不死の狩猟官 第31話「ルームシェア」

あらすじ
前回のエピソード

波乱の京都出張から東京に戻った霧崎は、休む間もないまま、東京港区の一画にそびえる高層タワーマンションの前に来ていた。

霧崎「これが社宅……俺の新居?」

まるでホテルみたいなマンションだった。
巨大な大理石の支柱に支えられ、ガラスのバルコニーが備え付けられた部屋がずらりと建ち並ぶ。
霧崎はそんなタワーマンションを見上げながら、レイに今朝言われたことを思い出す。

早朝。
東京本部第三強襲課執務室──
霧崎は京都出張から戻ったと伝えるために第三強襲課の扉を開いた。
静まりかえった執務室の中、レイは執務机の前のチェアに腰かけながら資料の束に目を通していたが、霧崎に気づき、資料から顔を上げた。

レイ「おかえり、霧崎君」
霧崎「あ、はい。いま戻りました!」

優しくおかえりと言われたことにドキッとして、思わず言葉が遅れる霧崎。
レイは執務机の上にぽんと資料の束を置き、いつものポーカーフェイスにて霧崎を見上げる。

レイ「急だけど、霧崎君に社宅を用意したから、明日から使うといいよ」
霧崎「へ?」



霧崎はそんな今朝の出来事を思い出しながら、高級タワーマンションのエントランスの中を進み、いくつかあるエレベーターのひとつに乗りこんだ。
エレベーターから降りると、今度は広々とした大理石の内廊下が奥まで続く。
霧崎は内廊下に飾られた壺や絵画をキョロキョロと見ながら歩き進み、ようやくひとつの部屋の前に立ち止まった。

霧崎「503号室。ここか」

霧崎はそう言って、スラックスのポケットから真新しい鍵を取り出し、部屋の鍵穴に入れ、ぎいと扉を開くと、ピカピカに磨かれた黒い大理石の玄関が目の前に飛びこんだ。
玄関の先には、年輪を重ねた木目調の段差が設けられ、その段差の先に小洒落たアンティーク調の扉が備え付けられている。
今まで見たことない格調高い室内の様子に、霧崎は思わず驚きの声を上げる。

霧崎「前住んでたボロアパートとは大違いだ……」

霧崎はそう言いながら適当に革靴を脱ぎ捨てると、意気揚々と玄関先の段差に上がりこみ、次の部屋へと繋がるアンティーク調の扉に手をかける。

霧崎「本当にこんな場所に一人で住んでいい──」

扉を開けた霧崎は室内の様子を見て、困惑した表情を浮かべた。
室内自体は高級マンションらしい広々としたリビングになっていて、荷物がまとめられた段ボール箱が隅に積み上げられている。
霧崎が困惑したのは、リビングの中央にて、三人の男女が椅子に座りながら食卓を囲んでいたからだ。
ひとりはセーラー服を着た黒髪ポニーテールの女子、もうひとりは学生服を着た短い黒髪の男子、もうひとりは背広を着たおさげ髪の女、どれも見知った顔ではあったものの、彼らがなぜここにいるのか、霧崎には分からなかった。

霧崎「お前ら……なんでここにいんだよ!」
二階堂「なんでって」
天満「そりゃあ」
東雲「俺たち四人の家だからな」

三人はそう言うと、何事もなかったかのように再び食卓に向かい、食事を再開した。
セーラー服を着た二階堂は味噌汁を飲み、うーんと唸る。

二階堂「天満先輩の料理、本当に美味しいですね」
東雲「ご飯、おかわり」
天満「作った甲斐があったわ」

天満はそう言って、東雲から空になった茶碗を受け取ると、食卓の上に置かれた釜から茶碗に白米をよそい、嬉しそうに東雲に茶碗を手渡す。
霧崎はぽかんと口を開けたまま、三人が囲む食卓の前ににじり寄る。

霧崎「俺たち四人の家って、どういうことだよ」
二階堂「あれ、レイ課長から聞いてないんですか?」

二階堂はもぐもぐと卵焼きを頬ばりながら、呆然と立ち尽くす霧崎を見上げる。
天満は味噌汁を一口啜った後、食卓の上に茶碗を置き、霧崎のほうに顔を向けた。

天満「今日から四人でここに住むんやで。いわゆるルームシェアや」
霧崎「へ?」
二階堂「東京は家賃が高いからっていうことで、レイ課長が特別に社宅を用意してくれたんですよ」
霧崎「まじか。ルームシェアだったのかよ……」

かくして、四人の共同生活が始まった。

第31話「ルームシェア」完
第32話「鼠は駆除しないといけないね」

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