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恋愛のすべてはMr.Childrenから教わった

「ただのクラスメイト」そう呼び合えたあの頃はa long time ago

Mr.Childrenの「クラスメイト」のように、僕たちはただのクラスメイトだった。でも、恋に落ちて、その恋が終わった瞬間に、二人はただのクラスメイトではなくなった。

恋に落ちたのはどちらからだったかはもう覚えていないけれど、二人の思いが一度重なった事実は、いまでも鮮明に覚えている。好きだからすれちがい、嫌いになりたくないから取り繕おうとした。初めて人に振られた恋。でも、最後まで振られた理由を、彼女の口から聞けないまま10年以上の月日がたった。

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あれは高校一年生の冬の話だ。僕には当時お付き合いをしている恋人がいた。当時の恋人は束縛を好むタイプだった。束縛される生活にうんざりしていた僕は、どうやって別れを切り出すかを必死に考えていた。好きだからこそ縛りたい。いや、本音は自分に自信がないんだろう。そんなことは当時の恋人には言えるはずがなく、ただ順応するしかなかった。

束縛に悩む僕に対して、やさしく手を差し伸べてくれた女性が僕が恋に落ちたクラスメイトだ。彼女は明るくてクラスの人気者だった。どんなときも笑顔を絶やさず、にこにこしている。くっきり二重まぶたに、誰もが羨む大きな瞳。そして、笑ったときに出るえくぼがたまらなく可愛かった。

クラスメイトとして仲良しだった僕たちは、他のクラスメイトを誘わずに、二人で遊びに行くようになる。音楽の話をしたり、スポーツの話をしたり。彼女は水泳が好きで、たまに休日に一人で市民プールで泳いでいるらしい。これはクラスメイトは誰も知らない話で、僕だけが知っていた話だ。なんでも包み隠さずに話せる存在。いつしかそんな彼女の事が気になり始めていた。

とはいえ、僕にはまだ恋人がいる。クラスメイトである彼女に思いを伝えるためには恋人と別れる必要がある。恋人がいながら別の女性と遊ぶ。なんて悪いやつだったんだろう。

ある日、ただのクラスメイトである僕たちはバッティングセンターに行った。二人とも野球なんてやったことがない。110Kmに設定したんだけれど、二人ともバットに掠りもしなかった。下手くそな二人。バットにボールが掠りもしなかったけれど、僕たちの思いはあの日重なったんだと思う。

当時の彼女との決別を決断した僕は、彼女を呼び出し、お付き合いを解消するよう交渉した。もちろんすぐに受け入れるわけがない。なんども泣きつかれた。それでももうこの気持ちが揺らぐことはない。別れたあともいろいろ面倒ごとがあったけれど、なんとか恋人関係を解消できた。

そして、その日の夜にクラスメイトの彼女に1通のLINEを送った

「彼女と別れた」
「そっか。後悔してない?」
「うん。なんかもうすっきりって感じ」
「それなら良かった。じゃあおやすみ。また明日学校で」

こんな感じのやりとりだったと思う。その日はなかなか眠れなくて、深夜番組をずっと見ていた。夜の空は静かだった。鈴虫の鳴き声以外は一切音がしない。星は煌めき、雲はひとつとしてない。彼女とクラスメイトである彼女。その二人を天秤に掛ける曖昧さ。恋はいつだってシーソーゲームだけれど、ミスチルはそういう意味で歌ったわけではない。

告白をするのだって、クラスメイトである彼女が、こちらに気持ちが向いているとわかっているからするのだ。勝ち目のない勝負なんてできない。なんてずるい男なんだろう。でも、夜なら自分の気持ちを素直に吐き出せる。だから、君に告白をするなら絶対に夜がいい。

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愛情っていう形のないもの 伝えるのはいつも困難だね

愛情、伝えるのが難しいものだから愛しい人に名もなき詩を送り続けていたんだろう。でも、宛先不明の言葉なんて届くはずがない。愛はたしかにそこにあるのに、それを届けるのに、ただただ臆病だった。

あれから何も起こらないまま、季節は冬になった。大阪は雪が滅多に降らない。その年はなぜか例年よりも雪がたくさん降った、気がする。白い雪にテンションが上がり、彼女に「雪降ってる」とLINEを入れる。すると「テンション上がるね」と返ってくる。もうそのやりとりができるだけで幸せ、だった。

いつも通り学校に登校して、いつも通り授業を受ける。特別な会話なんて何もない。たまに目が合うときがあったけれど、恥ずかしくなって思わず目を背ける。きっと僕が彼女に見惚れてしまっているんだろう。そして、その事実に彼女はちゃんと気づいている。彼女は以前、自分からは告白できないタイプと言っていた。そう、僕が勇気を出さなきゃならない。そんなときに限って、足取りが重くなる。下校時間になって、ようやく彼女に「今日一緒に帰らない?」と聞くことができた。

彼女の家の前まで自転車で送り、彼女を後ろに乗せて自転車で、近くの大きな公園へと向かった。ケンタッキーでチキンと飲み物を購入して、季節外れのピクニックをした。二人で一つのマフラーに包まり、あまりの寒さに自然と繋いでいた手と手。彼女の手は冷たくて、僕の手は暖かい。「この暖かさだったら冬でも手袋いらずだね」と僕の手を握りながら彼女が微笑む。「そんなことないよ」とありきたりな言葉しか言えない情けない僕。

冬の風は冷たくて痛い。でもその痛さが心地よくて、いつまでもこの時間が続けばいいと願っていた。冬は夏と比べると日が落ちるのが早い。17時にはもう陽は落ち始めているし、子どもたちも家に帰ろうとする。すっかり静まった日が暮れた公園。何食わぬ顔をしながらしっかり動している僕。きっと僕の心なんて簡単にお見通しな彼女。

相手の顔を見てする告白は恥ずかしい。でも、いつ言えばいいんだ?わかんねぇと思いながら彼女と二人乗りをしている。そして、長い坂を登り切り、下っている瞬間に吹っ切れたのか、なぜか僕は坂を下りながら彼女に告白をしてしまった。

自転車を降り、彼女に「さっきの告白の返事は?」と尋ねると、彼女の顔が真っ赤になっていた。「え?ちょっと待って。告白されるなんて思ってなかった。私のことなんて好きじゃないと思ってたし、、、」

彼女は僕が好意を抱いていることを、知っていると思っていた。でも、蓋を開けてみると、まさか恋人関係に発展するなんて思っていなかったそうだ。あれだけ悩みの相談をして、一緒に遊んだりもして、実は好きじゃなかったんですってなったら思わせぶりすぎるだろ。気づけよ。鈍感かよ。悩んでたこっちがバカみたいじゃんか。

返事は「よろしくお願いします」だった。嬉しさのあまり彼女をぎゅっと抱きしめる。心音が重なった瞬間、彼女の気持ちがやっとわかった気がした。彼女の手をずっと離したくない。それから毎日のように一緒に帰路に着いた。友達からは「お似合いだね」なんて言われて、「やめろよ」と言いながらも満更じゃない二人。僕たちはもうただのクラスメイトではなくなっていた。

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生まれたての僕らの前にはただ果てしない未来があって

新しく訪れた二人の未来。目の前には果てしない未来が広がっていて、それを信じていれば何も恐れずにいられた。ちゃんと、幸せ、だった。デートのときは服を選ぶ時間さえ愛しくて、外に出た瞬間に、周りの景色が色とりどりに見えた。それはきっと彼女も同じで、デートのときはばっちりメイクを決め込んで、服装もいつもとは違う衣服を身に付けていた。きっと無理をしていたんだろう。それはお互い様で、お互いに無理をしながら、等身大の自分になれないまま一緒に時間を過ごした。好きだからすれ違って、嫌いになりたくないから取り繕おうとした。

お付き合いを始めて数ヶ月がたった頃に、彼女の様子がなんだかおかしくなった。きっかけはもう忘れた。つい最近までは「誕生日プレゼントは何が欲しい?」って嬉しそうに聞いてきたのに、どうしてしまったんだろうか。その理由は彼女とお別れして10年以上がたった今もわからないままだ。

誕生日の日はお互いに予定が入ってしまって、会えなかった。誕生日の日にちゃんと会えていたら何かが変わっていたんだろうか。それすらもわからない。でも、どうせ彼女は僕を振っていたんだろう。僕の誕生日を祝うために、デートをすることになった二人は梅田のビッグマンで待ち合わせた。

普段はデートの段取りをせず、僕に任せっぱなしの彼女。なぜかこの日だけは様子がいつもと違う。すべてのデートプランを考えていた。そう別れるまでのシチュエーションまで完璧に組まれていたのだ。ランチを食べて、高校生にしては奮発したお店でディナーを食べる。別れ際にプレゼントを渡された。そして、彼女の口から「私たち別れよっか」と提案が来た。

何がどうなっているかわからない僕は状況を飲み込めずにいた。動揺を隠せず、理由を問い詰めても答えは何も返ってこない。別れるの一点張り。彼女は一度決めたことは曲げないタイプの女性だから、こちらが折れるしかない。そして、僕は彼女のリクエストに順応した。

「別れるのに誕生日プレゼントを渡すなんて変だよね」
「ううん、大切にするよ」
「そっか。いらないと思ったら捨ててくれていいからね。今まで楽しかった。本当にありがとう」

それ以上は何も言えなくて、無言でさよならをした。実家にある彼女のプレゼントは、そのあとどうなったかはもはや記憶にない。捨てたかもしれないし、捨てていないかもしれない。もう誰も実家に住んでいないため、確認すらできないのだ。でも、もはやその答えがどっちかなんてどうだっていい。僕と君の関係はもう終わった。戻ることもなければ、もはや戻りたいとも思わない。

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おもちゃの時計の針を戻しても何も変わらない

僕の恋が終わったのは夏だった。君がいた夏。おもちゃの時計の針を戻しても何も変わらない。そんなことは知ってた。それを簡単に受け入れられない自分がただ存在していただけだ。

高校を卒業してから数年が経ち、彼女は看護学校へ、僕は大学生になった。そして、ある日僕たちは偶然再会した。変わったことと言えば、僕には新しい恋人がいて、彼女には恋人がいない。それぐらいだ。でも、彼女が笑ったときに出るあのえくぼは変わらず素敵なままだった。

「恋人できたんだね。幸せそうで良かった」
「あれから何年も経ってるからね。あのさ、俺が振られるときに理由を教えてくれなかったじゃん?俺ってなんで振られたの?」
「些細なことの積み重ねだったと思うんだけど、詳しい内容は全然覚えてないの」
「まじかよ。振られるときも理由を教えてくれなかったからこの先振られた理由を知らないまま生きていくのかよ」
「ふふふ。ごめんね。でも、今までてで一番素敵な彼氏だったよ。それだけは覚えているから私はそれでいいの。本当に幸せだった。でも、、、」

それ以上は何も言わず、ただ口を閉じた。彼女の顔はなんだかすっきりしているけれど、彼女から言われた言葉がずっと引っかかっている自分がいた。

大学を卒業し、社会人になったある日、SNSを通じて彼女が結婚したことを知った。もう会わないから気にしないでおこう。でも、彼女が残した言葉がずっと胸に残り続けている。あのとき僕に恋人がいなければ、また恋人としてやり直せたんだろうか。

そういえば彼女のSNSの結婚式のBGMはミスチルの「しるし」だった。彼女にミスチルの良さを説いたのは僕で、たくさんの楽曲を一緒に聴いた。まさか彼女が結婚式にミスチルを使用するなんて思っていなかった。僕らにとってのミスチルは、それぞれのミスチルになった。別になんとも思ってない。ただいろんな角度から君を見ていたのは事実だったし、傷つかないための予防線をお互いに張っていたのも事実だ。

あれから数年が経ち、僕には恋人がいない。そして、彼女の隣には大切な旦那さんがいる。地元を自転車で走っていると、たまたま彼女と遭遇した。彼女の隣には別の男性がいた。SNSで結婚をしていたのは知っていた。でも、それが事実なんて自分の目で見るまでは信じていなかった。街の景色は変わらないのに、僕たち二人は時間と共に変わっていく。いっそ街の風景も変わってくれれば、潔く諦められたのかもしれないのに。

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遠い記憶の中にだけ 君の姿探しても もう戻らない でも忘れない 愛しい微笑み

彼女と旦那さんに手を振って、自転車に乗る。生ぬるい風が吹く。季節は夏。僕たち二人がお別れしてしまった季節である。きっとこれが最後のお別れなんだろう。そして、イヤホンから「CROSS ROAD」が流れた。変えられない現実。失ってしまった現実。もう戻れない。いや、戻りたいとも思えない。でもきっと彼女の微笑みを忘れることは一生ないんだろう。

なぜこのタイミングで、またしても僕はミスチルを聞いているのだろう。恋の楽しさを、儚さをミスチルが教えてくれたような気がする。そういえば僕の先輩は、事あるごとに「恋愛で悩んだらミスチルさんの曲を聞け。答えは全部言ってくれてはる」と口すっぱく言っていた。

先輩の言葉どおり、恋愛のすべてはMr.Childrenから教わった。そう言っても過言ではないぐらいミスチルにはお世話になっている。恋に落ちた日も、恋が成就した日も、恋に破れてしまった日も、変わらず僕のそばにはミスチルがいた。

僕たち二人は、ただのクラスメイトには戻れない。もう、戻れないのだ。



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