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〈夢の国〉にちりばめられた、素敵な謎七河迦南『夢と魔法のリドル』

〈ハッピーファンタジア〉。現実と虚構が曖昧なその〈場所〉で、少女は異世界への扉を開く。

 現実の中にあって夢を感じさせる世界最大級のテーマパーク〈ハッピーファンタジア〉には杏那たちにとっての〈現実〉とは別の、裏側に貼り付いたもう一つの世界があり、そこでは魔王がこの世を乗っ取ろうと画策しており、魔王から世界を救うための存在――リドルとして招集された杏那の謎と冒険。一方で姿を消した杏那を探す研修医の恋人、優は〈現実〉の世界で遭遇した殺人事件の探偵することになる。

 あなたは憧れていた幻想が現実によって色褪せていくような感覚を抱いたことはありますか。それはとても哀しい体験ではありますが、ときにそんな現実がその幻想をより美しいものへと純化させていくこともあるのかもしれません。異世界ファンタジーにテーマパーク内での殺人事件を絡めた本書は、ファンタジー世界の謎と現実世界の謎が密接に関わっています。物語の雰囲気に反して提示される謎の数々は複雑で(理解の面で危ういところもあるのですが)、その謎の解決もとても魅力的なのですが、さらに本書では〈異世界〉と〈現実〉の両方の謎が解かれても、もうひとつの世界での杏那の冒険というファンタジー小説としての美しさが余韻となって胸に残り続ける魅力があります。丁寧な伏線が張り巡らされた物語が行き着く先、その真相は〈夢〉と〈夢の国〉に己を託した人たちにとって、とても残酷なものです。しかし幻想が色褪せてはいけないと現実を奔走する人達の想いが、〈ハッピー・パピーの物語〉を特別なものにします。

 ミステリ好きで読み逃している人は、本当にもったいない、と思いますよ。ファンタジーやSF要素の強いミステリが好きな人には特におすすめです。「えっ、まさか、そんな」「そこまで、やるの!」という良い意味での驚きが詰まった作品です。

 本書の単行本時のタイトル『わたしの隣の王国』。個人的な好みで言えば、こちらのタイトルのほうが好きなのですが、作品内容に合っているのは『夢と魔法のリドル』なのかもしれません。〈夢〉、〈魔法〉、〈リドル〉。そんな言葉が持つ魅力に溢れた作品です。

 ぜひ、ご一読を!