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自由になりたくて 摂食障害の私 体験記⑮

電車に乗って知らない場所の景色を眺めていた。
いつも会社にいる時間、
透明人間になったような、
本当は居ちゃいけない場所に居るようで、
でも何かから解放された気持ちだった。

誰も私が会社を無断欠席してるなんて知らないし、関係ない。

そう、全く関係ない。

そりゃ会社は困るかもしれない。

まだ採用して間もない新入社員が行方不明で、
家からは出社したはずだと聞かされれば、
捜査するしかない。

非常に幼稚で面倒な事を私はしてしまった。
ただ一言
「今日は体調不良で休みます」
と会社に電話すればこんな大袈裟な事にならずに済んだ。

そうやって、上手くウソを付く事が出来ずに、
ウソはいけないと教わって育った自分の真面目さが嫌だった。
誰も傷つかないウソならついても良いのに。
もっと楽に生きたかった。

電車の窓からは徐々に潮の匂いが立ち込めてくる。

中学高校と、海とは無縁の環境だったけど
その風の匂いがたまらなかった。

会社に行く事が全てで、
摂食障害で苦しんでいた日常が全てで、
人生はもっと楽しい事が沢山あるはずなのに、
それに飛び込んでいく勇気がなかった。

定期まで行ける最終駅で降りて、
何時間かぼーっとしていた。

携帯電話が気になって電源を入れた。
何十件もの留守番電話と着信があった。

またすぐに電話が鳴った。
恐る恐る出ると、母の声だった。

「大丈夫なの?無事なんだね?」
「うん」
事故にでも遇ったんじゃないかと心配してくれていた。
確か怒られた記憶はない。
相当心配させてしまったと反省したが、
明日からまた会社に行かなければならないのかと落胆し、現実に引き戻されながら帰った。

つづく

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