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3カ国による滞在制作をしています。

久しぶりのnote更新になりました。
初めて読んでいるという方もいらっしゃるでしょう。私は、福岡を中心として、演出家・脚本家として活動しています(過去の公演映像などはコチラから見れます)。また、舞台で使用する映像作品や音の作家としても活動中です。


イベントについて

私は現在、EATI(East Asia Theater Interaction)というものに、実行委員・テクニカルスタッフとして参加しています。この企画は、日本・韓国・台湾の3カ国の演出家・役者・ドラマトゥルクなどが集まり、共同して作品を作っていくというものです(詳しくはコチラのHPをご覧ください)。
※ご予約はコチラから

この企画はFCP(Future Creation Program)とFEP(Future Education Program)の二本柱で開催されています。
FCPは、日本の演出家とドラマトゥルク、韓国の俳優6人、台湾のドラマトゥルクによる共同で、シェイクスピア4大悲劇の一つ『オセロー』の創作を行います。私は、FCPにはテクニカルスタッフとして参加しており、照明・音響・字幕・映像の一括オペレーションを行なっています。
FEPの方は、各国の演出家3名と、各国の俳優6名が3チームに分かれて『藪の中』(芥川龍之介)を演劇にします。こちらには、サポートメンバーとして主に韓国チームを担当しています。

実は、FCPの公演が19〜20日にまで迫っており、8月5日から始まった滞在制作も佳境に入っています。
そこで今回は、このFCPについて記事にしていきたいと思います。

ドラマトゥルクによる往復書簡

このFCPでは、日本と台湾のドラマトゥルクによる往復書簡が、滞在制作の開始日から始められました。それぞれのドラマトゥルクが、『オセロー』の創作にあたってどのようなことを考えているか、どのような問題意識を持っているか、またどのような疑問を感じているかなどが書かれています(往復書簡はコチラのnoteから読むことが出来ます)。
この往復書簡の中から、私が気になった点をいくつか取り上げながら、その理由や私の意見などを書いていこうと思います。

まずは、一回目の往復書簡から、以下の文章を取り上げます。

私はこのEATIを、韓国/台湾/日本、3カ国での演劇創作を通した単なる文化交流の場ではなく、混ざり合いながら、東アジアで連帯し、新たな文化•文脈を作り出し世界へ発信していこうという野心を持つことに期待しています。

『往復書簡 No.1』(石田(日本)→Shin(台湾))

この文章から、このEATIが単なる文化交流を目的としていないことが読み取れるでしょう。そして、東アジアという地域を一つの共同体として捉え、その共同体がどのように世界と渡り合えるだろうか?という「挑戦的」な企画であることが分かります。
私自身、一種の西洋コンプレックスを抱いている人間です。それは日本という国が開国以来、何度も西洋文化を輸入することで西洋列強に並ぼうとした歴史的な影響も少なからずあるでしょう。同時に、ヨーロッパの地図から見ればアジアは世界の端に位置しており、そんなアジアの文化を辺境の文化として紹介していたヨーロッパの価値観をも輸入してしまったのです。

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だからと言って、「私たちアジア人の文化は、西洋をはじめとする世界諸地域より優れているのだ」などと言うつもりはありませんし、そのような歴史的背景を背負って発展してきたのが、私たちの文化だという前提から逃れることはできないでしょう。だからこそ、引用した文章の中で述べられた「東アジアで連帯し、新たな文化•文脈を作り出し世界へ発信していこうという野心を持つことに期待しています。」という部分に共感しています。私たちに出来ることは、これまでのアジア文化の発展を踏まえた上で、どのように新しい文化・文脈を作ることが出来るか考え、実践することしかないのでしょう。

百瀬さんの作品*はコミュニケーションの不可能性をテーマにしていましたが、今度は私たちが同じようなツールやメディアを使って、文化や言語のギャップを越えようとする。これはとても面白いことだと思います。「共通言語」はどのように可能なのでしょうか。石田さんがおっしゃったように、「身体性」がそのひとつでしょう。そして、もうひとつは「忍耐」だろう。
* 前回のEATIにて、百瀬氏が台湾で行った演目『Foursome』

『往復書簡 No.2』(Shin(台湾)→石田(日本))

この引用において最も興味深いのは、共同によって一つの作品を作る中での、コミュニケーションについて言及されていることでです。文化人類学の文脈においても、異文化間のコミュニケーションや相互理解の困難さが度々テーマとして取り上げられている印象があります。なぜならば、異文化交流において言語の違いは非常に重要な問題であるからです。
そもそも言語とは、その民族の生活や思想に影響を受けて成立しています。単純な「言葉」という言語においても、その影響の違いは見てとれます。例を挙げるならば、日本語で「自然」と言ったときに、英語では「Nature」と「Natural」に分類されます。これは、日本がアニミズム的な自然と自身が一体となるような思想を持つのに対して、西洋では自然は人間にとっては脅威であり、それを支配しなければならないという思想があったことが関係しています。
つまり、私たちが異文化とコミュニケーションを取るということには、大きな隔たりが存在しているということです。
その上でShin氏は、「身体性」と「忍耐」にコミュニケーションの可能性を感じています。これは、非常に興味深い視点です。「言葉」というツールは、一度理性的に受け止めた上で理解されるものなので、どうしても意識・無意識に関係なく受け手の文化的背景の影響を強く受けてしまいます。対して「身体性」とは、「言葉」に比べて直感的、感性的に受け止めるものです。相手が持つ文化的背景がそのまま反映される「身体性」には、異文化間のコミュニケーションツールとしての可能性があるように思われます。恐らくこの有効性が本質を見失わずに言語化されることはあり得ないでしょうが(それが言語化できるものならば、それは「言葉」によるコミュニケーションの有効性を証明することと同義である)、実際の俳優の身体を伴う演劇という表現形式においては、それを実践的に実感できるかもしれません。それは、私がMr.daydreamerという団体において表現したいと考えているものと同じであり、その難しさも知っているつもりです。しかし、それを克服できたときに、異なる背景を持つもの同士がコミュニケーションを取れることを実感できるのでしょう。
今回、FCPの演出を務めている百瀬氏が、身体に重点を置いた「鈴木メソッド」をベースとして創作していることも、この往復書簡にて「身体性」が触れられたことと関係しているでしょう。そういう意味でも、このFCPにて発表される『オセロー』は、様々な人に観てほしいと思っています。
また、「忍耐」についての重要性としては、コミュニケーションというものは往々にして上手くいかないという前提があるということに関係していると思われます。何より、台中関係の緊張という、自分達の文化が脅かされる経験の只中にある台湾のドラマトゥルクが、それを重要視していることが興味深いのです。異なる文化背景を持つ者が対峙した時、そこには少なからず対立構造が浮かび上がります。文化というのは、個人を個人たらしめる構成要素の一つであるからです。それが異なるということは、個人の安全保障を脅かされる経験でもあります。ですが、その状態の中でも他者と向かい合い続けることで、結果的にその他者とコミュニケーションをとり続けているという状況が発生します。そのことに気がついた時、もしかしたら本当の意味でのコミュニケーションが理解できるのでしょう。そしてそれに行き着く過程は、恐らくは、非常に困難で痛みを伴うようなものになるのでしょう。
このEATI期間中に、その一端が垣間見えることを期待している自分がいるのも事実です。

おわりに

本当は今回の記事において、公開されているNo.4までの全ての往復書簡に触れて書いていこうと思っていました。しかし、想像以上に分量が増えたことと、これを書いているのが本番を目前に迫った一番忙しい時期であるということも関係して、No.2までに触れておわりにしようと思います。
そもそも、なぜ共同制作の様子に触れず、この往復書簡のみに触れたかというと、このやりとりが文字として言葉に残っているからです。
私は先ほど、言葉による異文化間のコミュニケーションは非常に困難であるという話をしました。しかし、私が実際の共同制作の場で、身体を伴って経験しているあらゆることは、(同じく先ほど述べた通り)非常に困難なことなのです。だからこそ、なんとか言葉を用いてコミュニケーションを取ろうと試みている往復書簡に触れて、そこで感じたことを言葉にしてみることにしました。

公演情報

8/19-20
Future Creation Program
『オセロー/Wシェイクスピア』
@柳川市民文化会館 イベントホール

東アジアのポテンシャルの発見と、その最大限の活用を目指した創作を試みる企画です。3カ国の演劇人が共同し、シェイクスピアの名作悲劇『オセロー』に挑みます。

日 時
2022年
8月19日(金) 19時00分 開演
8月20日(土) 15時00分 開演
会 場
柳川市民文化会館 イベントホール
チケット
3,000円 (前売り・当日)
取扱い
EATI オンラインチケット

アクセス
〒832-0058
福岡県柳川市上宮永町43番地1

出演者
イ・クシン/이크신 Keusin Lee
クォン・サンウ/권상우 Sang-woo Kwon
キム・ジュンソプ/김준섭 Jun Seob Kim
オム・ジヨン/엄지영 Ji-Young Eom
イ・ウンジュ/이은주 Eun-Ju Lee
ハ・ユナ/ 하유나 Yu-na Ha

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