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2019年7月の記事一覧

〈夢の国〉にちりばめられた、素敵な謎七河迦南『夢と魔法のリドル』

〈夢の国〉にちりばめられた、素敵な謎七河迦南『夢と魔法のリドル』

〈ハッピーファンタジア〉。現実と虚構が曖昧なその〈場所〉で、少女は異世界への扉を開く。

 現実の中にあって夢を感じさせる世界最大級のテーマパーク〈ハッピーファンタジア〉には杏那たちにとっての〈現実〉とは別の、裏側に貼り付いたもう一つの世界があり、そこでは魔王がこの世を乗っ取ろうと画策しており、魔王から世界を救うための存在――リドルとして招集された杏那の謎と冒険。一方で姿を消した杏那を探す研修医の

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最後まで先の読めない、ミステリ集!『最後のページをめくるまで』水生大海

最後まで先の読めない、ミステリ集!『最後のページをめくるまで』水生大海

 罪に手を染めてしまった人たちに待ち受ける陥穽。本書は、作品それぞれに容赦の無い驚愕の結末が用意されている短篇集ですが、強引なラストではなく驚きつつも腑に落ちるようなラストになっています。金を借りに来たかつての恋人、妻を殺した医者、詐欺の片棒を担ぐ青年……罪の重さは人それぞれですが、それぞれの作品の軸に罪に手を染める人がいます。その罪をめぐる人間模様が丁寧に描かれていて、とても自然な形で最後の仕掛

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ミステリ作家を信用してはいけない
  道尾秀介『いけない』

ミステリ作家を信用してはいけない   道尾秀介『いけない』

 本書は「弓投げの崖を見てはいけない」「その話を聞かせてはいけない」「絵の謎に気づいてはいけない」の中篇くらいの分量の三つの章とエピローグ要素の濃い第四章「街の平和を信じてはいけない」の四章構成になっています。

 目が覚めている状態で見る悪夢に苦しみながら、ゴールのはっきりとしない迷路を彷徨う。本作は結末の衝撃がすとんと腑に落ちる形にはなっておらず、どちらかと言えば、もやもやとした感覚が残る作品

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現世への愛と憎悪を超越して創り出した、どこまでも美しい虚構       アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』

現世への愛と憎悪を超越して創り出した、どこまでも美しい虚構       アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』

 そこに宿るのは強烈な周囲への不信や嫌悪である。まるですべてを拒絶するかのように、不安とともに孤独な生を送ろうとするその佇まいに、何故か強く惹きつけられている自分に気付く。相手は何ひとつ望んでいないのにその人のもとに引き寄せられていく、カリスマという言葉はあまり好きではないですが、こういう想いを他者に抱かせる存在が〈カリスマ〉というのかもしれません。

 ※敬称略ですので、悪しからず。

 解説者

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柔らかく美しく、そして自然な感動  砥上裕將『線は、僕を描く』

《「おもしろくないわけがないよ。真っ白い紙を好きなだけ墨で汚していいんだよ。どんなに失敗してもいい。失敗することだって当たり前のように許されたら、おもしろいだろ」》

 いつもお世話になっております。書店員のR.S.です。今回紹介するのは、第59回メフィスト賞受賞作、

 砥上裕將『線は、僕を描く』(講談社) 『ハサミ男』『煙か土か食い物』『すべてがFになる』など、(応募要項ではミステリ以外のエン

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