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モーツァルトの珍しい調を使った作品

モーツァルト(1756~1791)の大半の作品は長調で書かれています。その長調の作品群のほとんどが7つの調で占めています。

その調はハ長調、ト長調、ニ長調、イ長調、ヘ長調、変ロ長調、変ホ長調の7つです。

一方で数少ない短調の作品においては、その主要な作品のほとんどがニ短調、ト短調、ハ短調で作曲されています。

例を挙げると、
ピアノ協奏曲のうち、短調である20番24番は前者がニ短調、後者はハ短調です。
交響曲においては25番40番ト短調で書かれています。
他にはピアノソナタ第14番、セレナーデ第12番、ミサ曲K427などはハ短調ピアノ四重奏曲第1番、弦楽五重奏曲第4番などがト短調弦楽四重奏曲13番、15番、そして最後の作品となったレクイエムなどがニ短調で作られています。

当時はまだホルン、トランペットはヴァルブが開発されていなかったので、今のように自由に半音階を演奏することができませんでした。そのため調号の多い調ではホルンやトランペットを活かすことができなかったのです。この時代、金管楽器の中で半音階を演奏できたトロンボーンは、宗教的な作品、オペラで使われることがほとんどで、交響曲など世俗的な作品には用いられませんでした。

また、調号が少ない調というのは弦楽器にとっても開放弦が使えるので、響きやすいという特性も持っていました。特にト長調、ニ長調、イ長調などは弦楽器にとって演奏しやすく、響きやすい調でもあります。これはヴァイオリン協奏曲を遺した作曲家の作品をみればわかると思います。例えば3大ヴァイオリン協奏曲のうち、ベートーヴェン(1770~1827)ブラームス(1833~1897)ニ長調で書かれています。

短調においてもニ短調、ト短調、ハ短調というのは、弦楽器にとっては開放弦が使えるのでその響きを活かすことができます。ニ短調、ハ短調というのはトランペットを用いることができた数少ない調でもあります。

前置きが長くなりましたが、ここではモーツァルトが上記の調以外で作った作品を紹介したいと思います。数少ないものですが、変イ長調、ホ長調、イ短調、ホ短調、ロ短調、嬰ヘ短調、ヘ短調で書かれた作品がいくつかあります。では早速見ていきましょう。


1 変イ長調

変イ長調を主調とする作品はほぼありません。子供のころに書かれたメヌエットK15ffロマンス変イ長調があるくらいです。しかし、ロマンスの方には偽作説があります。


変イ長調が使用される場合は変ホ長調の多楽章作品において緩徐楽章で登場するくらいです。ほとんどの場合、変ホ長調の多楽章作品における緩徐楽章は属調の変ロ長調か、もしくは平行調ハ短調が用いられます。緩徐楽章に変イ長調が採用されたのはホルン協奏曲第3番K447、ピアノ四重奏曲第2番K493、ディヴェルティメントK563、交響曲第39番K543などです。

2 ホ長調

ホ長調による曲は変イ長調より少ないです。ピアノ三重奏曲K542は数少ないホ長調が主調による作品です。

あとはヴァイオリン協奏曲第5番K219の第2楽章に用いられています。

3 イ短調

イ短調では有名なピアノソナタK310があります。

母、アンナ・マリア(1720~1778)の亡くなった1778年に作られた作品で、モーツァルトの作品では悲劇的な性格を含んでいます。それだけ母の死というのはモーツァルトにとってかなりの悲しみだったのでしょう。

もうひとつ、イ短調で書かれた作品でロンドK511があります。

1787年の作品となっており、作曲された約2か月後には父、レオポルト(1719~1787)が逝去することになります。しかし、先ほどのピアノソナタに比べると悲劇的な性格は潜まり、可憐で愛らしい作品に仕上がっています。この作品を悲劇的に演奏すると、この曲の魅力が台無しになるような気が自分はしています。

4 ホ短調

ホ短調の作品は、先ほどのピアノソナタと同時期に書かれたヴァイオリンソナタK304があります。

この作品も寂しげで、モーツァルトの悲しみが深く反映されている作品だと思います。

他にはミサ曲ハ短調K427の中の第2曲グローリア第6部主のみ聖なり(Quoniam)ホ短調で書かれています。

歌曲で『老婆K517という作品があるのですが、これもホ短調で書かれています。この歌曲はピアノパートは低音部しか書かれておらず、通奏低音風のスタイルをとっているのが特徴です。また歌手には鼻にかかった声でという指示がされています。

5 ロ短調

ロ短調の作品はかなり少なく、アダージョK540があるくらいです。

なんのために書かれたのかはわかりません。ソナタ形式でかかれており、先ほどのロンドイ短調K511よりモーツァルトの苦悩、苦汁が反映されているような作品になっています。最後はロ長調で終結します。

他にはフルート四重奏曲第1番K285の第2楽章で使われています。

6 嬰ヘ短調

嬰ヘ短調ピアノ協奏曲第23番K488の第2楽章で使われているのみです。

モーツァルトのピアノ協奏曲の緩徐楽章の中では物思いに耽るような曲想になっており、完成度が高いです。構成的にも複雑さはなく、シンプルなメロディも相まって非常に美しい曲となっています。

7 ヘ短調

ヘ短調は、ピアノソナタ第2番K280の第2楽章で使用されています。

他には歌曲『別離の歌K519自動オルガンのためのアダージョとアレグロK594、自動オルガンのための幻想曲K608などで使用されています。K608ではモーツァルトによるオルガンを使ったフーガを聞くことができます。

8 終わりに

今回はモーツァルトの珍しい調を使った作品群を紹介しました。作品によっては激しい感情を見せる作品もあり、一般的に想像するモーツァルトの華やかさとは違うものもいくつかあったと思います。これを機に様々な曲を聞いてみてください。

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