留学中に限界を感じた瞬間
前回の、「留学したら生理が止まった話」で出てきた潜在的ストレスのこと、もう少し紐解いてみようと思う。
私が留学生活を始めたのは、三十路も間近の20代後半。海外には、学生時代、会社員時代と、バックパッカーやら出張やら、一応のところ行き慣れてはいた。
だけど、それまで肌で感じてきた「海外」とはまた一味違う、今回の留学。
何が一番の変化だったかって、共同生活、ルームシェア。
なんでルームシェアを選んだかって、やっぱり語学上達には人と話すことでしょ!という、これまた留学あるある。
このポジティブで、オプティミスティックなシンキングが後々自分を蝕むことになるなんて。
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それまで、海外のゲストハウスのドミトリーだったり、寮生活だったり、シェアハウスだったり、人と共に暮らすことには耐性があるつもりだった。
最初の同居人は、旧ソビエト連邦のお国から来た18歳の女の子。
これがまた強烈だった。
彼女は、そのフロアの住人たちになんとなく馴染めず、孤立していた。もっと言うと、お荷物扱い。そんな状況に同情したりもしたのだが、一番近くに住んでいるルームメイトらしく、その理由を十分に思い知ることになる。
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まず最初に勘弁してくれ、と思ったのはタバコ。
そのアパートメント自体室内禁煙だったのだが、私が入居して来る前に一人でいる間、部屋の中でタバコを嗜んでいたのだろう。私が住むようになってからも、ちょくちょく帰宅すると部屋はタバコのにおいがした。
私は喫煙者ではなく、ぶっちゃけそばでタバコを吸われるのは好きではない。まして、自分の寝る部屋で吸われた日にゃあ、気持ちよく眠れたもんじゃない。
こちとら人にお願いごとをするのが苦手な性格、いろんなところから勇気をかき集めて彼女に言った、「タバコを部屋で吸うのは止めてくれないか」と。まあそもそも禁じられているから、そこで抵抗される要素はないのだけど、一応彼女は「わかった」と言ってくれた。
それから何日か経ったある日、部屋に帰ると内鍵がかかっていた。私が鍵をガチャガチャしたので気づいたのだろう、バタバタと音がして、彼女は慌てた様子で「おかえり!」と私を迎え出た。
部屋に入ると、そこには嗅いだことがあるあのにおい。まあ内鍵がかかっている時点で予想はついていたが、見事に私と彼女の約束は破られた。
大きくため息をつき、不機嫌そうに自分のベッドに腰掛けた私の様子を察したのだろう、彼女はタバコを吸ったことを白状してきた。そしてもう一度約束した、「もうやらない」と。
そんなこともあって、流石にその後はタバコで険悪になることはなくなった。
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次に頭を抱えたのは、部屋で粗相、口からキラキラのモザイクが流れるあれをやられた時。
その夜、彼女はものすごく酔っ払って、めずらしく12時に帰宅した。やたら感傷に浸ってるな、なんて思っていたら、次の瞬間にはキラキラ〜〜〜
もう自分がどんなリアクションをしたのか覚えてないが、隣の部屋の女の子が「どうしたの!」と部屋に駆けつけてくれた。
残念ながら、私も駆けつけてくれた彼女も、この状況に耐性がなく、違う部屋の、旧ソ連の母体から来た女子を連れて来てくれた。キラキラ女子を快方してくれる、頼もしいロシアン女子。
水を飲ませてはキラキラ〜〜〜
薬を飲ませてはキラキラ〜〜〜
薬のキラキラ時点で、耐性のない隣人は、「ちょっと!!その薬、それで最後のなのよ!!!もうないの、ちゃんと飲んで!!!!」とパニックの入り混じったエールを送っていた。
このフロアメイトたちのおかげでなんとか当人は落ち着き、事態は収束。夜中の1時、床に散りばめられた人様のキラキラを、同居人の私は一人片付けるのであった。
のちのち聞くと、飲みに言った先で、もともと苦手なマリファナをアルコールと併用し、気を失いそうになって、とにかく家に帰って来たとのこと。
なんかもう、色々と納得いかない。
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一番衝撃だったのは、バーだかクラブだかどこで出会ったか知らないが、夜中の2時に、「これ、友達のクリストフ!(だったかクリスチャンだったかクレーメンスだったかもう知らない)良いやつなの!」と男を連れ込んできた時。
まさか夜中の2時に初めましての挨拶をするなんて1ミリも思ってなかったし、「え、なにこいつ」と思うと同時に、心の中で
「良いやつは夜中の2時に人様の家に来ねぇから!!!!!!!!」
と総ツッコミを入れた。
幸か不幸か、その次の日、私は早朝のバスに乗る用事があり、その後その部屋で3人で過ごしたのは数時間だったのだけど、明かりが消えたあとも熟睡できなかったのは言うまでもない。
用事を済ませ、再び私が部屋に戻ると、「あいつ、私をすごく邪険に扱ってきた」とか言っていたが、その日から数週間たったある日、
「クリストフの目の色が思い出せないの。緑だったか、青だったか。」
とかなんとか言い出して、
「そんなこと知らんわ!!!!!!!!!!」
と私が心の中で叫んだのだった。
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他にも、友達の犬を預からないといけないんだ!と、連れ込まれたどこの誰だかわからない犬が私のベッドで寝ていたり(決して犬に罪はない)、私のシャンプーがとんでもなく減っていたり、彼女は完全昼夜逆転生活をしていたので私が活動したい昼間に部屋に居づらかったり、酒の勢いで夜中の1時にブリトー食べたい!と外に連れ出されたり、まあ私が「ノー」と言えばいいことも多々あったのだけど、
「ルームシェア、つら」
と思うには十分な時間を過ごした。
その次の半年も一人部屋の空きがないのでルームシェアをして、状況は幾分かましになったものの、結局この歳で、完全にプライベートがない日常を過ごすのは無理なんだな、ということを思い知ったのだった。
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今このエピソードを振り返ると、もはや潜在的なんかではなく、立派なストレスだったな、と自覚する。
その当時の私は、せっかくの留学生活中、ネガティブな思考に陥りたくない、と楽しいと思い込む努力を無意識のうちにしていたのだと思う。
最終的には限界に気づき、全くの他人とルームシェアをするにはもう向いていないんだ、と思うと同時に、そういう部分の感覚も年齢とともに変化していくんだ、ということを知るいいきっかけだった。
その後、一人暮らしを初めてその快適さに喜びが爆発したのも、この経験があったから。
何かを試して自分の「好き」を知ることも良いけれど、その反対、自分の「これはだめ」を知るのも、気持ちよく生きていくには大事だと、わかったのだった。
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