【書評】生きていることの残酷さ「真夏の死」-三島由紀夫
あらすじ
海難事故で幼い子供を失った夫婦。不幸に直面した衝撃と怒り、悲嘆からの逃避、忘却のはじまり、そして──喪失の後の心情を克明に追う「真夏の死」のほか、川端康成に評価され作家デビューのきっかけとなった「煙草」、レズビアニズムを扱った先駆的で官能的な「春子」など、短篇小説ならではの冴えが際立つ11篇を収録。著者による解説も付した自選短篇集。
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三島を語るべく語彙を持ち合わせていない。
誠に残念なことながら。
ポップに解説してはなんだか負けたような気がするのだ。三島には大きく分けて妖しい・快活・静謐さのジャンルがあって、それを天才的な俯瞰視点から圧倒的語彙の暴力により形成されている。
読むたびにボコボコにされるが暴力的なほどに美しいし、また挑戦でもあるが確実に今の自分を引き上げてくれるものでもある。
「煙草」はまさに読んでいて匂いが感じられる。三島初期の小説だが、この匂いを辿っていけば今後の三島作品にどうやっても行き着く。
エロティックと官能は全く別もんだと思わせてくれたのは「春子」。
一体どうやって描写のほとんど無くしてこれだけ何かいけないものを読んでいるような気持ちになるのであろうか。「言葉一本でねじ伏せる」をやっている三島にしかできないことであろうが、セックスの描写を書けばいいと思っている猿みたいな今時の作家には一度読んでおけよと言いたい。
残酷でありながらもほろっと哀しみと納得が残る「サーカス」。
そして「潮騒」のような清い、真っ白な青春を一瞬見せられてからの、戦争の理不尽さを叩きつけられる「翼」。この物語では爆弾でヒロインの首が飛ぶ。しかし主題は理不尽さではなく、もっと切ない青春の後ろ姿であった。
快活な描写でコミカルに進んでいく「離宮の松」。「兵隊さん、カムバックよ〜」のセリフで「翼」の悲しみから一瞬引き戻されるが、この少女の選んだラストがおそらく一番残酷であるのは間違いない。
ちょっと推理チックな、美女に読者も一緒に翻弄されてしまう「クロスワード・パズル」。
表題作でもある「真夏の死」は、これぞ三島だなという作品で、ノンフィクションのルポを読んでいるようだった。
「人間を狂気に陥れ、死なせるのには、どれだけの大事件が必要なのか?」を作中で実験を行い、冷静にそれをしげしげと眺めているかのよう。恐ろしいよ…。
こちらも「花火」で一瞬気持ちを軽くさせてもらい、ストーリーを楽しもう。そのあとは「貴顕」による圧倒的な言葉の美しい暴力。心ゆくまで殴られてみよう。(全く解らない!!!)
「葡萄パン」で村上龍の「冷静と情熱のあいだ」を思い出し、最後の「雨の日なかの噴水」でもう一度青春の可愛らしさを薫らせてもらって読了。
僕の持っている語彙では到底表せないこの感情を全て一冊で体験できてしまう「真夏の死」。いきなり「金閣寺」を読むよりはこっちの方がとっかかりはいいかもしれない。最後に「雨の日なかの噴水」のセリフで締めるならば、
「なんとなく涙が出ちゃったの。理由なんてないわ。」
三島MIX度:★★★★★
悲しい・残酷度:★★★★★
でも美しい度:★★★★★
おすすめ度:A
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100円でいい事があります(僕に)