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最後まで先の読めない、ミステリ集!『最後のページをめくるまで』水生大海

 罪に手を染めてしまった人たちに待ち受ける陥穽。本書は、作品それぞれに容赦の無い驚愕の結末が用意されている短篇集ですが、強引なラストではなく驚きつつも腑に落ちるようなラストになっています。金を借りに来たかつての恋人、妻を殺した医者、詐欺の片棒を担ぐ青年……罪の重さは人それぞれですが、それぞれの作品の軸に罪に手を染める人がいます。その罪をめぐる人間模様が丁寧に描かれていて、とても自然な形で最後の仕掛けへと向かっていくので、意外なラストが腑に落ちるのだと思います。

 ちょっとした言葉のやりとりから滲み出る違和感や他人から見れば愚かに見えるけれど他人事にはできない行動など、細部にまで気を配った描写が、似たところのないはずの人々の姿を自分自身や自分の周囲の世界の出来事にように感じさせます。

 例えば「骨になったら」で桜子の姉が弔問客として来た桜子の友人に影で辛辣な評価を下す場面で、語り手が《(前略)なんと恐ろしいことを言うのだ。先ほどの感極まったようすは演技なのか。いや柚子は自分の気持ちの負担を少しでも減らしたいのだろう。桜子に手を差し伸べなかったのは自分だけではないと。》と思うシーンや「わずかばかりの犠牲」の主人公である諒が交通事故で死んだ両親に対して《俺の人生を狂わせやがって》と思う場面など、物語の本筋とはそこまで密接に関わらないそういう場面での心情だったり登場人物のやりとりだったりが、どこか遠くのことだと思いたい物語をすごく身近な他人事に出来ない物語に変えていきます。落とし穴にはまる人達の姿を見ながら、自分が落とし穴に落ちてしまったような感覚を抱くのです。

 タイトルや帯から容易に想像できるように、本書の収録作には、いわゆる《どんでん返し》的な仕掛けが用意されていますし、その《どんでん返し》も素晴らしいのですが、ただ世界をひっくり返すだけの作品じゃない、と声を大にして言いたくなる作品集です。

 どの作品かは言いませんが、結末とともに〈人を呪わば穴二つ〉という言葉が浮かんでくるある作品もラストも印象的でしたが、個人的な好みで言えば「わずかばかりの犠牲」がとても印象に残りました。

 安心できない空気感を全身にまとった、最後まで先の読めないミステリ集です。印象に残る作品揃いなので、

 ぜひ、ご一読を!