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ニューヨークで研ぎ澄まされた才能が描く心象風景 〜又賀純一郎『Sketches』リリース記念Interview〜

日本国内での演奏活動後、2019年からニューヨークのアーロンコープランドスクールオブミュージックへ音楽留学。
Master of MusicとJazz Studies(修士課程)を修了し、在学時には優秀な生徒に贈られる“Marvin Hamlisch Award”を受賞。
その成果として、初のリーダーアルバム『Sketches』をリリースした新潟県新潟市出身のピアニスト、又賀純一郎

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 ・又賀純一郎 公式WEBサイト

初のリーダー作『Sketches』は自身のオリジナル曲を中心としたピアノトリオ作品。すでに「JAZZ JAPAN」や「ジャズ批評」といったジャズ専門誌や、ジャズCDレコード専門店でもオススメ作品として取り上げられるなど注目を集めている。

『Sketches』アルバムジャケット

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現在も拠点をニューヨークに置いて活動中の又賀に、本作の事はもちろん、これまでの音楽遍歴、コロナ禍におけるニューヨークでの活動についても話を聞いた。

・『Sketches』収録曲〈C.C.T.〉の演奏動画

大学入学からジャズピアノに傾倒

-ジャズを聴くキッカケ、ジャズピアノを演奏するようになった経緯を教えてください

ピアノは6歳から習っていて、中学の終わりまで習っていました。中学に入ってからはエレキギターを弾くようになり、ポップス、ロック、メタル、ブルース、R&B、フュージョンと様々なジャンルを知っていく中でジャズの存在を知りました。

-エレキギターでは主にどういった曲を演奏されていたのでしょうか

ギターを弾いていた時はロック、メタルなどを好んでいました。特に「MR.BIG」というバンドのギタリスト、ポール・ギルバートが好きでそのバンドの曲をよく練習していました。
その他にもスティーヴ・ヴァイなどテクニカル系のギタリストの曲を好んでいました。
個人でのバンド活動などはしていませんでしたが、
高校の軽音楽部に在籍していたので、校内でバンド演奏、文化祭で演奏するという感じでした。

・MR.BIG 〈Daddy,Brother,Lover,Little Boy〉

-本格的にジャズを聴き、演奏を始めたのはどのタイミングからなのでしょうか

大学に入学した時に、サークルにジャズ研究会があったのでジャズを学びたい、演奏したいと思って入部したのが本格的にジャズを聴き、演奏するようになったキッカケです。

-ジャズギターを演奏する方へ進まなかったのですね

ジャズを弾くならばジャズピアノが王道だろうと思い、ピアノを再び始めました。

-実際にジャズ演奏を始められて、どのように技術を身に付けていったのでしょうか

ジャズ研を軸に活動の範囲を拡げていましたので、その他の活動がそれにリンクしているのですが、他の大学にセッションに遊びに行って仲良くなって、そこの定期演奏会への出演や、その仲間と共にライヴハウスへの出演、「横濱ジャズプロムナード」などのフェスティバルに出演する、という形で活動を外に広げていました。
関東のジャズ研は横の繋がりが多いので色んな大学との交流があったことが大きかったと思います。

当初は独学でジャズ研の先輩からのアドバイスを参考に学んでいたのですが、「吉祥寺サムタイム」にピアニストの石井彰さんのトリオを見に行った時、その演奏が素晴らしく、感銘を受けて、その場でレッスンについて直接伺い、学生時代はレッスンを受けていました。
また、大学3年生頃から再度クラシックピアノも並行して家の近くのピアノ教室にも通っていました。

卒業後に作編曲を学びたいと思い今回のCDでマスタリングを担当いただいた大貫和紀さんに師事しました。
また、ジャズピアニストの道脇直樹さんのレッスンも受け、留学についての相談にも乗ってもらいました。

-様々な音楽を聴かれ、なおかつジャズも幅広く聴かれている又賀さんがお好きなピアノ奏者を教えてください
1人に決めきれないと思いますので、思いつくまま教えていただけたら

あまり偏ることなく聴く方なのですが、強いていえばキース・ジャレットが好きです。
新しい世代だとロバート・グラスパーアーロン・パークスを聴きます。
ここ最近は古い世代のジェイムス・P・ジョンソンをよく聴いています。

-又賀さんのピアノからは、伝統的なスウィング感覚と現代的なサウンドイメージを感じたので、今挙げてくださったピアニストの名前を聞いて合点がいきました
多彩なサウンドを表現する又賀さんが演奏する時、
心がけている事はどういった点でしょうか

なるべく歌うように演奏することを心がけています。
そのために、練習の時、頭に浮かんだフレーズを歌いながら演奏することもあります。

-又賀さんの作曲のインスピレーションはどういったものからが多いでしょうか

ロジカルに作曲していく方なので、新しく学んだ技法や奏法にインスピレーションを受けることが多いです。
普段から思いついたメロディは、短いものでもボイスメモに録音するようにしていますので、そのメロディと組み合わせて曲を作り上げています。


・渋谷のスクランブル交差点の乱雑さをイメージした 〈Scramble Crossing

アメリカで研ぎ澄まされた感覚

-大学から演奏活動を始められて、大学卒業後は企業に就職され(NEC中央研究所で振動音響工学の研究職員)、並行してジャズピアニストとしての活動をされていましたが、アメリカへ留学する事になった経緯を教えてください

長年、アメリカでジャズを学びたいと思っていたのですが、色々考えた末、巡り合ったのがアーロンコープランドスクールオブミュージックでした。比較的学費も安く、ニューヨークの地で音楽修士を2年以内で修めることができるため、この大学でジャズを学ぼうと思いました。

-アーロンコープランドスクールオブミュージックで学んだ事、経験した事で特に印象に残る事はどういった事でしょうか

学校では様々な授業があり色々なことを学びましたが、特に基礎的なこと、知識としては知っていたけれど実際の演奏や作曲に活かせていなかった部分を学べたと感じています。
また、先生方はもちろん一流のプレーヤーですが、マスタープログラムということもあり、生徒の中にもクリス・チーク氏(テナーサックス)やジュリアン・ショア氏(ピアノ)と言った一流のプレーヤーが在籍しており、彼らと直近で共に学べたことが印象深いです。
クリスは作曲科にいたので、演奏で一緒になることはなかったですが、重なる授業も多く、彼のアレンジ課題などをクラスで聴けたりしたのはラッキーでした。


-実際にアメリカで聴いて、感銘を受けたアーティストの方はいらっしゃいますか

学校でプライベートレッスンを取っていたデイビッド・バークマン氏とジェブ・パットン氏(共にピアニスト)の影響がとても大きいと思います。

日本にいた時から、足繁く来日アーティストのライヴにはできる限り通っていたので、現地で演奏を聴いて感銘を受けるというよりは、自分が日本で聴きに行っていたようなミュージシャンと身近に話すことができ、聞きたい質問を直に聞けるのが嬉しかったです。

-日本での演奏活動とアメリカでの演奏活動で異なる点はありますか

日本と比べて演奏の機会が多いと感じます。
路上や公園、地下鉄などでも「バスキング」という形で演奏することもできますし、レストランでも演奏の機会を得ることができます。
また、チップ文化により身の周りに溢れるアートに対してお金を出すことができるのもアメリカの魅力です。

・「バスキング」での演奏の様子

-日本よりも音楽が身近な所で、生活に密着しているんですね
 それだけに、昨年から続くコロナ禍はニューヨークでの活動に影響が大きくあったのではないですか

ロックダウンで外に出ることも、バスキングをすることも、学校に行って練習することもできなくなりました。治安も悪くなったので、なるべく家にいるようにしていました。在学中でしたので授業が全てオンラインになったことは残念でしたが、ロックダウンしたのが学生生活の最後の1ヶ月だったので、ほとんどの学生生活を対面で受講できたのがせめてもの救いです。

 ・ロックダウン中の陰鬱な雰囲気を表現した〈Cave

目標としていたアルバムレコーディング

-今回のアルバムを制作することになった経緯を教えてください

留学当初から卒業するまでに自分のレコーディングをすることを目標の一つとしていました。
コロナ禍の影響で卒業後になりましたが、無事にニューヨークの素晴らしいスタジオでレコーディングすることができて嬉しかったです。
山田吉輝さん(ベース)、永山洋輔さん(ドラムス)とのトリオでの演奏は、私の卒業リサイタルが初めてでした。
その時の演奏に非常に手応えを感じ、このトリオでレコーディングしたいと考え、今回のCD制作に至りました。

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 -今回のレコーディングにおいて、印象に残っている事、また難しかったことなど、印象に残るエピソードがあれば教えていただけませんか

1日で10曲全てを録りましたので、事前のスケジュールプラン作成や、当日のタイムコントロールが難しかったです。
また、多くのスタジオがコロナで閉まっていたのでリハーサル場所を探すのも苦労しました。レコーディング当日はメンバーもエンジニアも素晴らしく、思いのほか予定通りに終えることができました。


 -ジャズスタンダードではセロニアス・モンクの〈I Mean You〉を取り上げていますが、この曲は普段からよく演奏しているのでしょうか、それともこのアルバムの収録のために取り上げたのでしょうか

I Mean You〉は大学院で「セロニアスモンク・アンサンブル」の授業を取った時にアレンジしました。
必ず一人一曲をアレンジすることが課題でしたので何か面白いアレンジにしようと <I Mean You> をバラードにしてラージアンサンブル用のボーカル+3管にアレンジしたのがオリジナルです。
それをピアノトリオアレンジにして今回レコーディングしました。


-ゴスペル曲〈Total Praise〉も収録されていますが、実際にアメリカに在住されていると、ゴスペルは生活に根差した、身近にあるものなのでしょうか
その辺りの感覚がやはり日本にいると実感が湧かなくて

妻がクリスチャンなので、日本にいた時からゴスペルないし賛美歌は私にとって身近なものでしたが、アメリカではより身近に感じます。
街の至るところに教会がありますし、アメリカの文化、音楽文化を知るにはゴスペルは欠かせないと思います。大学院のアントニオ・ハート氏のインプロヴィゼーションのクラスでも「教会で音楽を聴いてきなさい」という課題がありました。
今回収録した〈Total Praise〉は私が会社員時代にイギリスの大学と共同研究をしたことがあり、その時に訪れたロンドンの教会で初めて聞きました。
原曲はゴスペルクワイヤが大勢で歌うとてもパワフルな曲なのですが、いい曲でいつか演奏したいと考えていた一曲です。


-レコーディングメンバーの山田吉輝さん(ベース)、永山洋輔さん(ドラムス)、それぞれの演奏の魅力を教えてください

山田さんはニューヨークに来てからお会いしたのですが、彼は10年以上もニューヨークで活躍するベーシストですので演奏はもちろんのこと、譜面にも強く、何をお任せしても素晴らしい演奏をしてくれます。

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永山さんは彼が学生の頃からの付き合いなので10年以上一緒に演奏しています。
タイトなリズムが魅力だと思います。
特にコンテンポラリーなナンバーでのソロが素晴らしいです。好きな音楽も近いので私の曲をイメージ通りに演奏してくれます。

-トリオの演奏のバランスが絶妙で、自然な音の重なり合いが心地良いです

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写真左より…山田吉輝、又賀純一郎、永山洋輔


-アルバムの世界観にぴったりの印象的なアルバムジャケットはマーガレット・コグスウェルさんの作品との事ですが、どの時点でこの絵をアルバムジャケットに採用したいと考えていらっしゃったのでしょうか

CD制作時点では、アルバムジャケットのデザインはまだ決まっていませんでした。
マーガレット・コグスウェルさんはニューヨークの地で出会った、アーティストの友人であり、彼女が描いた作品集などを見せてもらったところ、自分のアルバムのコンセプトとぴったり合うと思いました。
そこで、私がCD制作中であることを話して、彼女の作品を使わせていただく運びとなりました。
彼女が今回のコロナ禍中のロックダウン中に制作した作品集の中から今回のアルバムイメージに最も合うと思ったものを私が選びました。
とても素晴らしいアーティストなので、これを機にぜひ多くの方々にも彼女の作品を知って欲しいです。
CDアルバムの内側に彼女のURLも載せていますので、ぜひアクセスしてみてください。

・マーガレット・コグスウェルさんのWEBサイト

1冊の絵本を読むように聴いてほしい

-最後にアルバムの特に聴いてほしいポイントがあれば教えてください

1枚を通して聴きやすいように曲順を考えたので、通して聴いていただきたいのですが、特に私のオリジナル曲である〈C.C.T.〉を聴いてほしいです。
この曲は構造やメロディ、ハーモニーも工夫したのですが、この3人での演奏をイメージしたものがそのまま形にできた一曲となっています。
今回のアルバムは、ストレートアヘッドからコンテポラリー、ジャズスタンダード、ゴスペルまで、様々な曲調を収録し飽きさせない工夫をしました。ジャズがお好きな方から初めて聴く方まで、1冊の絵本を読むようにジャケットアートと共に音楽を楽しんでいただけたら嬉しいです。

 自己の音楽の研鑽のため、遠いニューヨークの地で着実に力をつけ、その成果を見事なアルバムとして発表した又賀。今後もニューヨークを拠点に、さらにその音楽の才覚を発揮し、魅力的なサウンドを生み出してくれる事だろう。
状況が落ち着けば、日本でその成果をライヴで聴かせてほしい。

〈『Sketches』CD販売情報〉
・ディスクユニオン

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008325880

・タワーレコード

・HMV

・VENTO AZUL RECORDS

・Amazon


〈『Sketches』各種配信〉

・Spotify

・Apple Music


〈ディスクレビュー〉
・The Beat Goes On

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