僕と君

想イヲツヅル #64


なんてことをしてしまったんだろう


君に告白をしてしまった

想いを伝えてしまった



仕事終わり

君とビリヤードをすることになった

先日のビリヤードで
友人に大敗したことが悔しいから
練習に付き合えという

君からの提案で

職場から近いプールバーに行く


君はいつものカシスオレンジ

食事もせずに球をついた


バックスピンだったり
サイドスピンだったり

そんな感じの練習である


集中して練習していたせいか

君の1杯目のカシスオレンジがなくなる頃には
だいぶ時間が経っていて
夜も更けてきてしまった

さすがに2杯目を頼むことは諦めて
店を出ることにした


そのあと向かったのは

前に君と行ったあのファミレス


そして

そこから僕は間違っていくことになるんだけれど



入店後


僕は前と同じような和食を

君はグリーンサラダにローストチキンが乗ったようなプレートを選んだ


セットの飲み物はお互いに珈琲

珈琲は食後にする

※前回知ったのだが
ここの珈琲はおかわり自由らしい


食後

「アメリカンってできますか?」

君が店員に声をかけていた

真似をして僕も普段飲まない
″アメリカン″にしてもらった

「これがいいの」

そう言って
君は満足気に珈琲を飲み


そんな君を見ながら飲む
″アメリカン″を僕も好きになった


そして

2杯目のおかわりの時


僕もなんで言ってしまったのか
ネジが外れてしまったのか

「僕は君のことが好きだと思うんだ」



珈琲の湯気に混じるように
ふっと君に話してしまったのだ

君は目を丸くして
驚いたような
悲しいような顔を一瞬して


その後
すぐに笑いながら


「冗談はやめてよ」

「恋なんか忘れたよ」

「例えば」

「キスの仕方なんか忘れたし」

「久しぶりすぎて前歯が当たったりするんだよきっと」


と笑顔をくれたまま
僕を救うような返事をくれたのだが

残念なことに

僕は立て続けに間違っていくのである


「まぁ好きになってしまったんだから」
「好きは好きなんだよ」


2杯目のアメリカンはもう空っぽになっていた

今更ながら

僕と君は
ほとんど恋愛の話はしてこなかった


唯一
知っているのは

前回
このファミレスに来た時に話した

君が
″好きという感情を忘れてしまっている″
ということくらいだと思う

それ以上を僕は聞かなかったし
※もちろん色男の話も

君も僕の恋愛については
全くと言っていいほど聞いてこなかった


3杯目のアメリカンを飲みながら
漸く
僕は飛んでいった心のネジをみつけることができ

どっぷりと自分に失望し


君の″冗談で済ませよう″
という提案を受け入れることができた


その後はずっと

僕はなにかを取り戻すように

なにかを隠すように

取り留めのない
くだらない話をたくさんした

君もその″なにか″を察してくれたのか

たくさん笑ってくれていた


気付けばファミレスの大きな窓が

車のヘッドライトがたまにチラつくだけの窓が

一面に深いコバルトブルーに染まり

空の青が街を照らし始めていた


すっきりと飲める″アメリカン″は
お互い何回おかわりしたのかわからない


そして
空の青が街に降るまで
君が僕と一緒にいた理由もわからない

ただわかってしまったことは

口にしてしまったから

″好き″という想いを口にしてしまったから

それは

自分に対しても
はっきりとその感情を認知させるには十分な出来事だったということ



「さよなら」

の後の君の後ろ姿を見ていた

孤独で寂しそうで

でも

しっかりと歩もうとする背中
足取りだった


君が見えなくなるまで

君が見えなくなっても

君を見ていた



そうなんだ

僕は君に恋をしたんだ

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