第96話 父親の愛情』

          第96話 父親の愛情 「どういうこと? なんで?」 「詳しいことはわからないけれど、高熱出して自分で病院行くって出て行ったら『入院です』って電話があって、ご両親お仕事で居ないからあかね先輩が手続きやら着替え持って行ったりやら動き回っていたって。帰ってきて着信履歴見て連絡くれたって言ってた」 「ただいまー。まあ、すごい! 玄関入った瞬間からピカピカだしお米も炊いてくれているし、柚子葉も琥珀も頑張ったわね」 「あら、本当! あっちもこっちも隅々まで目が行き届いているのを感

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第96話 父親の愛情』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第95話 フンス!』

          第95話 フンス! 「早く終わらせるって……最初から三本取る算段、というより自信があったっていうの?」 「うん。ジジイがどうして元気な片腕だけを異常に鍛えさせたのかはわからないけれど、そのせいで今のたくみんはバランスがバラバラじゃん? だから一本目は潜りこんじゃえば投げられるって自信があった。二本目は警戒されちゃってあの長い腕に苦戦したけれど、掴んじゃえばね。三本目は力任せに振り回してくるってわかってたから、最初から寝技で行くつもりだった。技あり取られたのは余計だったけど

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          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第94話 パジャマトーク』

          第94話 パジャマトーク 小さく頷いた後、緊張でカサついた唇を潤わせるようにオレンジジュースに口をつけた。 「たくみ君、道場に現れたと思ったらいきなり土下座して『姫嶋さんスマン!』って、なにごとかと思ったわよ。話を聞いてみて男の子同士だし、彼は熱血タイプだから『そういうのもあるんじゃない? 』って思ったけれど、そういえば。仲直りさせて握手させるまでは……って言ってたけれど、その先の展開はいつ考えたの?」 「それはーほら、話の流れじゃん! あたしも煮え切らない態度にイラッ

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第94話 パジャマトーク』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第93話 少女の涙』

          第93話 少女の涙 沈黙、そして凍結。 流れ出し、噴火しかけていた活火山が麓から一瞬にして凍り付いた。 はるか昔に巨大隕石が落下して途轍もない地殻変動が起こり、恐竜などの生物が絶滅して永久凍土に覆われたと授業で習った状態はこんな感じだったのだろうかと想像できてしまうくらい、動きも言葉もその全てが凍り付いた。 私たちの視界に写る唯一無二の可動は、ポタポタと瞳から頬そして顎を伝って流れ落ちる少女の涙。それは凍てついた洞窟の僅かな突起から流れ湧く命の根源であるかのように温か

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第93話 少女の涙』

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第92話 カオスな空間』

          第92話 カオスな空間 「この場で破門を言い渡されたくなかったら、道の精神に則り真剣に立ち会ってください。不要な手加減や無気力が見られた際には容赦なく止めます」 かなり厳しい条件を提示しているけれど、このままでは友情にまでヒビが入りかねないと判断しての決断であり、両者ともに恐らく互いの本気を知らないであろう危険を回避するための立ち合いでもある。とはいえコハクは明らかに体格で劣るし本来階級も違うのだから思いっきりぶつかれば良いし、たくみ君はその体格を生かして寝技に持ち込んで

          うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第92話 カオスな空間』