不死の狩猟官 第30話「名は風魔 雪花」

あらすじ
前回のエピソード

某日深夜──
霧崎とナギが京都に出張している間、国家不死対策局東京本部第三強襲課執務室の中では、ある密談がおこなわれていた。
レイは執務机の前のチェアに腰かけながら、クリアカップの上から突き立てられたストローからアイスコーヒーを啜り、目の前にボサッと突っ立つ白髪の中年男性を見上げる。

レイ「それで調査のほうはどうだったかな」
相良「レイが言ってた通りだ。どうやら社内に鼠が紛れ込んでる」
レイ「詳しく聞こうか」
相良「これを見ろ」

相良はそう言って、小脇に挟んでいたファイルから資料の束を取り出し、執務机の上に乱雑にどさりと置いた。
資料にはひとりの若い女性の写真と経歴が映る。
肩につかない程度に切り整えられたくせ毛まじりの黒髪が片目を覆い、首元に巻かれた長いマフラーが口元を覆い、どことなく暗い印象を受ける。
レイは執務机の上に優しくぽんとアイスコーヒーを置き、机の上から資料を取り上げる。

レイ「この子は」
相良「名は風魔 雪花。元々は東京本部第二諜報課に所属していたようだ」
レイ「へぇ、第二諜報課か」
相良「だが、任務中に深い傷を負い、右腕が上がらなくなってからは事務課に異動したとある。とまあ、経歴を見るかぎり、怪しい所はない。が、奇妙な点がひとつある」

レイはチェアの背もたれにぐっと背を預けながら、ペラペラと資料をめくっていたが、奇妙な点があると聞いて、紙をめくる指を止め、相良を見上げる。

レイ「どういうことかな」
相良「任務中に右腕に負った傷のせいで事務課に異動したとあるが、どこの病院を探しても、その時期に右腕を負傷した狩猟官の来院歴は見当たらなかった」
レイ「ほう」
相良「それと、もうひとつ奇妙な一致が見つかった。六枚目の資料を見てみろ」

相良に促され、レイは手元の紙をめくり、ちょうど六枚目の資料に視線を落とす。
紙面には第三強襲課の各員の名と風魔雪花の名が列記され、直近一ヶ月間の東京本部への入出時刻が記載されている。
国家不死対策局では、セキュリティの関係上、ビルへの入出時は警備員と監視カメラによって時刻と氏名が記録されているため、入出記録は正確だと言える。
レイはざっと資料に目を通すと、執務机の上に資料を置き、こくりと頷いた。

レイ「たしかに奇妙な一致だね」




レイと相良が口を揃えて、奇妙な一致というのも頷ける。なぜなら、第三強襲課の人員が東京本部に入出した数分後に、風魔雪花もまた東京本部に入出していることが資料から読み取れるからだ。
相良は執務机の上に置かれた資料を見おろしながら、レイの様子を伺う。

相良「どう思う」
レイ「彼女は未だに第二諜報課と繋がっていると見たほうがいいだろうね」
相良「狙いは霧崎か」
レイ「そうだろうね。霧崎君を快く思わない連中は社内にも多いからね」

レイはそう言って、執務机の上からクリアカップを取り上げ、ストローからアイスコーヒーを啜る。
相良は執務室に備えられた大きな窓から夜の港区を見下ろす。

相良「これからどうするつもりだ。第二諜報課が本気で霧崎を消そうとしてんなら、その女は暗殺実行部の可能性が高いぞ」
レイ「心配しなくていいよ。もう手は打ってある」

レイはそう言って、執務机の上にぽんとアイスコーヒーを置いた。
相良は大きな窓から広がる都会の夜景から目を逸らし、ポーカーフェイスのレイを一瞥する。

相良「どういうことだ」
レイ「じきに分かるよ。そろそろ帰って来る頃合だからね」
相良「京都の新人たちにその女を始末させるつもりか」
レイ「何か問題でも。霧崎君も同行させるつもりだよ」

相良は大きな窓にもたれかかると、険しい表情をしながら両腕を組み、レイの青い瞳を覗いた。

相良「暗殺部は対外的には存在しないとされてるが、その実態は組織の中で唯一、対人戦を得意とする少数精鋭の部署だと聞く」
レイ「それがどうかしたのかな」
相良「……まあいい。三課の長はお前だ。好きにしろ」

相良はそう言うと、怖い表情をしながら執務室を後にした。
静まりかえった執務室の中、レイはチェアに腰かけたまま執務机の上にて両手を組みながら、いつものポーカーフェイスにて虚空を見つめる。

レイ「さて、何人生き残れるかな」

第30話「名は風魔 雪花」完
第31話「ルームシェア」

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