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小学生のころ、私は団地に住んでいた。

住んでいたエリアには綺麗で部屋数も多いベランダ付きの「お金持ちの団地」と、古い感じで部屋も少ないベランダ無しの「裕福でない団地」に分かれていた。子供の数は少なく、保育園~中学生くらいまでの子どもは名前こそ知らないけれど、皆顔見知りだった。

私は母子家庭で「裕福でない団地」に住んでいた。だからといって差別があったわけじゃない。むしろ幼馴染ばかりで仲良しだった。

小学校3年生くらいの夏休みのある日、暇を持て余した友人たち5人といつも遊んでいた公園に集まっていた。「なにしよう?」となってもとにかく暑い。外で遊ぶにしても限界だったから、その公園から一番近い棟に住む友人の家へ行って遊ぼう、なんならアイス食べさせてもらおうということになった。

押しかけて行った私たちだが、家主である友人(以降Aとする)も一人で留守番していたので笑いながら歓迎してくれた。もちろんアイスも食べた。

A宅は私と同じで「裕福でない団地」狭いが、小学生が遊ぶには十分だった。

私たちはリビングで騒ぎながら、さながら宴会状態。Aが飲み物を取りにキッチンへ行った時、私は何気なく窓へと目を向けた。

きつい日差し、風もなく動かない洗濯物、その向こう側から女の人がこちらを見ていた。

「うわっ!」とは思ったが、正直な話この団地エリアで不審者が出ることは日常茶飯事。通り魔が出ただの変態がいただの、特段珍しくもない。こちらを見ている女の人は確かに不気味だったが、変な格好をしているわけではないし普通だな、という感じで誰かに言うこともなくスルー。そんなことより、今から何のゲームをするかのほうが大切だった。

それからどのくらい時間が経ったのだろう。ふと窓を見ると女の人は消えていた。「あ、いなくなってる」という私の呟きを聞いた隣りの友人が「あ、本当だ」と、同じく窓を見る。

私たち二人の様子に他の友人たちも窓を見る。

「なにが?」と聞かれたので「さっきさ~」と女の人の話。

「え、誰もいなかったよ?」「いたよ!」「見てないけどなあ」と言い合う中、Aがずっと黙っている。

「Aどうした?」

「その女の人って洗濯物の向こう側にいたの?」

「そうそう!じーっと立ってこっち見てた」

「ここ5階なのに?洗濯物の向こう側に立ってたの??」

そうAに言われ、誰も言葉を発せなくなった。

冒頭でも少し述べたが、Aの家は「裕福でない団地」でベランダがない。そういった家は、窓を開けてすぐのところにつっかえ棒で物干し竿を作り、洗濯物を干すのが普通だ。私の家もそうだった。

ベランダのない5階のAの家。あの女の人は、一体どうやって洗濯物の向こう側に立っていたのだろう。


おわり。

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