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『可処分時間』のポートフォリオ~非営利コミュニティの『人が来ない問題』とエンゲージメントについて~

はじめに:『人が来ない問題』について


私も色々ソーシャル・社会課題解決活動やSDGs活動、コミュニティ参加もしていますし、いくつかコミュニティ運営もしています。
そんな中、ご支援したり関わるNPOやコミュニティの代表・主要メンバーから「コミュニティに人が来ない」を相談されることはよくあります。

お金や契約でメンバーの縛りをかけているわけではない、非営利型のコミュニティを運営する多くの方にとってアルアルの問題だと思います。

『人が来ない』と言っても大きく二つあると思います。
①そもそもメンバー自体が少ない
②名簿上の登録メンバーは多いが活動や集まりに参加する人が少ない

『人が来ない』自体を問題と思う代表はメンバー集めの活動はしています。

そもそもコミュニティの設立理念に強い想いがこもっています。
コミュニティを知ってもらうためのWebやSNS発信をしたり、セミナー、イベントを開催したり入会説明なども行っている方は多いです。

その甲斐あって名簿上のメンバーはそこそこの数がいるコミュニティーは多いです。
Slack、Messenger、メーリングリスト、Discordなどには多くのメンバーがいます。
①そもそもメンバー自体が少ない」の壁は超えている団体も多いと思います。

しかし、実際に定例会を開催してもほとんどの人が来ない。
こういうコミュニティーもよくあると思います。
つまり『②名簿上の登録メンバーは多いが活動や集まりに参加する人が少ない」の状態です。

「うちは社会的にもいいことをやろうとしていて、ビジョンもミッションもしっかりしている。何で来ないんだろう?」
そう思うこともあると思います。

得てして「メンバーの意識が低い」に行きがちですし、学生など若者向けの活動をしていると「最近の若者は」という方向に行きがちです。

でも「最近の若者は」は人類史アルアルです。
かくいう私も、実は幽霊会員化しているコミュニティーや名簿だけ登録の協会は色々あります。

入会したのに行かないにはその人なりの理由があります。

この問題に対して私はよく『可処分時間の奪い合いに負けているのですよ』と言います。

コミュニティーへのエンゲージメント因子に関して

コミュニティー活動によく参加してくれるとは『エンゲージメントが高い』と言えます。
コミュニティー・キャピタルを研究し活動しているCRファクトリーさんというNPO法人があります。
CRファクトリーによると「良いコミュニティ」を「強くあたたかい組織」と定義しており、良いコミュニティには3つの因子があるとしています。

詳しくはCRファクトリー「強くあたたかい組織とは」をご参照ください。

CRファクトリーより

以下、「3つの因子」に関してCRファクトリーからの引用です

第1因子「理念共感と貢献意欲」

団体の活動理念への共感とその活動への貢献意欲が高く、「この団体を自分も一緒に担っていきたい」「とことんがんばりたい」と思える感覚が第1の因子です。

CRファクトリー「強くあたたかい組織とは」

第2因子「自己有用感」

団体への活動・関わりを通して、「自分は役に立っている」「必要とされている」と感じられ、自分は重要であると思える感覚が第2の因子です

CRファクトリー「強くあたたかい組織とは」

第3因子「居心地の良さ」

「人間関係が良好である」「メンバーと一緒に活動することが楽しい」「仲間といると落ち着く」と感じられる居心地の良さが第3の因子です。

CRファクトリー「強くあたたかい組織とは」

どれもコミュニティのエンゲージを考える上で大事なポイントだと思います。
しかし、僭越ながら私はもう一つ因子を足したいと思います。
それは・・・

第4因子「自己恩恵感」

です。
第2因子「自己有用感」と言葉は似ていますが、「自己有用感」は「自分が組織にとって有用と思われていると感じられる」です。

それに対して私が挙げた第4因子「自己恩恵感」「自分にとっての恩恵」(ベネフィット)です。

CRファクトリーの3因子には「自分自身のためになる」が入っていません。
これは「当たり前すぎるから」なのか、それとも「良い組織であることに利己的な因子は不要」と判断しているからなのか、それ以外の理由があるのかはわかりません。

また、そもそもCRファクトリーさんの「コミュニティ」は非営利無償やあるいは会費が発生するコミュニティだけではなく、NPO法人の有給職員など法人格を持ち報酬が発生するコミュニティが対象というのもあると思います。

しかしお金ではない「自分にとってのベネフィット」は、有給ももちろんですが、むしろ報酬が発生しないメンバーには必要だと思います。

『可処分時間』の奪い合いについて

だんだん本題に入っていきたいと思います。
「可処分時間」とは文字通り、人が自由に使える時間です。

仕事もあります、家庭も家事もあります、学生にせよ社会人にせよ学ぶ時間もあります。
資格勉強や社会人大学院なども強敵です。

もちろん、他のコミュニティ活動やプロボノ、ボランティア時間もあります。

さらに言えば読書する、NetflixやAmazonプライムで映画見る、テレビ見る、今ならワールドカップ見る時間と寝不足時間もあります。

TiktokやyoutubeやTwitterなどSNS見る時間、自分が投稿する時間も強敵です。

そうしたいろんな「時間を使うライバル」達と可処分所得時間の奪い合いがあって、その中で優先度が上位になったから、貴方のコミュニティのメンバーは今貴方の主催した定例会にいるのです。

ある団体主催の友人が「忙しい人にほど頼みたいことがある」と言っていましたが、名言だと思います。
貴方が「いてほしい」と思う人は、他の活動から見ても「いてほしい」のです。

人は「可処分時間」のポートフォリオマネジメントをしているのです。

エンゲージメントの壁

先ほど挙げた、コミュニティキャピタル4つの因子をもとに「人が来ない」構図を考えて生きたいと思います。
【4つの因子】
第1因子「理念共感と貢献意欲」
第2因子「自己有用感」
第3因子「居心地の良さ」
第4因子「自己恩恵感」

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図は「人が来ない問題」の理由を私なりに構図にしたものです。
大きく前半(オレンジの世界)と後半(青の世界)で分かれています。
7つの壁があります。
以下それについて考察していきます。

その団体への『スキ』の壁


①その団体を知る

まず知られないことには理念への共感も何もありません。
SNSやWebサイト、動画、Blog、地道な宣伝活動や集客イベント、セミナー講演etc。

まず知られることが第一歩です。
知られるための工夫は色々あります。

知ってもらって尚、興味を持たれなかったら、それはその人とは関心領域が合わなかっただけです。

②理念への共感(参加前)


代表や主要メンバーから直接話をすることは大事です。
話した上でで理念に共感されるかが入会への大きな壁です。

話した上で、「合わない」と思われたら、それは乗るバスが違ったのです。

③共感と貢献意欲(参加後)


さて貴方の新しい仲間が入会してメンバーになりました。

しかしいざ入っても、コミュニティが何をしているのかわかりません。
なんだかわからないけど、「ステコミ」とか「運営執行部」と言われている人たちが何をやるかを決めているようです。

全体像も見えなければみんながどんな活動をしているのかもわからないし、どういうプロセスで新しい活動が生まれるのかもわかりません。

定例会も、何かリーダーたちが報告したりワイワイ話していますが、自分は聞くことしかありません。話を振られることもなければ発言してよさそうな機会もありません。

もしくは、特に大規模コミュニティにありがちですが、「定例会」という名前のウェビナーのような説明を毎回聞くだけです。
ほぼ「耳だけ」です。
そこで最後に「質問ありますか?」と言われてもハードル高いです。

その状況だと「この組織に貢献したい」と思うハードルも高くなり、だんだん「耳だけ参加です」からのフェードアウトになりがちです

④居心地


どうにか、理念共感と貢献意欲の壁を越えました。
しかし、理屈じゃない「居心地」の壁があります。

合わない人、苦手な人、嫌いな人がいるかもしれません。
みんなの言葉遣いや言い方のセンス、時間やペースの感覚などが合わないのかもしれません。

時間やペースの感覚というのは、ペースが速いとか1回あたりの会議時間が長いとか、次の会議までのタスク量が多いとか会議時間が夜遅いとか朝早いとか仕事時間に影響が出るような夕方すぐとか日中とか…「ハードすぎ」という場合もれば、その逆で「ヌルすぎる・ユルすぎる」という場合もあります。

あと、明らかに一般用語じゃないコミュニティの中の専門用語で会話が進むとか、一般的じゃないツールやフレームワークを知ってること前提で作業が進んで聞きづらい雰囲気…などもありがちですね。

合う合わない以前に、食事会もなければ雑談タイムもなく、みんながどんな人かわからないのかもしれません。
そもそも、みんながどんなバックグランドや経歴を持つ人なのかわからないから顔が見えないのかもしれません。

比喩的な「顔が見えない」ではなく、オンラインで運営していてみんなカメラオフで物理的に「顔が見えない」というか、顔を知らないのかもしれません。
論理の場合も物理の場合もカオナシは怖いですよ。

「居心地が悪い」と思える要素は色々あります。

可処分時間の壁

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いよいよ本題です。
後半の青色のエリアの話です。

前半の【その団体への『スキ』の壁】はコミュニケーションで大部分解決します。
理念のしっかりしているコミュニティの代表や運営はコミュニケーションにも配慮するでしょう。
どうにか【その団体への『スキ』の壁】を超えたとして、次に出てくるのが【可処分時間の壁】です。

⑤自己恩恵感

いくら理念に共感出来て、みんないい人で飲み会や雑談が楽しくても、そのコミュニティの活動が自分に役立つと思えないとだんだん参加しなくなります。

「役に立つ・立たない」は色々あります。
例えば勉強会コミュニティなら、得るものがないとか簡単すぎるとか、逆に難しすぎるとか、自分が使わない内容かもしれません。

また、活動系のコミュニティで自分の成長に繋げたり自分の世界を広げたり自分のしたいことに繋がらない場合も該当します。

立ち上げ時の活動系コミュニティは「エンゲージを高めてから活動を創ろう」と思い、定例会のほとんどの時間を雑談にしているケースもあるかと思います。

しかし、初めて参加した人からしたら「雑談だけしている時間」と見えるかもしれません。
確かにみんないい人だし雑談も面白いですが、雑談だけするために自分のスケジュールを確保して参加したいほど魅力的な雑談なのかは別です。

雑談自体が悪いのではなく、コミュニティの趣旨や関心領域と関係なさすぎる雑談がほとんど大半になっているケースです。

雑談自体が楽しいとか気分転換になることを求めて参加する人が多いコミュニティの場合はこれで良いのです。

しかし、活動から経験して自分の成長に繋げたり自分の世界を広げたり自分のしたいことを成し遂げたい人にとっては、「雑談は面白いけど暇だったり気が向いたら行こう」からの「行けたら行きます」になり、やがて来なくなる、たまに来るというパターンもあります。

居心地が良ければそれでいいというものでもありません

⑥自己有用感(組織内)

個人的には『自己有用感』が大事だと思います。
自己有用感も2種類あると思いますが、まずは組織の中での話。

ちゃんと活動したりアウトプットっとしても感謝もねぎらいもなく、やるのが当たり前になっている場合、自己有用感は上がりません。
組織から個人への期待値ハードルが高い場合にありがちかもしれません。

それ以上に、そもそも『お役に立とうとしても「役」自体がない場合』というケースが該当すると思います。

これは更にいくつかのケースがあると思います。
①理念はあってコミュニケーションもよくても、雑談してばかりや、または「将来こんなことしたいな」という未来語りばかりで、実際のに動く活動がない場合

②または、他の人は色々アクティブに活動しているが、自分がやる活動がないし協力のお願いすらされない場合。
新しくその人が入った場合など、「まだよくわからないだろうから」という気づかいや「説明コストがかかるから」と放置する場合があると思います。

③さらに良くないケースとして、コミュニティの中で活動がない場合で、メンバーから「これをやりたい」と提案があっても実現されない場合です。
まだ「反対にあった」の方が、そこで論点に対して議論が起きますので提案に対して組織が向き合っています。
しかし、「いいですね、そのうちやりましょう」と言われたまま放置されるなど、暖簾に腕押しで誰も提案に対して向き合っていない場合、「自己有用感」は高まりません。

そもそも自分は何でここにいるんだ?となります。

活躍したい人に活躍の機会を用意するのは運営の大事な役目です。

⑦自己有用感(他との相対)

他の外部活動と比べて「こっちに自分がいても大した役に立たないしここは自分がいなくても何とかなる」「しかし、向こうは自分の予定を優先しないといけない」のケースです。

実は私はこのケースが多いです
自己紹介の投稿の中で参加しているコミュニティ活動も書きました。
これは自分が主催している、役職についているなど、タスクを盛ったり定例会に参加しているコミュニティ活動です。

幽霊メンバー化しているコミュニティや、チャットでのみ反応しているコミュニティ、たまにしか行けないコミュニティ、名簿登録と資料参照のみのコミュニティなども色々あります。

思いきり言い訳になりますが、予定が重なる場合「あっちは私がいなくても大して影響ない」「こっちは自分がいかないと進まない」の比較をして「こっち」を選び、そして予定が重なり続けるケースです。

決して、理念に共感していないとか居心地が悪いとか自分の役に立たないと思って行かないわけではありません、決して・・・
(参加できていなくて申し訳ありません)

アジャイルにギャップを知ろう

コミュニティの運営側、レギュラーメンバー、そして新しく入ってくる人たちの想いや求めていることと現実のギャップは常に何かしら存在すると思います。
そして、コミュニティやメンバーの成熟度に応じてギャップの内容も変わってくると思います。

コミュニティごとの文脈で在りたい姿も変わるので汎用的な正解はないと思います。
大事なのはそのギャップを「わかること」だと思います。

自分たちのコミュニティのやりたいことに対して、メンバーがコミュニティへ期待することとのギャップを把握するのは大事です。

そして、自分たちのやりたいことに対して足りていない活動があったら、できることをやるだと思います。

素早く気づいて、変えられることは合意形成しながら素早く変えていく、そのマインドが「アジャイル」です

※目的に対する期待値の可視化とギャップの可視化のツールやフレームワークも世の中ありますが、記事が長くなりましたのでそれはまた別の機会に

メンバーに過度な期待を幻想しない

「期待しない」というと冷たく突き放すようにも聞こえます。

しかし、よく考えてください。
今、貴方が当たり前に参加していると思う、定例会のレギュラーメンバーは上記の「7つの壁」を超えてアクティブメンバーになった奇跡的な人です。

まず、その奇跡的なメンバーに感謝するのが大事です。

価値観も期待値も時間の使い方も背景事情も人それぞれです。
過度な期待はお互いにとってストレスです。
期待があるから失望があるのです。

最後に~反省と教訓~

偉そうに色々書きましたが、自分がコミュニティ運営をちゃんとできているかというと、できていないことも多いです。

ここに書いたことも、今まで自分が参加してフェイドアウトしたコミュニティからの教訓の蓄積もありますが、自分自身のコミュニティ運営からの教訓の蓄積も多いです。

第1因子「理念共感と貢献意欲」
第2因子「自己有用感」
第3因子「居心地の良さ」
第4因子「自己恩恵感」

の4つの因子は自分がコミュニティを運営するときもですし、コミュニティに参加するときも大事にしたいことです。

自分の人生やキャリアを豊かに楽しくするコミュニティ活動を行いたいです。

この記事が皆様に何かしらお役に立てばうれしいです。

もしご興味を持っていただけたら「フォロー」「スキ」をいただけますと、記事を書く励みになりますし嬉しいです。


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