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外国語を学ぶ醍醐味とは何だろう。

■ 昨日、ゲロしました。

これ。知人のフランス人男性が突然、真面目な顔で言い放った言葉です。
昨日車で酔って吐いてしまったと。ウケを狙うわけでもなく。アクセントのほとんどない、流暢な日本語でした。

私は、胸が一瞬だけザワっとする程度の、軽い違和感を覚えました。

しかし、彼とそこまで親しくもなく、この違和感を彼に教える義理も、うまく説明できる自信も持ち合わせておらず、その違和感をそのまま自宅に持って帰りました。

げろ
[名](スル)
1 嘔吐おうとすること。また、嘔吐物。へど。「げろを吐く」
2 隠語で、罪状を自白すること。「洗いざらいげろする」

デジタル大辞泉

念のため調べたところ、日本語で「ゲロ」というのは、特段俗語にあたらないようです。ただ使い方、状況によっては、少し不快感を与えたり、フォーマルな場では使われない言葉かと思います。(だから、この場で繰り返し使うことも、ちょっと抵抗を感じるわけで。すみません。)

私が、フランス人の彼に感じた違和感について、考えました。

親しい間柄であれば許せた?それだけじゃない気がします。この、「ゲロした」を違和感なく聞ける条件を考えました。

・親しい関係にある(職場の同僚レベルでは弱い。学生時代からの気心の知れた仲間くらいであれば、安心か。)
・インフォーマルな場所での会話である
・(お酒が入っているとか)すでに楽しい雰囲気になっている
・一人称だとインパクトが強くなり、三人称だと少し弱まる(気がする)

「ゲロした」を違和感なく聞ける条件(持論)

無論、人によっては受け止め方も様々なはず。(結局正解もよくわからず)

だから、ここは「昨日、吐きました」と、「吐く」という動詞を使っておけば、当り障りなかったんじゃない?と思うわけです。

当り障りない
しかしこの考え方が、外国語を学ぶ醍醐味を奪ってしまうのかもしれません。


■ 言葉の位相

フランス語の発想 日本語の発想との比較を通して』(春木仁孝 岩男考哲著)という本に出会いました。

この本、フランス語はこういう発想を持っている言語なんだよと、言語学を素人にもわかるように解説してくれています。読みながら、授業を受けているような感覚。フランス語を勉強したことがない人にも、十分にわかる内容です。

さて、フランス語は日本語に比べて抽象的で、一つの単語が複数意味を持っていたりします

難しい言語、というイメージを持たれやすいフランス語。ですが、私は案外習得しやすい面も感じていました。この本を読んで、何故私がそう感じてきたか、腑に落ちる所が多々ありました。とても端的に言うと、一つの単語をがんがん使い回せちゃったりするのです。

一方、フランス語には、同じものを呼ぶのに複数の単語があったりします。それがこの本で言う「言葉の位相」と関係します。

一つのものを、話している相手との関係性、使われる状況や雰囲気などで使い分ける。単に、丁寧語かスラングか(品の善し悪し)、ということではありません。

例えば、「車」。
私のフランス語の辞書で自動車と調べると、4つ単語が並んでいました。行政・技術用語だったり、日常語だったり。日常的に使う単語は二つ、voiture(一般的に使う)、bagnole(会話で使う)とありました。

一般的に使って、会話で使わない言葉って、何すか?って思いませんか。

本書には、この車という単語についてこんなことが書かれていました。

あるフランス人によると、自分は日常的にはbagnoleとは言わないが友達が素敵な車を買ったのを見たら「なんて素敵な車なんだ」と言うのにQuelle belle voiture!(What a beautiful car!)ではなくbagnoleを用いてQuelle belle bagnole!と言うだろうとのことでした。もしこの時にvoitureを使うと感情がこもっていない感じがすると言うのです。

『フランス語の発想 日本語の発想との比較を通して』

感情がこもった言葉、仲間意識や連帯感を感じる言葉という発想が、日本語にはあるでしょうか・・・?!

私の場合は、結局当り障りない、一般的に使うとされる前者(voiture)を頻用しています。間違いではないし、外国人の私が状況によって上手く使いこなせるのか自信がないのです。間違った状況で使うのを、避けたい。

ところが。

いくら外国人でもいつもいつも教科書的な単語や表現だけを使っていると、あいつはすました奴だとか、打ち解けない奴だと思われてしまうこともあるのです。下品にならず、なおかつ親しい関係を言葉遣いで築いていくのはなかなかハードルが高いのですが、同時に外国語を学ぶ醍醐味の最たるものではないでしょうか。

『フランス語の発想 日本語の発想との比較を通して』

痛いところを、どーーん!と突かれた感じでした。

結局、学ぶことを避けて通っているだけでしょう、あなた。と言われてしまったようです。

***

ですがね。

これ、なかなか難しいと思いますよ。現に本書でも、ネイティブでない者やフランスに住んでいないものにとっては非常に難しいと書かれています。辞書も万全ではないと。

言葉も生き物。完璧にマスターするのは無理だと割り切るとして、結局のところ、間違うことを恐れずにどんどん使っていくしかないのかもしれません。正直、辞書だけ眺めているだけでは、感覚的なものはなかなか掴みにくいですから。

それでいくと・・・。

冒頭で「ゲロ」を恐れずに使ったフランス人の彼。あながち言語の習得方法は間違っていないのではと、ハッと思ったりするのでした。


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