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“快適”と“倦怠”が渦巻く場所で 【#35】

生きて 生きて そして死ね 11/28(mon.)

ポーカーをしながらポツリポツリと観ていた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』をとりあえず全話観終える。かの有名な第10話は、『P.S. アイラヴユー 』と同じ物語構造となっており、観る者の涙腺を襲う。自分は『おおかみこどもの雨と雪』を観るたびに泣いてしまうほど、なぜか母子の絆の物語に滅法弱い。

自分はしがないライターに過ぎないけれど、主人公ヴァイオレットが従事する代筆業に重なるような職分もあり、相手のメッセージを汲み取り、文字に置き換える営為の尊さを、別の角度から感じることができた。作中の名言、「生きて 生きて そして死ね」はいつまでもこだまする。

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AM9時前に目覚める。コスタリカに来てから2週間、ここまで毎日ポーカー漬けの日々を送ってきた。ここで一旦、一区切りして、コスタリカの大自然を満喫する数日の国内旅行に出かける。

サンホゼ中心部から車を走らせて、20分もすると、街から森へ、景色は一変する。断続的な豪雨の中を直走って、最初に立ち寄ったのがエコツーリズム地として最近知名度を上げているという「PIERELLA GARDEN」。動植物に触れる前に、まずはコスタリカの現地料理が振る舞われる。

コスタリカに来てから基本的にはカジノ飯を中心としたジャンクフードばかりしか食べていなかった。自分は意外とローカルフードは敬遠してしまう方なのだ。それでも、せっかくなので頂いてみる。ケニアのローカル飯よりは確実に美味いし、それなりに栄養価もありそう。

20年ほど前までは一帯が農地だった場所を、新しい森として整備し直し、現在では立派な植生が辺りには広がる。その豊かな土壌に、中央アメリカでしかみることのできない動植物が群生している。

珍しい鳥の数々、綺麗な蝶、大きな葉の上で気持ちよさそうに昼寝するカエル、木のてっぺんでのらりくらりと暮らすナマケモノ、世にも珍しい白いコウモリの姿も。熱帯に息づく動植物たちの呼吸を感じる。

そこらじゅうにカカオの樹が植えられている。養蜂の箱にシロアリの巨大な巣。鳥たちのために吊るされたバナナの房の束。望遠鏡を覗き込むと、ヤマアラシがぐっすりと惰眠を貪っている。

動物・植物・昆虫、彼らも立派な地球の構成員である。その(ある意味で)手付かずの生態系のど真ん中をお散歩し、観察し、拝ませてもらう。我々人間とは違うリズムで脈打ち、生活を送る彼らの環世界の一端で、何を思うか、受け取るか、想像するかは、あくまでもぼくらに委ねられている。

この自然庭園を後にして、2時間強ドライブ。天然の温泉街La Fortunaを抜けて、本日のホテルにチェックイン。

晴天であれば、眼前に広大な火山を望める素晴らしいホテルロッジである。

リブアイを胃に収め、落ち着いてから、ジャグジーに浸かる。それも長時間浸かる。普段、湯船に浸かれる機会が皆無のため、ここぞとばかり浸かる。大雨に打たれようが、構わずにお湯に身体を浸せる悦びに与る。

就寝前に、少しだけ読書。千葉雅也さんの小説二作目『オーバーヒート』を読み終える。

前作に詰め込まれた哲学的思索部分は減ったように感じ、その分、日常風景と主人公の心象風景の割かれるページが多いような気がした。それでも、その文体はやはり地続きであり、個人的には内容以前に大好きなテイストである。

太陽がすべて──本当にそれだけが真理で、降り注ぐ太陽エネルギーを我が身ひとつに浴びるだけでカネが生じるなら、どこでも生きていけてどこで死んでもいい。だがそれは、論理がオーバーヒートした抽象論なのだ。人は抽象的な「点」じゃない。体がある。肉体が。かさがある。地球上で場所を占めなければならない。

森の街“モンテヴェルデ”から望むサンセット 11/29(tue.)

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