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うえすぎくんの そういうところ Season.7 青春の内側編 『第96話 父親の愛情』

第96話 父親の愛情


「どういうこと? なんで?」

「詳しいことはわからないけれど、高熱出して自分で病院行くって出て行ったら『入院です』って電話があって、ご両親お仕事で居ないからあかね先輩が手続きやら着替え持って行ったりやら動き回っていたって。帰ってきて着信履歴見て連絡くれたって言ってた」


「ただいまー。まあ、すごい! 玄関入った瞬間からピカピカだしお米も炊いてくれているし、柚子葉も琥珀も頑張ったわね」

「あら、本当! あっちもこっちも隅々まで目が行き届いているのを感じるわ。もう、本当に二人とも大好き!」

(おばさまに抱きしめられ褒められて嬉しいのだけれど、報告しなきゃ)

「母上。あかね先輩から電話がありまして、たくみ君入院だそうです」

「あら。何の病気かしら? まさか事故?」

「いえ。高熱を出して自分で病院まで行ったらしいのですが、家に居た先輩に電話があって、手続きをしに病院に行っていたと先程電話がありました」

「そう。でも入院となればお医者様や看護師さんが近くで診て下さるから、家に居るよりも安心。ましてや自分で歩いて行ったとなれば過度に心配しなくても良さそうね。病名は聞いたかしら?」

「とりあえずご連絡下さったとのことで、病名までは聞いておりません。それでりゅうくんは……」

「入院よ。衰弱が酷いからある程度回復するまで点滴して、その後に扁桃腺を手術するそうよ」

「え?」
「エ?」

「二人とも、そんなに心配しなくても大丈夫よ。竜星の扁桃腺は遅かれ早かれ手術してあげたかったし、病院にいる方が私も安心だから。これで高熱から解放されると思えば高校生だから体力もあるし、このタイミングで良かったのかもしれないわ」

「母ちゃん、扁桃腺ってヤバイ病気なの?」

「扁桃腺は誰でも持っていて、竜星は過敏に反応しちゃうから毎回高熱が出て喉がパンパンに腫れてしまうの。取ってしまえばこれから風邪をひいたとしてもそこまで酷くならないし、なにより男の子はあんまり高熱が続くと良くないのよ」

「どう良くないの?」

「女の子は子宮や卵巣が体の中にあるでしょ? あれは冷やさず温かくしなければならないからそうなってるの。男の子の精巣が体の外側にあるのは、逆に冷やさなければならないからなの。言い換えれば高熱があまり長く続くと、精子が作れなくなって赤ちゃんが出来にくい体になっちゃうかもしれないから、体力がある早めに手術した方がいいの」

「なるほど! ユヅハにとっても将来困っちゃうから、そりゃ今のうちに手術した方が良いね」

「そうね、若いうちだったら……もう!」

いつもの様に赤くなる姿は、本当にかわいい。

「本当にわかりやすいよね、よしよし。明日一緒にお見舞いに行こうね」

「うん」

「学校にはちゃんと連絡しておくけれど、部活のお友達に訊かれたら『高熱が出なくなるように入院しています』って伝えてくれると助かるわ」

「はい、おばさま。バドミントン部の顧問にも話しをしてきます」

「ありがとうね。五日間位で体力を回復させて、手術自体は全身麻酔で一時間も掛からないそうよ。でもしばらく食べられないから、二週間くらいは学校を休むことになりそうね。病院は駅前の『陽慈病院』で七〇五号室よ」

「ありがとうございます。明日コハクと一緒に学校帰りに寄ってきます」

「二人が顔を出してくれたらあの子、喜ぶわ」

「あたしはいつも助けてもらってばっかりだから、兄ちゃんの分も宿題とかノート作っておくよ」

「偉いわ、二人ともよろしくね。ああそうそう、竜星が退院するまで姫嶋さんのご厚意でお邪魔させて頂くことになりました。柚子葉ちゃん、琥珀共々よろしくお願いします」

「そんな、こちらこそよろしくお願いします」

「ユヅハ、母ちゃんからお料理習って花嫁修業だね」

「もう、コハク! からかわないで」

ほら、またかわいい。

「それじゃあ今日の稽古は二人だったんだね。頑張って掃除してくれたみたいだけれど、どんな稽古をしたのかな?」

(ジジイは平気なのに、お父上に話し掛けられるとなぜかムチャクチャ緊張する)

「はい! ケガ防止を重点に置き、柔軟とストレッチを入念に行いました。その後は二人で乱取り稽古をしまして、あかね先輩からの電話で中断となっております。 あ、畳を雑巾がけしなきゃ!」

「元気が良いのは素晴らしいけれど、何かあったのかい?」

「コハクったら父上にお声掛け頂くと、すごく緊張するみたいです。安全面を最大限に考慮した実戦形式での乱取り稽古を行いましたが、投げはカウントせず寝技でのタップ一本カウントで、コハクは私から一本取っています」

これに母上は驚いて振り向き、父上は興味津々とばかりにコハクの顔を覗き込んで優しく頭を撫でた。

「そうか、柚子葉から一本取ったか。 偉いぞ、琥珀。審判が不在だったから立ち技での技ありはノーカウントということだね?」

「はい、そのとお……りです」

「どうしたの? 父上が怖かったの?」

「ごめんなさい、物心ついた時から母親は居なくて。父親に褒めてもらった経験が無かったので……すごく嬉しくて」

父上は大きな体で軽々と持ち上げ、まるで小鳥でも乗せるように右肩に彼女を乗せた。

「柚子葉はこの景色が好きでね、小さい頃からよく喜んでくれたよ。彼女はもちろん、琥珀も竜星くんも自分の子どもだと思っている。これからは遠慮なく甘えてくれていいんだよ」

(そう、私もあの高い位置から見える景色が大好きだった。いつも見上げている父上の頭に触れられる、特別な場所。母上はいつもこうして下から微笑ましく見上げていたのだろうか。私まで泣けてきちゃった)

「晩ごはんまでまだ時間があるなぁ。琥珀、まだ体力残っているかい?」

「はい、もちろんです!」

「よし、じゃあ少しだけ三人で道場に行こうか」

(コハクったら、本当に嬉しそう……え?)

#創作大賞2024#漫画原作部門



重度のうつ病を経験し、立ち直った今発信できることがあります。サポートして戴けましたら子供達の育成に使わせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。